見出し画像

日本のアニメを使ったハードコア/ベースラインから現代のRaveミュージックへ

前回のCartoon Rave/Toytown Technoの続き。ここからは日本のアニメをサンプリングした海外のリリースを通して、Cartoon Rave/Toytown Technoが残したものについて記録する。

The Prodigy「Charly」を筆頭にアニメをサンプリングしたRaveミュージックは90年代前半にCartoon Rave/Toytown Technoとカテゴライズされ、幾つかの歴史的大ヒットを残すが、Raveシーンからは強く批判され、メディアからもネガティブな焼き印を押された。だが、2000年代に活躍した様々なジャンルのプロデューサー達はCartoon Rave/Toytown Technoを原体験としており、これはほんの一例であるが、ダブステップ・シーンの最重要人物であるLoefahはShaftの「Roobarb and Custard」をリスペクトする発言をしている。

Cartoon Rave/Toytown Technoの下地はLuna-C(Smart E's)の影響もあり、ハッピーハードコアにも関わっていき、更にはそこからJ-Coreのルーツにも繋がっていると思われる。1992年にLuna-CがSmart E'sとしてリリースした「Sesame's Treet」は全英2位、全米60位という驚異的な大ヒットを記録し、「Sesame's Treet」のインパクトはその後のダンスミュージックにも確実に影響を与えているが、Luna-Cとしての功績も計り知れない。

Luna-Cの日本での人気は特別なものがあり、Luna-Cの手法やメンタリティーは日本のハードコア・シーンにも強く影響を与えているのではないだろうか。2003年に日本からのリクエストを受けて作られたという12"レコード『Ataru』は、アニメ『うる星やつら』の「ラムのラブソング」をブートレグ・リミックスした一枚。何度か来日経験もあり、Luna-Cは日本のDJ Evilとのコラボレーションやホンダレディ、DJ Technorchのリミックスを手掛けるなど、日本との繋がりも強い。
Luna-Cのサンプリング・スタイルはイギリスのハードコア・シーンから日本のハードコア・シーンにも流れていき、2000年代のJ-Coreが展開したブートレグ・リミックスやマッシュアップのルーツの一つと見える。

「ラムのラブソング」といえば、The Speed FreakがThe Shapeshifter名義で1995年にリリースした12"レコード『One More Record You Will Hate』には「We Love Lum」という「ラムのラブソング」のブートレグ・リミックスが収録。The Speed Freakの手法とメンタリティーも日本のハードコア・シーンに深く浸透しており、「We Love Lum」もJ-Coreのスタイルに決定的な影響を与えたと思われる。

日本のアニメをサンプリングした海外のハードコア・テクノは多くはないが、印象的なものが幾つかある。2006年にインダストリアル・ハードコア界の重鎮ユニットThe Outside AgencyはFracture 4とのコラボレーション作‎『Ten Inches Of What?』収録の「Macrossed」でアニメ『マクロスプラス』の主題歌「VOICES」をサンプリング。ここでも一足早く、The Speed FreakはBiochip C名義で1998年発表のアルバム『Breakdown』収録の「Sleepless In Osaka」で「VOICES」をサンプリングしていた。

2009年にはUKハードコアのパイオニアであるHellfishが『The House Of 1000 Kick Drums / Fishika』収録の「Fishika (Dedicated To Ramirez) 」で『パブリカ』の主題歌「白虎野の娘」をサンプリングしている。ハードコア・テクノから派生した初期ブレイクコア・シーンで活躍していたSociety Suckersはアニメ『らんま1/2熱闘編』主題歌「絶対!Part2」のブートレグ・リミックス「Zettai Remix」を12"レコード『Cheesemonsters Are Go!』に収録。このレコードにはDA PUMPの「 if...」をサンプリングした曲も収録され、過去にはハロー!プロジェクトの「かけっこかっこ」のブートレグ・リミックス「Kakke Ecko (I Love J-core Forever Mixxx)」というのもリリースされている。
主題歌ではなく、アニメの劇中セリフをサンプリングしているケースも結構あり、Atari Teenage Riotの「Start the Riot!」では『3x3 Eyes』の英語版からサンプリングされたセリフが使われている。

Cartoon Rave/Toytown Technoの濃い血筋を受け継いでいるのがKanji Kinetic率いるミュータント・ベース勢である。Kanji KineticがDJ SHARPNELからの影響を公言しているのは、以前ここでも記事にしているが、Kanji Kineticは『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』の主題歌「いままでのあらすじ」など、様々なアニメとゲームをサンプリングしたトラックを残している。
Kanji KineticとスプリットをリリースしていたSubmerseは更に多くのアニメをサンプリング/ブートレグ・リミックスしていた。彼等のアニメ・ネタのベースライン・ハウスは非常にハイクオリティで10年以上前の曲であるが、今でも十分に通用するものばかりだ。

ミュータント・ベースからのファウンデーションを次のステップに上げたのが、元6 Figure GangのメンバーでもあるYazzus。彼女は筋金入りのアニメ・ファンであり、自身のBandcampで『ジョジョの奇妙な冒険』『サムライチャンプルー』『ソウルイーター』『文豪ストレイドッグス』『グレンラガン』などのブートレグ・リミックス集『THE ANIME PACK』をリリースしている。
DJ Kuronekoはベースライン・ハウスやUKガラージ、ジャングルと日本のアニメの要素をミックスした曲を披露し、ミュータント・ベース以降の進化したスタイルを提示した。また、アートコア的なドリーミーなジャングルとアニメ的なサウンドの融合も進んでおり、MANAPOOLとレーベル†ChaoGardem†がその方向性を広げている。Yazzus、DJ Kuroneko、MANAPOOLの周辺には似たようなスタイルが集まっており、Post Raveとはまた別の新しいRaveミュージックの動きが起きている。

Cartoon Rave/Toytown TechnoがRaveシーンで拒絶されていた90年代から想像すると、日本のアニメをサンプリングした曲がこんなにも多く生まれ、それが各国の人々に支持されている現代は夢のようである。ストイックなマッチョイムズやアンダーグラウンド信仰心にも憧れる部分は多々あるし、正しいと感じる思想もあるが、それによって他の表現や手法が攻撃の対象にされるのはいつの時代でも違和感を覚える。まあ、サンプリングというグレーな手法を使っているので、常にリスクはあるし、原曲またはサンプリング元のアニメなどのファンからするとまた違った意見があるのは当たり前であるが。。まずは、リスペクトを持ってこれからも様々なカルチャーが影響を与え合い、平和的に作品が生まれるのを期待したい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?