ニンジャスレイヤーイビル二次創作:ハッピーニューイヤー・ワルサイタマ
作者注:この作品はダイハードテイルズのコンテンツであるニンジャスレイヤープラスにて公開されている『ニンジャスレイヤーイビル:ワルサイタマ・ブロウナウト』を下敷きにした非公式二次創作小説です。ご覧になる前に、是非上記作品の一読をオススメします。また、この作品は公式サイドとは一切関係がありません。
◆猥褻しかない◆
『ちょっとやめないか!』『オットット、これはシツレイ! コトシモヨロシクオネガイシマス!』『ワハハハハハ!!』
……ピッ
『女~ひたすらァ~ゲイシャ道ィ~♪』
……ピッ
『殿! おやめくだされ! 殿!』『ダマッコラー! ブッダも怒る!』
「……チッ!」
……ブツン!
男はTVの電源を切った。勢いでリモコンをぶん投げようとしたが、取りに行くのが面倒になりそうなので適当な場所へ置くだけにした。ぬるくなってきたインスタント・オーゾニの汁を啜り、安カップ・サケをあおる。
彼の名はワルキド・ゲン。ここワルサイタマ北東区画に存在するサイテイ・シティの雑居ビルに居を構える……ニンジャである。最も、世間がオショガツで盛り上がる中、事務所には扉を叩く音も電話のコール音も飛び込んではこない。
「毎年毎年……もうちょいマシな番組をやりやがれ……クソが」
昨年から代わり映えしない面子ばかりのスカム番組群がなおのこと苛立ちを募らせる。オショガツは特別放送プログラムが組まれている影響で、いつも見ているエッチ・コーナー入り番組は影も形もなくなっている。深夜帯にさえも!
このオーゾニも、カップ体積に比して異様にスモールサイズなモチ(しかも一個しか入っていない!)は既に胃の中だ。ファック。そして何よりも昨年と変わらぬのは、自分のこの生活ぶりに他ならない。ワルキドは一息にオーゾニとサケを飲み干す。
「こんなはずじゃなかった……暮れのレースで一発当てて今年こそはオショガツ・チャンスのはずだったんだ……!」
「エジャナイザ! エジャナイザ! エジャナイザ! エジャナイザ!」
安普請の事務所にチャントの賑わいが飛び込んでくる。空にはカドマツが浮かび、天高く浮かぶワルサイタマ・キャッスルからは昼間から一段と華やかな光が漏れる。だが今のワルキドの胸中にあるのは、既に数ヶ月滞納している家賃の件と理想のオショガツへの憧憬の念ばかりであった。
「このまま腐っててもしょうがねぇ……アイツのとこにでも行ってみるか……」
◆
ワルキドが足を運んだのは、ワルサイタマ郊外に位置する古めかしいジンジャ・カテドラルであった。退廃と混沌が極まったこの街においてもなお厳かなアトモスフィアを残した数少ない場所であるが、今のワルキドにとってはそんなことはどうでもよかった。
「あら、ワルキドじゃない。アケマシテオメデト」
「……おう」
中から現れたのはオショガツらしい着物を纏った白髪の女である。分厚い布地にも負けず主張する彼女のボディはとても魅惑的であった。彼女はヨカノ。このホラゴン・ドージョーの主で、ワルキドとは少し前からの付き合いになる。
「オショガツの昼間から、何の用?」
「ジジイにセンコ上げに来てやったんだよ。飯でも出せ」
「……ま、そんなことだろうと思ったわ」
ジジイ、すなわちヨカノの祖父であるホラゴン・メンドーソーがワルキドと出会ったのはある日の夜の街。まだニンジャスレイヤーイビルとしての力に慣れていなかったワルキドがボッタクリ・クラブにキレて店員を皆殺しにしようとした時、横から止めに入ってくれたのがメンドーソーであったのだ。その店員は二人で全員半殺しにした。その縁もあってワルキドはメンドーソーと意気投合したが、しばらくしてから死んでしまった。行き過ぎたマイコ遊びが祟っての腎虚であった。今でもワルキドはメンドーソーへのセンコの一本を口実に、孫娘である彼女にこうして時折タカりを行っているのだ。
「お前も殊勝に着物なんか着やがって。そんなガラだったか?」
「ああ、これ? これは配信用よ。季節のイベントに合わせてファンのニーズを満たしてあげるのは当然の努めですもの」
彼女はそう言って挑発的に着物の胸元をグイッと開いてみせた。隙間から豊満な褐色の肌が覗く!
