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異色なリミックス・ワーク

新しい音楽のスタイルが生まれるには様々な要因がある。レコードの回転数を変えたことによって生まれたものや、機材のトラブルによって偶然生まれたもの、技術の発展によって生まれたものなど様々あるが、リミックスという手法/コラボレーションで新たなスタイルが生まれることもある。

BeckとAphex Twin、BjorkとCARCASS、坂本龍一とRichard Devine、hideとCorneliusなど、異色な組み合わせによるリミックスはときに思いがけない発見があり、新しい音楽の青写真ともなる。

今回は、個人的な観点から新たな何かを生み出したかもしれない異色なリミックスをピックアップして紹介したい。

Boom Boom Satellites – Sloughin' Blue (IDP's Virtual Dub)

2001年にリリースされたBoom Boom SatellitesのCDシングル『Sloughin' Blue』に収録されているIndopepsychicsのリミックス。

IndopepsychicsはDJ Kensei、NIK、D.O.I.によって90年代中頃に結成されたユニット。ヒップホップの実験精神を元に、様々な電子音楽を貪欲に取り込み独自に解釈した作品を発表。日本のエレクトロニカ/IDMの歴史において最重要なユニットである。

この「Sloughin' Blue(IDP's Virtual Dub)」は、ミニマルでダビーなベースが全体の中心にあり、その中を霧の様な薄く透明な電子音が揺らぐ心地よい音像に浸れるリミックスだ。Basic Channel/Rhythm & Sound、Kit ClaytonやPoleなどの~scape周辺のミニマル・ダブを模範としつつも、Indopepsychics独自のSFチックな電子音と世界観、音の配置が活かされた興味深いリミックスである。

Indopepsychicsには「Tokyo TEKH Dub」というダブを多角的に表現した名曲があり、彼等のプロダクションにおいてダブは欠かせないものであった。「Sloughin' Blue(IDP's Virtual Dub)」では、後期Indopepsychicsが追求していたダブの可能性が色濃く反映されている。Indopepsychicsとして発表する作品には無いものがあり、この方向性の彼等をもっと聴いてみたかった。

Boom Boom Satellitesはポスト・パンク的な感覚でダブを取り入れた曲を残しており、2000年に発表された「FOGBOUND」という曲はダブステップに通じるものがある。Boom Boom Satellitesのリミックス・アルバムにはDJ Krushが起用され、イベントではDJ BakuやRebel Familiaとも共演。ブレイクビーツを共通言語として、国内のアブストラクト・ヒップホップやドラムンベース系プロデューサーと接点を持たれていた。Indopepsychicsのリミックスは、彼等周辺のジャンル/シーンが友好的に近づき、クリエイティビティを共有した素晴らしい瞬間を記録したものだと思う。

ちなみに、日本のドラムンベース/ジャングル・シーンを支えたDazzle-TによるBoom Boom Satellitesのリミックス「Soliloquy (Dazzle-T's Headroc Mix)」はイルビエント~ドラムンベースの理想的な混合スタイルとして非常に優れているので、こちらもチェックして欲しい。

The Bug - Skeng (Autechre Remix)

2010年に発表されたThe Bug『Infected』収録のAutechreによるリミックス。
原曲「Skeng(feat Killa P & Flowdan)」は2007年にHyperdubから12"レコードでリリースされ、ダブステップ・シーンを中心にヒット。The Bugのリディムに、Killa PとFlowdanの容赦ない殺気が伝わってくるリリックとフロウが合わさり、グライムの核となる部分が浮き彫りとなったタイムレスなクラシックである。

Autechreのリミックスでは、ボーカルはそのままに原曲が纏っていたダーティーでダークな側面を倍増させた無機質で不気味なアブストラクト・グライムに魔改造。どことなく、David Lynchの映画を見ているような気分にもさせてくれる。後に出てくる奇形グライムを先取りしたような作りでもあるが、DJプレイでも使いやすく、今でも十分にフロアで機能するリミックスだ。

Autechreは日本との繋がりが強く、Buck-Tick「Iconoclasm (Don't X Ray Da DAT Mix)」、Soft Ballet「Jail Of Freedom (Jailtilsli)」、Nav Katze「Happy? (Qunk Mix By Autechre)」、Merzbow「Ecobondage [Ending] Ae Remix」といったリミックスや、Schaft「SKF10047」、濱田マリ「アイレ可愛や」のミックス/アレンジを手掛けている。異色なリミックス・ワークを長きに渡って行っており、Stereolab、Earth、Skinny Puppy、少し前ではSophieのリミックスも話題となった。

The Bugもリミキサーとして素晴らしい腕前を見せており、Thom YorkeやBeasti Boysにリミックスを提供。どんなときでも自身のスタイルを曲げずにリミックスにも真剣に向き合っている。

D.A.V.E. The Drummer – Hydraulix 9 (Proket Remix)

UKの大ベテラン・テクノDJ/プロデューサーD.A.V.E. The Drummerの曲をドラムンベース・アーティストProketがリミックス。ドラムンベースにテクノをミックスしたテクノイドというサブジャンルにおいて非常に重要な役割を果たした。

2008年にSubsistenzから発表されたD.A.V.E. The Drummer『Hydraulix 9 Rmxs』には、ProketとPropagandaのリミックスが収録。今作によってテクノイドは大きく進化したと思う。Subsistenzはテクノとドラムンベースの混合を押し進めており、The Panacea、Cooh、Current Valueがテクノ・トラックをドラムンベース化させたリミックスを残している。これらの作品がテクノイドの可能性を広げ、クロスブリード/ハードコア・ドラムンベースに繋がる道筋を作り上げた部分もあるだろう。

近年、4x4なドラムンベースが再び盛り上がっているが、このタイミングでSubsistenzやOffkeyのカタログを聴き返すと新たな発見があるはずだ。

Black Ganion - Method (Goth-Trad Remix)


グラインドコア~ハードコアを主体としながら幅広い音楽の背景を感じさせる厚みのある作品とライブで高い評価を受けているバンド、Black Ganionが2007年に発表したアルバム『First』のシークレット・トラックに収録されていたGoth-Tradによるリミックス。

ドゥーミーなビートとアグレッシブなベース、そこに剥き出しなスクリーミングが重なり、Goth-TradのブルータリティがBlack Ganionを通じて全開。元々、Goth-Tradはグラインドコアなどのエクストリームなバンドミュージックも好きだと公言しており、Rebel Familiaの2ndアルバム『Guns of Riddim』収録の「The King Of Gladiator」には数々の国内ハードコア・バンドのボーカルが参加。だが、Goth-Tradとして、それらの要素を自身の音楽にダイレクトに反映させたのはこのリミックスからかもしれない。

Black Ganion「Method (Goth-Trad Remix)」はSkreamのMix CD『Watch The Ride』にも収録されたこともあり、海外のダブステップ・ファンにも広く知られており、2008年には12"レコード化もされている。
後に、Goth-TradはENDONのリミックスも手掛け、エレクトロニック・ドゥームバンドEartakerの活動も始動。Secret Thirteenに提供したミックスでは、彼のアヴァンギャルドでエクストリームな側面が垣間見える。

以上、今回は4つのリミックスを紹介したが、まだまだ興味深い異色な組み合わせでのリミックスはあるので、またの機会に紹介したいと思う。



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