【引退】と【戦力外通告】 驚かされた選手からの言葉
シーズン終了後は毎年必ず【引退】と【戦力外通告】があります。
入団する時は華やかに入ってくる選手も、必ず最後はどちらかでチームを去っていきます。
僕が一番長く個人トレーナーとしてお付き合いさせて頂いた宮本慎也選手は、自分で引退する時を決めました。
しかし、この様に自分で引退を決める事が出来るのは、活躍を認められたごく一部の選手です。ほとんどの選手はチームから【戦力外】を言い渡されます。一緒に過ごしていた仲間がいなくなるのは本当に寂しいです。
戦力外までの流れ
僕がチームにいた時はよく【七五三】と言われていました。
これは【高卒7年、大卒5年、社会人3年】という物です。つまり、この期間に結果を出さないと【戦力外】を言い渡される可能性が高いという事です。今はもっと早く見限られている様な気がします。
選手もシーズン後半になると、自分の立ち位置が分かってきます。もちろん、トレーナーの僕達も(今年、この選手危ないかな・・)と感じます。
この事はオールスターが終わったあたりからハッキリしてきます。一軍に上がれないだけならまだ良いのですが、ファームでもなかなか試合に出れなかったり、トレーナーとしては悔しいですが怪我に苦しむ選手もいます。
とにかく試合に出られない事には【戦力外】の候補にあげられてしまうので、シーズン後半は痛くても無理矢理試合に合流する選手もいます。
びっくりした一言
シーズンも終盤に入ったある日、大宮球場での二軍戦の時です。僕は試合に入るピッチャーを作っていました。
この作るという表現は、試合の準備をするという事です。まず先発ピッチャーのマッサージやストレッチ、そして中継ぎピッチャーを投げる順番に5回までに作り終えなければいけません。
この日は登板予定のピッチャーが多く、5回までに全員を作り終えるのは難しい状態でした。
その中に肘の怪我に苦しんでいたベテラン投手【A】がいました。先程の例の、痛みがあっても無理矢理合流した選手です。
我々も未来のある若い選手なら絶対止めますが、投げれなければどちらにしろ終わってしまうAのようなベテラン選手は、本人の希望を大事にしていました。
トレーナーとして選手に差を出してはいけないのですが、おそらく今年最後になるであろうA選手が少しでも悔いなく投げれるようにと思い、慌ただしい中でも少し長めに時間を取って揉んでいました。正直、あまりお役に立てていなかった後ろめたさもありました。
A選手は普段無口でほとんどしゃべらないのですが、彼が僕に向かって突然
(原沢、ありがとうな。俺、今年でクビになるのにこんなに一生懸命揉んでくれて)
と言ったのです。まるで心を見透かされてる様な気持ちでした。
(何を言ってるんですか!まだまだ勝負はこれからじゃありませんか!)と僕は答えましたが(あぁ、本人も分かった上で野球をやっているんだなぁ)と思いました。仕事中でしたが涙がでました。気づかれたと思います。
本当は関わっている選手全員に慎也さんのような引退の仕方をしてほしいと思っています。
出来なければ、少しでもそれに近い形で現役を終えて欲しい。
その為に僕も関われる選手に出来る事は全て行いたいと思っています。