「んなこったろうと思ったぜ……」
ヨカノは日がなIRC-SNSに自分の扇情的な写真や動画をアップロードし、ファンの人間達からのドネートなどで生計を立てている女だ。有料コンテンツも数多く、一流スケベ・モデル顔負けの美貌と肉体を持つ彼女が稼ぐ金額は、ワルキドのそれとは比較にもならぬ。ワルサイタマ中に彼女のファンが存在していると言っても過言ではない。
「もっとこう、オーゾニとかオセチとかねぇのかよ」
パックド・スシを乱暴に咀嚼しながらワルキドがつぶやく。カテドラルの離れはヨカノの住居として徹底的なリフォームが施されており、その内装はワビサビの欠片も感じられない現代的なものだ。
「文句あるなら食べなくていいのよ~?」
その言葉にワルキドは黙る。この女に口で勝てぬことをよく知っているからだ。最高級の顔と肉体の代償がその最高クラスの可愛げのなさであることを、知り合ってから散々わからされている。とりあえずこれでスシ代が浮いたことに違いはない。しかもスーパーの最安品ではなく、パックとは言えそれなりのグレードのスシだ。ここしばらくロクな栄養を取っていなかったワルキドのニューロンが瞬く間に冴えていく。
「フー……食った食った。オイ、せっかくだ。なんか仕事とかねぇか」
「なに、そのスシ代でも払いたいわけ?」
「ドカッとカネになるような厄介事はねぇかって言ってンだよ。勘違いしたファン野郎をブッ殺してほしいとか、なんかあンだろ」
「……そうね、ないこともないわよ」
その言葉にワルキドが目を細めた。ヨカノとの付き合いをやめない理由はここにもある。いつの世もお高いオンナの周りにはトラブルが付き物なのだ。
「これを見て、ワルキド」
ヨカノがテーブルの上に置いたIRC端末のモニタには、ヨカノ自身のあられもない着替え姿が映し出されていた。
「テメエお得意の自撮り……ってアトモスフィアじゃねぇな。盗撮か」
「ご明察。これだけじゃないわよ。他にもいつの間にか撮られた写真や動画が破格の値段で大量に出回ってるの。これじゃ商売上がったりよ」
「その盗撮野郎の尻尾を掴んでブッ殺せってんだな……報酬は弾めよ」
「上から物を言える立場じゃないと思うけど。ま、損はさせないわ」
「ケッ!」
◆
「……つうわけでよ、テメェらも手伝え」
「オショガツだってのにいきなりだなぁ、ワルキド=サンは」
「なんでもええぞ。ワシャカネが欲しい、カネがいるんじゃ……」
バーカウンターに腰を下ろしたワルキドが、数名の男女を相手に話を持ちかけていた。ホットなボディを持つトランスセクシャル者である店主のイービアス。グラスを片手に半ば酩酊している老人がゲトームーンである。そして……
「……その前にだ。なんなンだその女は」
「え?」
ワルキドはイービアスの背後からしがみついて両おっぱいを揉むなどしているユーレイゴスめいた女に対し、極めて悪い目つきをさらに悪くして睨みつける。超高温の炎のような青い髪は極端なアシンメトリーに切り揃えられており、アイシャドウやルージュまで青で統一されている。痩せた細い肢体にサイバー趣味混じりの和装ゴシックドレスを纏った姿は、ホットな姿のイービアスとは極めて対象的だ。
「ドーモ。エグナイトですゥ……ヨロシク」
「まぁ、エート……俺のカノジョ的な?」
「イビちゃんとは少し前にIRCの出会い系サイトで知り合ってェ……スゴーイ……運命的……」
「EVIL-ASS」のタトゥーが刻まれたイービアスの鎖骨をなぞるようにエグナイトの細い指がゆっくりと走る。その指使いはとても手慣れていた。
彼女は実際ダウナー系ドラッグの中毒者であり、全身から気怠いアトモスフィアを漂わせている。それでいてその瞳にはどこかギラついた光が宿っているのをワルキドは見抜いていたが、そんなことよりもイービアスのおっぱいが独占され揉めないことの方が彼にとっては苛立たしかった。
「出会い系か……イカンぞアレは。良心的な恋のマッチングなんぞを謳ってはおるが、実態は男を食い物にするための狩場じゃよ。見てみるがいいあの男女別の月額料金差を。ワシも以前登録してユミちゃんという子と出会った。これも明るい未来のための投資と思い、サイトに高いカネを払いさらにユミちゃんにもあれやこれやを買ってあげる毎日よ。手を繋いでくれるようになったのが出会って一ヶ月目じゃった。その時ワシは思った。『これはイケる』……とな。しかしそれが甘かったんじゃ! その後いくら欲しいものを買ってあげてもワシに返してくれたのはお定まりの笑顔だけじゃった! 半年経ったある日、ワシはついに辛抱たまらんようになり、ユミちゃんに迫ったんじゃ。おっと、何も無理矢理コトに及ぼうなどとはしとらんぞ! ただちょっとおっぱいを揉ませてくれるだけで、あとついでにチューの一つもしてくれればそれでよかったんじゃ。だのにその瞬間のユミちゃんのカオの豹変ぶりと来たら……ワシはもう女性不信に陥りそうなぐらいショックじゃったよ。その上電話一本でヤクザリムジンが駆けつけた時には生きた心地がせなんだわい。やっぱり女の子はオイランが一番。ワシの最近のお気に入りはアンナちゃんなんじゃ」
