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僕が虫を好きになったわけ

僕は虫が好きだ。でもそれは子供の頃からってわけじゃない。
幼稚園児くらいまでは誰だって虫と触れ合うけど、いつの間にか嫌いとか怖いとかそういう風に変わる。それは僕も同じだった。

しかし人と違う点が1つだけあった。
なぜかいつでも僕のそばにだけ虫が集まってくる。
学校で授業を受けていると僕の机にだけ虫がとまる。体育の授業なら僕にだけ虫がとまる。いつでも気付くと自分や服やその周辺に虫がいた。
自分から変な匂いがしているのではと何回も別の友人に聞いたけれど匂いは特にないらしい。

高校生の頃、自分がなぜ虫を怖がるのか真剣に考えた。
そしてルーツを発見する。
小さい頃よくカタツムリを掴まえていた。ある日いつものように掴まえようとしたらグシャリと潰れた。
今思えばあれは死んだカタツムリが壁に引っ付いていただけで自分が殺したわけではないと思うが当時の僕は戦慄した。
『大好きなものを殺してしまう』
そして小学生の頃何となく髪を触ったりするとよく羽虫を殺してしまっていて『触っただけで殺してしまう』と怯えていた。
僕は虫が怖いのではなく『虫を殺してしまうのが怖い』のだと知った。

それからはインターネットで虫について勉強した。
殺してしまわないための勉強。触れ合うための知識。
そして身近な場所で実践もした。
夏になると毎日のように侵入してくるセミは向こうも混乱しているからこちらが冷静に対処すべきということ。特にいわゆるセミファイナルは掴まれる場所があれば静かにとまってくれるから、自分の影が被らないように注意しながら指を差し出して掴まってもらって外に放す。
これもしょっちゅう入ってくるカナブンは甲虫だから安易に飛ばない。少しずつ手に誘導して乗ってもらったら外に放す。
特にカゲロウを見つけたらすぐに対処する。彼らは1日しか生きられないのだから部屋に迷い込んでいる時間などない。早くパートナーを見つけなければ。

虫に共通することは『影に反応する』こと。
そして僕は虫に好かれるという特性を持っている。
だから自分の影に注意しながら手に乗ってもらうという動作はやってみると簡単だった。
セミファイナルなんかはヒシッとしがみついてくる感じが
「ヒィー助けてくださいー」
と頼られてる感じがして可愛い。
誰かは忘れてしまったけれど、一度水に翅を濡らしてしまって飛べなかった子に関しては飛べるようになるまで指の上で観察させてもらったりもした。
コップや料理に飛び込む自殺志願者はティッシュに登らせて自然乾燥させれば大抵一命を取り留める。
買ってきた野菜についてきた虫は近所の公園に逃がす。この前は洗濯物に卵が産みつけられていたので孵化まで様子を観察した。

最近はモルモットのおやつ用に育てている葉物野菜に芋虫だか青虫みたいなのがよくいて、可愛いのでそのまま観察している。タコ糸みたいなちっこいのが今ではバジルの茎に擬態しているのはとても可愛いし成長を感じる。
今日は間引きをしている時にうっかり幼虫がついてる葉っぱを巻き込んでしまい、慌てて右往左往しながら別の葉の裏に隠れるのを見て
「可愛いマジ尊いそして偉い……」
と思っていた。

今では虫と遭遇すると挨拶するし、世間的に殺されてしまうような奴には
「隠れて動かないと殺されちゃうぞ」
とアドバイスをしている。
前述みたいにうっかり巻き込んでしまったら謝るし、珍しい子やカッコいい奴を見ると「ちょっと写真撮らせてねー」と言いながら撮ったりもする。
道端でこれをやっているのだから結構な変人に見られてるんだろうけど、まあ若い外見で杖ついててヘルプマークくっつけてるような見た目だからあんまり影響はない。
変人って目で見られても通報されない限りは構わない。そんな失礼な奴と今後関わることなんてないだろうしね。通りすがりの人間にどう思われようが知ったことじゃない。
僕は好きな子とコンタクトを取ってるだけ。どうでもいい奴の相手はしない。

虫が僕を好きでいてくれるから、僕も虫を好きでいる。
これ以上の平和はないと思っている。

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