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【TMG Ⅰ】B'z, Mr.BIG, NIGHT RANGER, 日米のトップ・ミュージシャンが競演して出来たサウンドは…?


前年の2003年はB'z15周年。
Pleasureツアー、渚園での公演も成功させ、明けた2004年はB'zのふたりにとってソロ活動に打ち込む年となった。
稲葉浩志が2ndソロアルバム『志庵』を制作する一方で、松本孝弘はアメリカのトップミュージシャンとのバンド結成というサプライズをもたらした。

その名もTak Matsumoto Group(TMG)。明らかにマイケル・シェンカーを意識したバンド名、そしてそのメンバーの豪華さに全松本ファンが沸き立った。

ヴォーカルには元Mr.BIGのエリック・マーティン。ベースは元NIGHT RANGERのジャック・ブレイズ。2003年、B'zのサンフランシスコ・フィルモアでのLIVE-GYMに二人が来場したことがTMG結成のきっかけとなった。

スティーヴ・ヴァイの楽曲への参加、エアロスミスとの共演などロック界のビッグネームとの交流はあったものの、松本孝弘が書いた曲をアメリカのトップシンガーの一人であるエリック・マーティンが歌ったら、一体どんなケミストリーが生まれるのか。
B'zファンとしては期待せずにはいられない展開だった。

ベースとなる楽曲のデモを松本が制作し、それにエリックとジャックがアイデアを盛り込んでいくという制作過程となった。
B'zではメロディーラインまで基本的に松本が手掛けているが、海外のシンガーはメロディーと詞を一緒に考えるスタイルが主流であるため、松本としてはメロディの余地を残したうえで仮曲を伝えていく、という普段とは違った姿勢が求められたという。

全体的に「和」の雰囲気が漂い、2002年にリリースしたインストゥルメンタルアルバム『華』を思わせる面がある。松本はライブやレコーディングなどで海外に行く機会が増えたからこそ、自分のルーツを見直し、日本的な旋律を意識することが増えたのだという。

確かに『TMG Ⅰ』には時おり三味線や琴を思わせるサウンドが導入され、日本音階が使われている箇所もあるが、やはりベースには強固なハードロックがある。
2000年代らしくダウンチューニングも多用したそのヘヴィな音像は、20年を経た今でも新鮮に感じられるはずだ。

楽曲の制作からレコーディングまで一ヶ月半と短い期間であったが、「ライブでみんなが知っている曲をできるように」という思いから全14曲と充実のラインナップとなった。

『TMG Ⅰ』は2004年7月5日付のオリコン週間アルバムランキングで一位を獲得。
B'zでは一位の獲得はもはや指定席のようになっているが、全英語詞のこのアルバムが日本のヒットチャートで一位を獲得したことは松本にとってうれしい知らせだったようだ。

TMG メンバー

エリック・マーティン(Vo.)

日本でもおなじみのMr.BIGのヴォーカリスト。自らの名を冠したエリック・マーティンバンドなどで活動した後、Mr.BIGの一員として1989年にデビュー。1991年には「To Be With You」が全米No. 1ヒットを記録した。

エリックと日本との関係は深く、2008年にリリースしたJ-POPのカヴァー集『MR. VOCALIST』は洋楽チャート1位を記録し、シリーズ化されるほどのヒット作となった。

TMGへの参加は、Mr.BIGがいったん解散していた時期にあたる。Mr.BIGはドラマーのパット・トーピーの逝去もあって解散を発表し、2023年7月に日本でフェアウェル・ツアーを開催したことも記憶に新しい。

エリックの声質は一聴してそれとわかる特徴的なもので、TMGの楽曲の中でもその個性はまったく薄れることなく存在感を発揮している。


ジャック・ブレイズ(Ba, Vo.)


ジャック・ブレイズもエリックと同じくサンフランシスコをホームとするミュージシャン。ステージでは主にベースとヴォーカルを担当するが、コンポーザーとしての能力にも秀でている。
1980年代から1990年代にかけてナイト・レンジャー、ダム・ヤンキースを率い、「Don't Tell Me You Love Me」(1982)、「Sister Christian」(1983)などのヒット曲をもつ。
松本はダム・ヤンキースのファーストアルバムの音作りを気に入り、担当したアンディ・ジョーンズにB'z「Real Thing Shakes」(1996)のプロデュースを依頼している。

松本いわくジャックはたいへんな人格者で、ヴォーカリストとしての実績にも関わらず出しゃばって「歌いたがる」こともなく、それでいてエリック不在のテレビ出演では見事に一人でヴォーカルを務め上げた。
ジャックなくしては、TMGの充実した活動はなかったに違いない。

ブライアン・ティッシー(Dr.)