「随分メンドそうな女だがなァ、大丈夫なのかイービアス=サンよ」
「大丈夫大丈夫……悪い娘じゃないのは保証するよ……アーン」
イービアスはエグナイトからの愛撫に身をくねらせながら応えた。
「イビちゃんと何かお仕事するんならァ……アタシも手伝いましょうか……ニンジャだし」
「ちょいとタフな仕事になるぜ、ついてこれンのかよ?」
「カトンとか使えますよォ……ウフフフフ……それに、そういうお仕事なら女が多い方が都合いいんじゃない?」
エグナイトはザゼンドリンク入りのサケを飲みながらワルキドに視線を返す。とろんと緩んだ目付きに不敵なアトモスフィアが漂う。
「……まァ、そこのジジイよりは役に立ちそうか」
「なんとでも言うがええ、ワシには先立つものが必要なんじゃ」
「実際カネにはなりそうなの?」
「いけ好かねぇ女だがたんまり貯め込んではいるはずだ。真っ向から自分の商売の邪魔をされてる以上、端金では済ませねぇだろ」
「んじゃ、決まりだね」
「いいかテメェら……これは千載一遇のビッグ・オショガツ・チャンスだ。高級オセチに旨いサケ、ホットなオンナで一年の始まりを飾ってやろうじゃねぇか! 気合い入れていくぞ!」
「ガッテン」「ガッテンじゃ!」「ウフフ……ガッテン」
◆
ワルキド達とヨカノ(既に私服に着替えている)は近所のファミレスで作戦会議を行っていた。無論カネがないのでヨカノ以外は皆セルフサービスの水のみだ。店員の刺すような視線も彼らは全く意に介さない。
「ねえ、大丈夫なのかよワルキド=サン。相手がヨカノ=サンを狙う発狂ストーカーとかだったら、俺らのことももうバレちゃってんじゃないの?」
「その可能性は少ねぇそうだ。なあヨカノ」
「ウラで出回ってる写真や動画はどれも自宅やその近辺で撮影されたものばかりなの。それに誰かに尾行されているような気配を感じたこともないわ」ヨカノは自分で注文したエスプレッソティーとの自撮り写真を撮りながら説明した。
「つまりかなりピンポイントに狙いを定めてるプロの犯行ぽいってことね」
「女の敵……許せないわね……燃やしてあげなきゃ……ウフッ、ウフフフフ……」
エグナイトは相変わらずイービアスにべったりとくっつき、イービアスは真顔のままエグナイトの青髪を優しく撫でている。その横ではゲトームーンがヨカノを凝視し、何やらガクガクと震えていた。
「どうしたジジイ、ついにお迎えでも来たかよ」
「ヨ、ヨカノ=サンとやら……アンタはもしやOnako-Yちゃんでは……!?」
「いきなり何言ってんだこの爺さん」
「アーそれね、私のハンドルネームなの。おジイちゃん、もしかしてファンの方ですかー?」
「おお……ワシの今の人生の楽しみトップ5のうちのひとつがOnako-Yちゃんの配信を欠かさずチェックすることなんじゃよ……このシゴトも来たるスペシャル生配信に向けたドネートのために受けたんじゃが、まさか新年早々こんな幸運に恵まれるとはのう……これも日頃の行いの賜物じゃて……」
「いつも応援アリガト! でも本名とか自宅とかはくれぐれもナイショにしておいてね♪ シブいおジイちゃん♪」
ヨカノの流れるような明るい笑顔と声色を受けたゲトームーンはまたも感極まり、ガクガクと震えだした。
「それで今回のプランだがよ」
◆
「ワシもOnako-Yちゃんと一緒がよかったわい……」
「テメェみたいなクソジジイが一緒にいたら盗撮野郎が警戒するだけだろうが……家ン中は十中八九筒抜けだぜ」
ホラゴン・ドージョー近くに停車されたデズミハヤイにゲトームーンを残し、ワルキドは一人車を出た。
「もしも怪しい奴がドージョーに入ったらすぐ連絡しろよ」「まかせとかんかい」
◆
「いいのかなァ、俺も一緒で」「気にしないで、ゆっくりしていって頂戴」「アア……なんてステキなカテドラル……後で写真撮らせてェ……」
女三人はヨカノ宅へと集まり、銘々にくつろぎ始めた。無論これはれっきとした作戦の一環であり、そのことを口に出すのはタブーである。
「ファンの人からもらったマカロンの詰め合わせがあるの。皆で食べましょ」ヨカノが見るからに豪華なラッピングが施された箱をテーブルへと置いた。「ドーモ」「アタシ、青いのがいい……」
三人はバーで出会い意気投合した三人組という体でマカロンをかじりながら当たり障りのない話を進めていった。ヨカノが話題をリードしながらイービアスが聞き上手さを発揮し、エグナイトは相槌と薄笑いを浮かべながらイービアスにくっついている。程なくしてヨカノが高級ワインのコルクを開けると、場のアトモスフィアはジョシカイ・ナイト・パーティーの様相を呈してきた。アルコールが進む!
