梶山季之「せどり男爵数奇譚」


 解説でインターネットや直接名前は出していないがブックオフに触れていて、本編が古い(昭和40〜50年代ごろ)ので一体いつの話かと思えばなんて事はない、ちくま文庫版が2000年に発行されたというだけだった。その頃からブックオフせどりがいたのかと思う一方、今現在蔓延っているのとは質が違うのだろうなぁとも思う。少なくとも当時のせどりは自分の目利きで選んでいただろう、今のように知識も何もなくバーコード読んでスマホアプリに判断してもらっているだけの素人とは違う。ので、今現在のそれらをせどりとは呼びたくない、ただのタチの悪い転売ヤーだ。そもそも本編一章でもちゃんとせどりは嫌われるものだと言っている。それを自覚した上で、なお古書収集に異常な執念を燃やす人々がこの話では描かれる。

 2000年といっても最早四半世紀近く前で、隔世の感はあるし、本編はさらに四半世紀……戦時中の話なども出て来れば最早ここに書かれているのは古書にまつわる歴史的資料に近い(フィクションではあるだろうが……これに近い事はあったのだろうが……)少なくとも読みながら理解は出来ても実感や共感は難しかった。
 文体はやや句読点が多くしつこい感じが拭えなかったし、せどり男爵の話を聞くという形である聞き手の一人称が安定していなかったりと、小説としては若干気になる部分があったが、それを補って余りあるエピソードの数々! 章を重ねるごとに危険度が増していき、最後のエピソードなど……九龍城や香港マフィアが出て来るとか最初は思いもよらなかった、そしてチラつく江渡貝くんと鶴見中尉……野田サトルはこれを読んだ事があるのか? 鶴見中尉の出身新潟だし。

 この話に出て来る人々を見ていると、自分は全然足元にも及ばないと思う。のだが、つい最近必死こいてブギーポップ全巻揃えた時の心情を思い返すと、人間誰しもがそういう部分はあるのだろうし、自分だって片足ぐらいは突っ込んでいるところもあるかもしれないと若干空恐ろしくなった。以前読んだことのある「はじまりの24時間書店」も似たような話で、最終的に埋立地から本のページを見つけ出していた。そこまでの価値を見出せるのは素晴らしい事だと思わなくはないが、さすがにここまでの領域には至りたくない。

(寝転がってだらだら読むくらいがちょうどいいよね)
(首痛くなるけどな)

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