レコーディングされた音源のほとんどでドラムを担当したのはブライアン・ティッシー。ホワイトスネイクやスラッシュとの活動で知られ、B'zでは「juice」(2000)のパワフルなドラミングで強烈な印象を残した。
〈B'z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-〉のツアーメンバーも務め、コロナ禍に発信された「HOME」のバンドセッション動画でその姿を見ることが出来る。


クリス・フレイジャー(Dr.)


レコーディングのメインドラマーだったブライアン・ティッシーは日本でのツアーに参加できず、ライブではクリス・フレイジャーが代役を務めた。
クリスもブライアンに劣らない才能をもつドラマーで、同じくホワイトスネイクやスティーヴ・ヴァイとの作品を残している。
中でも、スティーヴ・ヴァイのソロ・ギタリストとしての出世作となった『Passion and Warfare』(1990)のほとんどでドラムスを務めたのがクリスであることは、特に誇っていい実績だろう。


『TMG Ⅰ』全曲紹介


1.OH JAPAN 〜OUR TIME IS NOW〜


アルバムの一曲目「OH JAPAN 〜」は先行シングルとしてリリースされ、オリコン最高3位を獲得した。
もともとテレビ朝日系のスポーツ番組に提供することが決まっていた楽曲で、そのため歌詞の内容も日本の魂を誇り高く歌い上げるものになっている。
さらに2年後の2006年、第一回WBCで優勝した王貞治監督率いる野球日本代表の活躍を受けて、「王ジャパン」との語呂合わせから各局でこの曲が使用されることになったので知らず知らずのうちに耳にしている方は多いはずだ。

冒頭でミステリアスな和音階のピアノフレーズが始まり、松本が歌う日本語詞のラップが入る。あくまで基調はハードロックだが、なんとも不思議な味わいのある楽曲で、他に例を見ない独特の魅力がある。


2.Everything Passes Away


荘厳さを感じさせる琴の音像から、図太いサスティンの効いたギターがうなりを上げて幕を開ける、スケールの大きな曲。
松本はこのとき新たにギブソンと開発したダブルカッタウェイモデルだけでなく、7弦ギターも併用している。バッキングの音はこの頃のB'zと比較しても特にヘヴィで重心が低く、分厚いギターの壁を作り上げている。

余談であるが、レスポールより弾きやすく軽量化を目指してダブルカッタウェイのプロトタイプを作ったところ松本は音の厚さに不満を持ち、結局完成品のボディは分厚く、レスポールとさほど変わらない重量になってしまったという。

夏に開催された〈Dodge the Bullet〉ツアーでは、ライブのオープニングを飾る楽曲となった。

3.KINGS FOR A DAY


ロングアイランド生まれのエリック・マーティンがニューヨークを歌う。「ブルックリン」という地名が登場するように、若い頃はニューヨークで暴れまわって天下を取ったような気分だったよね、というストーリーをもつ曲。
曲の発する雰囲気は、フィル・ライノット/ゲイリー・ムーア「Out in the Fields」(1985)からボン・ジョヴィ「Last Man Standing」(2005)へと続く流れの中にある。

4.I Know You by Heart


松本孝弘としては珍しく5拍子を用いた曲(B'zでは「FIREBALL」の2ndbeat「哀しきdreamer」の例がある)。5拍子は「変拍子」とされる変則的なリズムパターンだが、松本によると特にそれを意識することなく、アイデアとして出てきたメロディをリズムに載せた結果こうなったのだという。
エリックの若々しい声をジャックの厚みのある声が下支えし、絶妙なハーモニーを創り出している。

5.I wish you were here


それまでの日本的な幽玄を感じさせる流れから、明快なリフが霧を打ち破るようにして放たれる。
愛する者がそばにいない寂しさを嘆く歌だが、そのトーンはあくまでも明るい。
日本各地を廻ったツアーでは、メンバーは各地の風物をともに楽しんだという。そんなメンバーの関係性の良さを感じさせるような曲である。

6.THE GREATEST SHOW ON EARTH


冒頭の三味線のような音は、じつはギターの音をサンプリングして作られたもの。メンバーの間では「シャミセン・ソング」と呼ばれていた。
目まぐるしくリズムパターンが切り替わる煌びやかさをもつ曲。
タイトルはセシル・B・デミル監督の映画『地上最大のショウ』(1952年)と同題。歌詞の内容も、サーカスが描かれていた映画を意識したものとなっている。