「イービアス=サンって、スゴイセクシーよね……羨ましいわ」ヨカノがイービアスの胸に触れる!「でしょォ……ウフフ……」エグナイトも触れる!揉む!
「ヨカノ=サンも十分スゴイだと思うぜ……全部オーガニックなんでしょ、それ」「仕事柄、スタイルの維持には人一倍気を遣ってるつもりよ」ヨカノは自らのボディラインを官能的になぞってみせた。
「ねえ……私、二人の裸が見たいわ」「エッ!?」「アイエ……?」ヨカノからの突然の提案! そんなことは打ち合わせにもない! 二人は当然困惑する。
「いいじゃない、女同士なんだし。それに、エグナイト=サンのドレスの下、とっても興味があるのよ……」「アイエエエ……そんな、アタシ全然ホットじゃないし……」
「いやァでも……俺はエグちゃんのカラダ好きだよ、スゴイクールで」ここで何かを察したイービアスがそれに乗る!赤面するエグナイト!「アアア……アタシ今体温何度あるのかなーッ!?」「ブレイコウよ、エグナイト=サン。ほらァ、私が先に脱いであげるから……」ヨカノは何のためらいもなく自らのシャツに手をかけ、放り投げた!
◆
「ウオオーッ! コ、コレワ!」
……ホラゴン・ドージョーにほど近い小高い丘、その茂みの中に二つのブキミな影あり! そのうちの一つが大きく声を上げる!
「なんだ!? どうした!」「イヤ……ホホウ……モットダ……モットアングルヲ……オオ……!」「そんなにスゴイ光景が映っているのか! おれ、俺にも見せてくれガンミトレット=サン! 生殺しだ!」「ドウセ、全部録画シテアルンダ……アトデ、ジックリト見レバイイダロ……オッホー!」「リアルタイムで覗き見る以上の興奮などあるか! わざわざ地面を潜ってまで盗撮用の超小型ムカデ・メカを家まで仕掛けに行ったのは俺だぞ! 権利がある!」「チッ……コノ超望遠カメラや機材ハ、ホトンドオレガ用意シタモノダトイウノニ……ホラヨ」「どれどれ……ウオオオ!!」
彼らこそコウカイ・シンジケートの邪悪ニンジャであるガンミトレットとセンチピーピング。その恐るべきニンジャ野伏力とハイテックを用いて連日の容赦なき盗撮行為に及んでいたのである。スナイパーライフルめいた大型カメラのスコープは家の窓から直接覗く光景だけではなく、ヨカノ宅へと放たれたムカデ型メカからの映像と音声を多チャンネル切り替えでリアルタイム表示することが可能なのだ!
「銀髪の女、実にいいおっぱいをしているな……俺好みだ!」「オレハ、アノゴス女モ、ナカナカ……コレマデトハ違ウ客ガ釣レソウダ」「ウオーッ! そ、そんなことまで! いけないぞヨカノ=サン!」「ナニッ! オイ! ソロソロ代ワレ!」「お前はさっきまで散々見ていただろうが!」カメラのスコープを巡ってギリーニンジャ装束姿で揉める二人! ……その時である!
「Wasshoi!」
突然の鋭いケリ・キックによって破壊される盗撮用カメラ! 驚愕の色に染まる二人が目にしたのは、「極」「悪」のレリーフが刻まれたメンポを纏いし青黒のニンジャの姿であった!
