残響
こんな月夜に君を知る
見向きもされぬ歌の主
見ているだけで嫌になる
認められない無意味さよ
目の前に立った僕を見て
猜疑、含羞、泡沫の 希望で滲む、その瞳
哀れに思って施して
小銭をチャリンと投げ入れる
間違えるなよ、その金は
お前の歌への対価じゃない
月の形が戻りきり
君の声など忘れ去り
奏でた音はとうに消え
顔も貌も浮かばない
飽きたのならば情けなく
死んだのならば骨がある
胸に残るは一抹の
寂しさだって認めよう
君の歌声、好きだった
ついぞ伝えはしなかった
君だけがここで生きていた
僕らは皆死んでいる
意味があるのは君だけだ
僕を含めて価値はない
なのに世界は止まらない
全てが今日もつつがなく
わずかな君の痕跡を
僕の中から執拗に
何もなかったかのように
これでもかって消してゆく
それでも君を思い出す
屍だらけのこの街で
亡霊みたいな君だけが
今もかすかに生きている
忘れるたびにまた会える
それもいつまで続くかな
君と似た奴、見かけたよ
あんな月夜の路地裏で
君の歌より下手だった
音は外れて声は出ず
早くなったり遅れたり
それでも君に似てたんだ
だから拍手をしたんだよ
今度は間に合うようにって
それからちょっと泣いたんだ
君に会えない寂しさに
こんな星降る月夜には
君の歌声、似合ったろう
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