7.Signs of Life


松本曰く「ツェッペリンみたいな曲」で、確かにレッド・ツェッペリンを思わせるシタールのサウンドがクリーンギターにミックスされ、ドラムの叩き出すリズムもボンゾのようなグルーヴがある。
「give it all, give it all, give it all away, it feels like」のフレーズが非常に頭に残る。

8.RED, WHITE AND BULLET BLUES


はじめに松本がリフをつくりあげ、そこにエリックが歌メロを載せて出来上がった曲。
リフを主体としているという点で、B'z『THE CIRCLE』(2005)収録の「BLACK AND WHITE」との近似性が窺える。
「赤白青と銃弾」、というのはアメリカのメタファー。このアルバムには珍しく、社会批判を絡めている。

9.TRAPPED


「OH JAPAN〜」と同時に年明けのロサンゼルスで制作されシングルにも収録された楽曲。これらの曲の出来栄えのよさに松本は自信を持ち、アルバム制作、ライブ・ツアーへと順調につながっていった。
リズム感の強いノリのよい楽曲で、エリックらしい小気味良いシャウトを聴くことが出来る。

10.My Alibi


素軽いスネア・ドラムの音色と、ストラトキャスター・ギターを使用したキレのあるカッティングを主体としたモダンな曲。
「アリバイ」というのは刑事ドラマでのいわゆる「不在証明」ではなく、「言い訳」という意味。
この曲でドラムスを担当するのは女性ドラマー、シンディ・ブラックマン。レニー・クラヴィッツのバンドに参加し、現在ではカルロス・サンタナの公私に渡るパートナーでもある。
ツアーで唯一披露されなかったのは、本アルバムの中では異質な曲であるためかと思いきや、松本は単に「忘れていた」とのこと。

11.WONDERLAND


爽やかで陽気なアメリカン・ロック。「ロミオとジュリエット」という歌詞が耳を惹く。
サウンドはMr.BIGのリッチー・コッツェン在籍時のアルバム『Actual Size』(2001)を思わせる。松本のもつ音楽性が、カリフォルニアのミュージシャンとのフュージョンによって素直に引き出された佳曲。
やはりエリック・マーティンの声はこんな乾いた青空を感じさせる楽曲で最も輝く。

12.TRAIN, TRAIN


グルーヴィーなブルース・ロック。ポール・ロジャースがヴォーカルを務めたロックバンド Freeが意識されている。
Mr.BIGというバンド名が Freeの楽曲から採られたことからもわかるように、エリック・マーティンの音楽的ルーツには枯淡なブルース・ロックがある。つまりエリックが最も得意とするタイプの楽曲ということになる。

13.Two of a Kind


本作唯一のバラード曲で、作詞はジャック・ブレイズによる。
タイトルは「似た者同士」の意。長い付き合いの恋人に語り掛ける愛が歌われている。
松本のギターはアルバム終盤になると和風の音階が影を潜め、この頃から志向していたブルージーなフレーズを素直に打ち出している。

14.NEVER GOOD-BYE


アルバムのラストを飾るいわゆる「お別れソング」。〈TMG LIVE “Dodge The Bullet”Tour〉でも本編ラストの曲となった。
サマーソニック2004出演時やライブでは、本曲のクライマックスで観客がシングアロングで一体になって歌い、客席全体が腕を振って盛り上がる場面が見られた。

2024年 TMG 再始動


『TMG Ⅰ』のリリースからちょうど20年が経った2024年。なんとTMG再始動のニュースが飛び込んできた。

エリック・マーティン、ジャック・ブレイズに加えて今回ドラマーを務めるのはモンスターバンドGuns N' Rosesのマット・ソーラム
否が応でも、期待が高まらないはずはない。
エリックの喉の調子が少々気掛かりだが、『TMG Ⅰ』を上回る傑作を生みだしてくれるのか、今年が楽しみでたまらない。

それにしても『TMG Ⅰ』が2004年にリリースされた時、洋楽の国内盤のように歌詞の全対訳とライナーノーツが付いていたらなあ、とどんなに思ったことか。
当時はインターネットも今ほど気軽に扱えなかったので、音楽雑誌だけが頼りだった。

今回思い立って本稿に手を付け、アルバムの全曲についてコメントしていくのはなかなか困難であったが、あのときの宿願をある程度果たせたように思う。

なお本稿の情報の出典は〈B'zPARTY〉会報誌『be with!』Vol.62, 63、『YOUNG GUITAR』2004年5, 7, 8月号に拠った。
また歌詞の解釈・内容については以下のサイトに恩恵を受けた。『TMG Ⅰ』収録曲全曲について対訳を載せている驚くべきサイトである。
併せてご参照願いたい。


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