「ドーモ。ニンジャスレイヤーイビルです」
「な……何だと……!? ド、ドーモ。ニンジャスレイヤーイビル=サン。俺達はコウカイ・シンジケートのセンチピーピングです」「ガンミトレットデス」
「貴様……なぜ俺達がここに潜んでいるとわかった!」
「気配がダダ漏れなんだよ。二人してギャーギャー騒いでくれてたなァ」
(((オショガツ早々広範囲ソウル探知なんて面倒くせえことさせやがって……さっさと片付けろよ)))
ナムサン! 彼らはカメラ越しに広がるホット&クールな女体群に意識を奪われ、その隠密性を十全に発揮できなくなっていたどころか、アンブッシュを繰り出さんと迫るニンジャスレイヤーイビルの存在にも気付けぬほど夢中にさせられてしまっていたのだ!
「マサカ、アノ素晴ラシイ光景モ、全テ作戦ダッタトイウノカ!」「ここまで見事に引っかかってくれるとは思わなかったがな」「グヌーッ……なんたる……!」センチピーピングが怒りに震える!
「とっとと観念して俺のお年玉になれや。コウカイニンジャのお二人さんさんよォ」「ふざけろーッ!」
叫びとともにギリーニンジャ装束を脱ぎ捨てたセンチピーピングのおぞましきサイバネティック・ボディが唸りを上げる! 背中から大きく展開した多関節フレキシブル・ユニットには無数の小型クローラーが装着され、その下半身を節足動物めいた異形の形態へと変形させてゆく! 両腕には合金製と思しき鉤爪が伸び、眼前の敵ニンジャに対して威圧的に構えてみせた。
「先程は不覚を取ったが……二対一で勝てると思っているのか、ニンジャスレイヤーイビル=サン!」
「そいつはどうかな」
「何?」
その瞬間、夜の闇を切り裂く激しい光があたりを照らす! けたたましい走行音とともに飛び込んできたのは、廃車目前の中古スポーツカーである! ニンジャスレイヤーイビルがメンポの奥で不敵に口端を歪めたその瞬間、スポーツカーは止まることなくニンジャスレイヤーイビルに激突! KRAAAAASH!
「グワーッ!?」
跳ね飛ばされるニンジャスレイヤーイビル! さらにその衝撃で嘔吐! この不可解な事態にガンミトレットとセンチピーピングは一瞬反応が遅れ、止まる気配のないスポーツカーに続いて激突!
「「グワーッ!!」」二人の口からも飛び散る吐瀉物!
突発連続人身事故を起こしたスポーツカー……デズミハヤイは、さらに数度のドリフト回転の後ようやく停止! 三つのドアが一斉に開き、乗っていた者たちは皆逃げるように車から脱出していく!
「オゴゴゴーッ!」四つん這いになり嘔吐するイービアス!「ハァーッ……ハァーッ……イビちゃん、大丈夫ゥ……?」エグナイトも青い顔で背中をさする!「中々ハードなドライブだったわね……スゥーッ……ハァーッ……」ヨカノはその横でゆっくりと深呼吸を行っていた。
「何やってんだジジイテメッコラー!? 危うく死ぬとこだったんオラー!!」運転席のゲトームーンへと毒づくニンジャスレイヤーイビル!
「いやすまんかった……じゃがなんせこの暗い夜にあの猛スピードじゃ。いくらライトで強く照らしてもよく見えんものは見えんのじゃよ。それにお前さんからの合図を受けてオナゴ三人を乗せて矢も盾もたまらん勢いで駆けつけてきたんじゃ。その努力はわかってほしい。あとワシは常々思っとるが、確かに事故を起こす人間は悪い。しかし本当に事故に遭う人間の方には全く責任がないと言えるじゃろうか? 事故に遭わんように注意しながら生きることがそんなに難しいことじゃろうか? 大事なのは心構えじゃよ。一寸先は闇と言うじゃろ。どんなに安全そうな状況でも、いやさそんな状況だからこそより注意深く、事故に遭わんように慎重にかつ大胆に動くことが肝要なんじゃ。つまりこの件も一概にワシにばかり責任があるとは言い切れん。そうは思わんか?」
「ええいどこまでもフザけた真似を……ガンミトレット=サン、こいつら全員まとめて始末するぞ!」「ヨロコンデー!!」
「オラッ! このクソ共! ヘバッてねぇで手伝いやがれ!」
「アタシがやるわ……イビちゃんはそこで休んでて……」「アリガト……」素早くドラッグをキメて調子を取り戻したエグナイトが前へ出た。
「センチピーピング=サン、アノゴス女ハ、オレガヤル! 撮影前後重点!」「スキにしろ!」ガンミトレットのギリーニンジャ装束の下には無数の隠しカメラが内蔵。さらにそのメンポには顔の大部分を覆うほどのカメラスコープが搭載されているのだ!「最低ねェ……燃やすわ……」
「イヤーッ!」
センチピーピングは甲高いモーター音を上げながらニンジャスレイヤーイビルへと仕掛ける! ニンジャスレイヤーイビルは鉤爪による猛攻を紙一重でかわしながら、ボディへと前蹴りを叩き込んだ。
「イヤーッ!」
しかしセンチピーピングは咄嗟に後退し、その威力を大きく受け流していた。サイバネティック・ムカデボディの賜物である!
