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商標権にまつわる話

1986年に刺繍レース業界で仕事をするようになってから2年目くらいの事です。

とある大手通販向けの子供服に付ける巾25cmくらいのレースの注文を取る事が出来ました。デビュー以来最大級の数量の受注に浮かれた私。生産が終り工場から出荷されて間もなく、得意先であるレース問屋からの呼び出し。用件は、今回のレースのデザインが他社の商標権に抵触している恐れがあり使用の取りやめが検討されているとの内容。

そのレースのデザインというのは、カントリー調の家の絵でその家の上にはHOUSEという文字入り。このHOUSEがどうやら商標登録されているらしいというのです。今となればこの様な危険性は常識として当然わかっていますが入社2年目だった私は商標権の事なんて全くの無知。デザインを書いてくれた会社のデザイナーも私と同期入社で若く、私同様まったく意識せず書いた様でした。

今思えば会社の先輩方や得意先のベテラン営業マンの方たちもそのデザインを見ているわけですが、誰もそんな危険性に言及した人はいませんでした。それだけ当時のレース業界は呑気でまた、知的財産権に関しても無頓着だったと思うのです。よその会社のレースをそっくりコピーして、その本家よりも安く売る行為が『現物ズバリ』という言葉で普通にまかり通っていた業界なのですから。

それはさておき、作ったレースが返品されては一大事です。会社の顧問の法律事務所に状況説明し調査をしてもらった結果、数社の商標登録に酷似し、このまま販売して訴えられた場合、明らかに不利な状況になるとの見通しを告げられました。

そして、恐れていた通り、荷物は戻ってきました。私にはその荷姿はたくさんの棺桶にしか見えませんでした。HOUSEって、家という意味の単なる英単語なのに。

もうそのレースを国内に転売することは出来ません。結局、その大量な棺桶は、別の得意先であった輸出業者に引き取られ、インドネシアに旅立ったと聞きました。確かメーター単価250円くらいのそのレースは、15円くらいで引き取られて異国の地に飛んだのです。

当時の私の心に大きな傷あとを残した出来事なのでした。しばらくはバーモントカレーのCMを見る事さえつらかった程のショックでした。インドネシアにそのレースの端切れくらいはのこっているのかなぁ。見たくはないのだけれど。

新型コロナウイルスが猛威をふるっている昨今、昔、熊本にあらわれたという厄払いの妖怪アマビエがブームになっています。色々なところがアマビエのグッズを作りまた、それをお守りとして身につけているたくさんの日本人がいます。私の家でも近くの廣田神社でアマビエの御札を配っているとの話を聞き、ありがたく頂戴して玄関に貼っていますが、先日の新聞に、数件の企業や団体がアマビエという言葉を商標登録申請をしたとの記事が掲載されていました。

言葉って、ひとりじめしてもいい物なのかなぁ。『甘エビ大好きアマビエちゃん』とか、手を加えたオリジナル的な物ならともかく。

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