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チベットの民族宗教「ボン教(བོན)」の儀式音楽を追求するロシアのパフォーマンス・グループPhurpaの元メンバーであるDimitry El-Demerdashiと結成したMANSURでの作品に近年は力を入れていたJason Köhnenが、メインのソロプロジェクトBong-Ra名義でのニューアルバム『Meditations』をTartarus Recordsから8月に発表することがアナウンスされた。

現在、BandcampにてLPとTAPEのプレオーダーが始まっており、アルバムから1曲ストリーミングが公開中。前作『Antediluvian』と同じく、ドゥーム・メタルとジャズを組み合わせたBong-Ra流のドゥーム・ジャズを展開しており、前作よりも強固な世界観を完成させている。

マルチ奏者であり民族楽器の専門家でもあるDimitry El-Demerdashiとの楽曲制作から得られた経験が活かされているように感じられるエキゾチックな楽曲は、Painkiller『Buried Secrets』やNaked City『Leng Tch'e』などでJohn Zornがジャズ、ダブ、ドゥームを高次元でミックスした作品に通じるものがあり、Jason Köhnenが演奏家/作曲家として更に進化しているのを感じさせる。

ドゥーム・メタルとブレイクコア

Jason Köhnenはドゥーム・メタル/ストーナー・ロック・バンドCelestial Seasonでドラマーとして90年代前半から活動しており、2000年代にはドゥームとジャズを混合させたThe Mount Fuji Doomjazz Corporationでも作品を発表。White DarknessやWormskullといったプロジェクトでもドゥーム・メタルを取り入れており、Jason Köhnenの音楽表現においてドゥームの要素は欠かせなかった。

ブレイクコア/ジャングルをメインとしたBong-Raでもドゥーム・メタルにフォーカスした作品を幾つか残している。2013年に発表されたIgorrrとのコラボレーション・シングル『Tombs / Pallbearer』でドゥーム・メタル+ブレイクコア=ドゥームコアというスタイルを提示。ドゥーミーなバンド・サウンドに倍速でアーメン・ブレイクが叩き込まれ、ドゥーム・メタル/ブレイクコア双方の象徴的な部分を中和させた興味深い作品であった。この路線(ドゥームコア)は、Bong-RaとGore TechによるAuthor & Punisherの楽曲を再構築したEPや、DJ Skull Vomitのリミックスなどで押し進めていた。

『ブレイクコア・ガイドブック 上巻』でのBong-Raのインタビューでは、ドゥーム・メタルに対する想いや、MANSURが始まるキッカケにもなったと思われるモロッコ訪問についてなどが語られている。

そして、2016年にリリースされたBong-Raの『Palestina』というシングルで自身のドゥームコア・スタイルを大幅にアップデートさせ、驚く程にレベルの高いポスト・ドゥーム・メタルと言える傑作を生み出した。Bong-Raのブレイクコアからの引退表明後は、ドゥーム・メタルとジャズを混合させたドゥーム・ジャズの可能性を追求し、MerzbowやKK Nullとのライブでお馴染みのBalázs Pándiをドラムに迎えたライブ活動とアルバム『Antediluvian』を発表し、Phurpaとのツアーを行う。

2020年にCelestial Seasonはアルバム『The Secret Teachings』を発表。同年、過去作を纏めた『Doom Era』と『The Merciful』も発売され、今年4月にはニューアルバム『Mysterium I』を発表した。

Bong-Ra以外のブレイクコア・アーティストでは、Gore Techがドゥーム・メタルに影響を受けた楽曲を製作しており、Northern Lord名義にてベースミュージックとドゥーム・メタル/サイケデリック・ロックをミックスした作品を発表している。End.UserはI Am The Sun名義でインダストリアル/ドゥーム・メタル的な楽曲を残し、DJ Skull Vomitもドゥーム・メタルを自己流にアレンジした楽曲を発表している。

異種格闘技的な展開

以前からSUNN O)))とPAN SONICのコラボレーションを収録したレコードや、ダブステップ・レーベルLoDubsのコンピレーションにVex'dによるNadjaのリミックスが収録されるなど、ドゥームを多角的に解釈した実験的な作品は生まれている。

近年はRozzer名義でドープなジャングルをリリースしているMatthew RozeikのユニットNecro Deathmortはポスト・ドゥーム・メタル的な活躍を2000年代~2010年代前半に展開し、Ted Parsons(Swans/Prong)はIDM/グリッチ系の電子音楽家Simon Smerdon(Mothboy)と共にGator Bait Tenとしてドゥーム・ゲイズ/プログ・ドローンというスタイルを提唱。BorisとMerzbowのコラボレーション・アルバムもドゥームの再解釈に繋がったと思われる。

そして、2014年に発表されたThe Body『I Shall Die Here』は一つのターニングポイントになった。The Haxan Cloakをプロデューサーに迎えて作られた『I Shall Die Here』は、インダストリアル・テクノ~レフトフィールド・ベース周辺の動きに取り込まれ、The Bodyはバンド・シーン以外からも評価を受ける。
同年、The BugとEarthのコラボレーション・シングル『Boa / Cold』や、インダストリアル・ドゥーム・バンドkhostの1stアルバム『Copper Lock Hell』、ドゥーム・メタルと親和性が強かったGodfleshの復帰作『Decline & Fall』などが立て続けに発表され、エクスペリメンタル・メタルと称されるカテゴライズがトピックとなっていった。

ワンマン・インダストリアル・ドゥーム・バンドAuthor & PunisherはPhil Anselmoのプロデュースを受けてアルバム『Melk En Honing』を発表。重工なインダストリアル・ドゥーム・サウンドはそのままにキャッチーな側面を広げていき、Relapse Recordsからもアルバムをリリースした。

国内では、ENDONのリミックス・アルバム『Bodies』にてGoth-Tradはデモニックな電子パルスがドゥーミーに鳴り響くリミックスを披露。その後、Goth-TradはDie-SuckとMasayuki Imanishiと結成したEartakerで傑作アルバム『Harmonics』を発表する。

様々な音楽の要素を取り込んだドゥーム・メタルが世界中から生まれてきており、バンドという形態に拘らずユニークな活動を展開するアーティストが増えて来ている。
きっと今年も素晴らしい作品に出会えるのだろう。まずは、8月にリリースされるBong-Raのニューアルバムに期待したい。


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