「チィーッ!」「俺を盗撮しか能のないサンシタだと思うなよ、ニンジャスレイヤーイビル=サン!」
ガンミトレットは対するエグナイトへ執拗なスリケン投擲を繰り返し、その動きを牽制し続けていた。
「今ノウチニ降参スレバ、命ダケハ助ケテヤルゾ、ゴス女!」
「笑えないジョークは嫌いだわァ……」
「ナラバ、ファック&サヨナラ、アルノミ! イヤーッ!」
ガンミトレットが仕掛ける! メンポカメラから発せられる強烈なフラッシュを目眩ましにして懐に飛び込み、腹部へと痛烈なカラテを見舞った!
「グワーッ!」
さらにエグナイトの後ろに回り込み、両腕で拘束! そのまま両手でゴシックドレス越しに全身を弄りにかかる!
「ヨイデワ・ナイカ!」「ンアーッ!?」
ガンミトレットは単なる盗撮癖だけではなく、猥褻行為対象となった相手の顔を己のカメラで凝視・記録することを至上の愉悦とする異常性犯罪者めいた側面を持つニンジャである。彼はイクサの中にあっても淀みない猥褻行為を行うため、サイバネ脳改造すら施した。その結果、マシーンの如き冷静さとより先鋭化された性衝動を獲得するに至ったのだ!
「アーイイ……コノ肉体ノ感触スラ、オレハデータ記録シテイルノダ……遥カニ良イ!」
「こン……の……ファック野郎ッ……」
エグナイトの表情が羞恥と怒りに染まる! 執拗な痴漢行為の中、彼女は必死に腕を動かし、自身のスカートのスリットへとその手を潜らせる!
「ムッ!?」
危険なアトモスフィアを察知したガンミトレットは、すぐさま拘束を解き、距離を取ろうと試みた。しかしそれを許さぬエグナイト! 黒いレースの手袋を嵌めた細腕でギリーニンジャ装束を掴み、ワン・インチ距離へと留まらせる! もう片手にはなんらかの液体が入った瓶が握られていた!
「コシャク!」
「逃がさないわよ……クソ虫がァーッ!!」
瓶をガンミトレットの頭部へと叩きつけるエグナイト! KRAAASH! たちまち中の液体がガンミトレットのギリーニンジャ装束に降り注ぐ!
「コッ、コレワ……!?」
「燃やしてあげるわ……アタシの炎で! イヤーッ!!」
エグナイトのカラテシャウトとともに、彼女の周囲に鬼火めいた青い炎が出現! それはマッチの炎ほどの小さなものだったが……たちまちガンミトレットの全身を燃え上がらせる!
「グワーッ!?」
ナ……ナムアミダブツ! 瓶の中の液体はガソリンであったのだ! 青い炎に包まれるガンミトレット! その光景はさながら、人間タイマツが如し!
「燃えろッ! 燃えろッ! 燃え尽きてしまえェーッ!!」
ガソリン瓶のさらなる追加投入を行うエグナイト! 二投! 三投!! その度にガンミトレットの身体から青い炎が巻き上がる!
「グワーッ! グワーッ!!」
「アーッハッハッハ!!」
エグナイトは神に生贄を捧げるミコー・プリエステスめいてトランス状態となり、高笑いを上げる! 日頃恒常摂取しているダウナードラッグの影響下には最早なく、過剰分泌される脳内麻薬の虜となっているのだ!
「コノッ、小娘メガッ! ウオオーッ!」
ガンミトレットは意識を研ぎ澄まし、炎に包まれたギリーニンジャ装束を脱ぎ捨てた。全身は焼け焦げているが、メンポの奥の殺意はむしろ何倍にも増幅されていた。……しかし。
「エッ?」
ガンミトレットへと飛びかかったエグナイトの手には、ゴシックスカートから取り出された鋼鉄製のノロイ・ボードが握られており……頭上へと全力で振り下ろされていた。SMAAASH!!
「アバーッ!!」カメラスコープ付きメンポが砕ける!
「死ね! 死ね! すぐ死ねーッ! イヤーッ! イヤーッ!!」
「アバッ、アババッ……アバッ……!」
さらに二度、三度とその脳天に鋼鉄ボードが叩きつけられると、ガンミトレットはあっさりとその生命活動を停止させるに至った。
「……サヨナラ!」
未だ周囲に燃え残る青い炎に照らされながら、ガンミトレットは爆発四散! 程なくして脳内麻薬の効果が薄れてきたエグナイトは、激しい戦闘の反動でその場で嘔吐した。
「オゴゴーッ……」
「ガンミトレット=サンめ、あんな小娘に遅れを取るとは……まぁいい、あとは俺一人だけで十分よ!」
センチピーピングはサイバネボディを駆使してニンジャスレイヤーイビルのカラテと巧みに渡り合っていた。ヒット・アンド・アウェイを用いてイクサの主導権を握らせず、決定打を打ち込ませないよう立ち回っているのだ。このままではジリー・プアー(徐々に不利)な状況に持ち込まれる可能性すらある。
「これじゃラチがあかねぇぜ……」
そこに飛来するゴルフバッグ! 嘔吐症状から回復したイービアスだ!
「ニンジャスレイヤーイビル=サン! そいつでヤッチマエ!」
「バカお前、こんな状況で急に渡されてもだな……!」
ゴルフバッグの中には必殺武器であるチェーンソーが収められている……だが、そのためにはジッパーの4桁ダイヤルキーを解錠する必要がある! 到底それを黙って見ていてくれるような相手ではない!
「何をする気かは知らんが、させんぞ!」
「言わんこっちゃねェ!」
鉤爪を振り上げるセンチピーピング! しかしそこに割って入る一つの影があった!
「ヌッ!?」
「ハーイ♪」ヨカノである! このイクサになんら動じることなく、コケティッシュな笑顔をセンチピーピングへと向けている!
「どけいヨカノ=サン! いかにホットな女とて、邪魔をするようであれば容赦はせん!」
「アン、そういきり立たないでェ……」
するとヨカノはその場でおもむろに身体をくねらせ、ダンサーめいた仕草でシャツを脱ぎ捨ててゆく! おっぱいが!
「アイエッ!?」
続いてホットパンツに手がかかり、ジッパーの金具を挑発的に上げ下げされる!
「い……いかん! 最高画質録画重点! 服は脱ぐその瞬間が一番重要なのだ!」
反射的にサイバネメンポの設定をいじろうとするセンチピーピング! だがそれが命取りであった! 見よ! トップレスのヨカノの後ろに立つ、チェーンソーを携えし青黒の殺戮者の姿を!
「盗撮野郎の悲しい性だな、センチピーピング=サンよ」
「アアアーッ! こんなつまらん手にまたしても!」
ドルッ……ドルルルル……殺人チェーンソーのエンジン音が唸りを上げる!
「オイッ! やるぞダラク! これで終いだ! きっちりカタ付けるぞ! わかってンだろうな!」
(((しょうがねぇなぁ……ホントにこれで最後にしろよ)))
その瞬間、チェーンソーの回転刃から吹き上がる青黒の炎! ドルルルルル!! まるでジゴクの猛獣が乗り移ったかのような雄叫びめいた駆動音とともに、ニンジャスレイヤーイビルが跳んだ!!
「イイイイヤアアアアーッ!!」
センチピーピングめがけ、目にも留まらぬスピードで青黒チェーンソーが叩き込まれる! KRAAAAASH!!
「アババババーッ!!」
異形のサイバネボディは肩口から切断破砕! 金属片と血飛沫が周囲に撒き散らされ、その身体を完全にケジメせしめたのだ!
「サヨナラ!」
センチピーピングは爆発四散した。そして盗撮データの完全消滅を確認すると、一同はダウンしていたエグナイトを回収し、ヨカノ宅への帰路についた。
◆
「ヨカノ。わかってンだろうな」
「え? ああ。ハイ、コレ」
ワルキドはヨカノが差し出した封筒をコンマ秒でひったくり、即座に中身を検める。
「……オイ、なんだこりゃあ」
極めて悪い目付きを極限まで悪くしたワルキドがユカノに詰め寄った。その手に握られている束は……モケシマートの全国共通商品券!
「だから、今回の報酬」
「フザケンナ! こっちはカネを寄越せって言ってんだ!! ファッキンビッチ!」
「私は別に損はさせないって言っただけだしィ。額面的には結構あるわよそれ。お金にしたいなら、チケットショップにでも持っていったら?」
「今月末で期限切れる券なんぞ買い叩かれンのがオチだろうが!」
「欲しくないなら無理に受け取らなくてもいいのよ~? それに私があそこで助けてあげなかったらどうなってたかわからなかったわけだし。贅沢を言えるご身分かしら?」
「こンのクソアマ……!」
今にも怒りで狂いそうなワルキド! だが口論で勝てる相手ではないことは嫌というほど知っている。行き場のない怒り!
「え、なに、ワルキド=サン。もしかしてまたタダ働き? 俺の分は?」
「商品券……いいなァ……」
イービアスとエグナイトが横から顔を出した。
「そうそう。二人にはね、私の方から特別報酬っていうか……さっき一緒に撮った写真の使用料とかも含めて、これぐらいでどう?」
「エッ! こんなに!? いいの!?」「ワースゴーイ……!」
「これからも良いお付き合いをしていくためのお近づきの印みたいなものよ。よかったら後でまた写真を何枚か……配信にもゲストで……」
ヨカノの目が抜け目なく光る!
「見ろワルキド、Onako-Yちゃんが報酬にとくれた直筆サイン入り生写真じゃ……あの娘はまさに女神じゃよ……このシゴトを請けた甲斐があったわい……」
喜びに震えるゲトームーンの姿も、今のワルキドの目にはまともに映ってはいない。
「家賃……高級オセチ……ググーッ……」
一人立ち尽くすワルキド。そこにインターホンが鳴る。部屋へと運ばれてきたのは……アツアツのピザだ! その後もスシやパエリアが続々とデリバリー! ヨカノ宅はたちまちホームパーティー空間と化す!
「ワオ! ヨカノ=サン太っ腹だぜ!」「オショガツですもの、これぐらいやらなきゃ」「アタシ、パエリア欲しい……」「やはり女神じゃ……」
ワルキドはその光景を呆然と見守っていた。
「あら、食べないの?」
「……オセチとか日本酒とか、ねぇのか」
「オードブルやワインならあるわよ。……ついでにいい女も、ね」
「……クソッ、こうなりゃヤケだ! ヤケ食いだ!!」「アッ、ワルキド=サンそれ俺の分!」「うるせェ!」イービアスのスシを奪い取り貪り食うワルキド! エグナイトが睨む!
「それじゃ……今年もヨロシクネ、ワルキド」「知るか! 死ね! ファーック!!」ニヤリと歯を見せて笑うヨカノに、ワルキドはいつまでも悪態を吐き続ける。ヨカノ宅で始まったオショガツ・パーティーはその後、いつ終わるとも知れぬ勢いで続いていったのだった。
【ニンジャスレイヤーイビル二次創作:ハッピーニューイヤー・ワルサイタマ】終わり
◆極◆
ニンジャ名鑑#XXXX
【ホラゴン・ヨカノ】
IRC-SNSでの自撮り写真や動画配信などで己の承認欲求と金銭欲を満たしている美しい女。ホラゴン・ドージョーの現当主であるが門下生などはおらず、ドージョーそのものはロケ地などの撮影依頼による収入源の一つとして用いているのみである。
◆悪◆
◆極◆
ニンジャ名鑑#XXXX
【エグナイト】
ダウナー系ドラッグ中毒のユーレイゴス女ニンジャ。青い鬼火めいたカトン・ジツは軽微な火傷を負わせる程度の代物だが、イクサで高揚すると人が変わり、ガソリン瓶や鋼鉄製ノロイ・ボードによる容赦のない攻撃で敵対者を焼撲殺する。
◆悪◆
◆極◆
ニンジャ名鑑#XXXX
【ガンミトレット】
コウカイ・シンジケートの恐るべき盗撮ニンジャの一人。猥褻行為のために脳改造すら施した異常者であり、ターゲットとなった女を視姦することに無上の喜びを覚える危険人物である。スナイパーライフルめいた超望遠カメラによる遠方からの盗撮を得意とし、彼に狙われたオンセンやマンションは数知れない。
◆悪◆
◆極◆
ニンジャ名鑑#XXXX
【センチピーピング】
コウカイ・シンジケートの恐るべき盗撮ニンジャの一人。超小型ムカデ・メカによる至近距離からの室内盗撮を得意とする。身体の大部分にサイバネ改造を受けており、戦闘時には下半身をムカデめいた形状へ変化させて狡猾なるカラテを振るう。
◆悪◆
スシが供給されます。