見出し画像

【プロフィール】”主人公”という概念

「ゲームの主人公」という奇妙な存在

フィクションの世界には主人公がいる。彼ら彼女らが作中でどのように扱われているかは、それらの作品の生まれた媒体、表現方法によって様々な類型が存在する。細かな分類を上げていくとキリがないが、大きく分けると次の二つの類型が存在しているように思える。


①三人称型/客観型

・神(読者)あるいは語り部視点で物語が進行

・主人公の内面描写は少なく、セリフが多め

・主人公の個性が強いことが多い

②一人称型/主観型

・主人公視点で物語が進行

・主人公の内面描写が多く、セリフは少ない

・主人公の個性があまりみえてこない


この分類に則ると、小説の主人公はどちらかというと後者寄りであることが多い気がするし、漫画やアニメの主人公は前者であることが多い気がする。

では、ゲームの主人公はどうだろう。おそらく、ほとんどのストーリーゲームの主人公は後者の「主観型」に分類されるキャラクターではないだろうか。

ドラクエやポケモンなどのRPGや、恋愛シミュレーションゲームにおける主人公の多くは、そのゲームを実際にプレイするユーザーの分身としての役割を与えられている。ユーザーは主人公に名前をつけ、そのキャラクターを自分の分身としてゲーム内で冒険させたりすることで、まるで自分がゲームの世界に入って実際に冒険しているかのような(ゲームに登場するキャラクターと実際に恋愛しているかのような)感覚を楽しむことができる。このタイプのゲームにとって主人公という存在は無口・無個性であればあるほどよいとされている。あえてキャラクター像に余白を残すことで、プレイヤーと主人公の人格を限りなく一体化させ、ゲームの世界に没入してもらうことを目指しているためだ。


記号としての「パワポケくん」

ゲームをあまりやらない人、野球にあまり馴染みのない人でも、このキャラクターの絵を見たことがある人は多いはずだ。頭には野球帽、顔には鼻と口がなく、手が丸くて下半身は繋がっていない。そう、ご存知パワプロクンである。本家であるパワプロ同様、パワポケのサクセスの主人公にはこの「パワプロクン」のビジュアルが使われている。

画像2

彼は先程の分類によれば、三人称型寄りの主人公に含まれるであろう。固有のセリフを持っているし、きちんとした個性がある。
ただ、彼には他のゲームの主人公にはあまり見られない特徴がある。「パワポケ君」は複数人存在する、という点である。
パワポケシリーズは、1から14までの全ての物語がひとつの世界の下で連続しつつも、毎作品それぞれ異なる環境を舞台に進行する。そのため、同じ世界の歴史上に総勢14人の主人公が存在していることになるのだ。

このゲームのサクセスは作品ごとにストーリーのコンセプトが大きく異なるため、必然的に主人公像も作品によって様々となる。ある時は甲子園を目指すごく普通の高校球児だし、ある時はプロ野球の球団に選手として潜入捜査に入った秘密警察である。場合によってはネットゲーム上に潜むウイルスを野球ゲームで退治するフリーターが主人公になるし、未来の世界から来たタイムパトロールの一員として登場する主人公もいる。彼らはそれぞれ所属するチームの野球選手として活動するとともに、各シナリオに応じた独自の役割を果たすキャラクターとして存在している。

画像3

↑主人公(パワポケ10)(比較的)普通の高校球児

画像4

↑主人公(パワポケ14)世界で初めて「魔球」を投げた小学生


画像6

↑主人公(パワポケ6)時空犯罪者を取り締まるタイムパトロール

ここで重要なのは、パワポケのサクセスは「オリジナル選手育成ゲーム」という形をとっているという点である。サクセスのシナリオの目的は、あくまで育成によってクリア時に自分オリジナルの名前、能力を有した選手を作成することにある。したがって主人公たちの名前は1プレイごとのプレイヤーに委ねられるため、公式で彼らに定まった名前を用意することができないのだ。
同じようにこのパワプロクンの顔も、彼らの本当の顔というわけではなく、便宜的に統一された記号表現に過ぎない。彼らは年齢も境遇もバラバラだし、それぞれ異なった個性を持っている。つまり、シリーズゲームとして各作品で統一したビジュアルである「パワプロクン」を用いているにすぎず、主人公ひとりひとりが本当のところどんな顔をしているのか、僕たちプレイヤーに明かされることはないのだ。
各作品に登場するサブキャラクターの中には、複数の作品を跨いで登場する者もいる。そうしたキャラクターたちの中には、複数作品の主人公と接点を持つ場合も少なくない。パワポケ2の主人公とともにプロ野球で日本一を目指したキャラクターたちは、パワポケ5でベテラン選手となって登場し、5の主人公とチームメイトになる。パワポケ2の時に小学生だった倉刈日出子は、パワポケ11で三十路の医者になって、主人公(11)の彼女候補となる。
後の作品で彼らの思い出話に出てくる「主人公(パワポケ2)」は決して名前が明かされることはないし、その顔も明かされない。名前も顔もない彼らは、過去の物語の主人公としてこの世界に強い影響を及ぼしているのに、名前がない故に、後の作品に姿を現すことができない。


彼らはみな全くの別人だが、共通項がないわけではない。彼らは主人公らしく皆正義感に溢れ、不正を糾弾し、どんな逆境にも負けない強い精神を持ち合わせている。時折人間味のある悪ふざけもするが、いざという時には頭の回転が速く、冷静かつ大胆な行動に出ることができる。彼らはチームのリーダーとして周囲を鼓舞し、出会った人々の人生を大きく変えるだけの影響力を持っている。

画像5

↑主人公(パワポケ9)活気のない商店街に現れた風来坊

記号表現としての姿しか持ち合わせていない彼らだが、その彼らに注目しないことには、パワポケという物語を語ることはできない。機会があれば、そんな彼らを一人ずつを紹介してみたい。

言うまでもないことかもしれないが、彼らはみな誰よりも野球を愛している。どれだけ物語が複雑に脱線しようとも、最後は必ず野球に戻ってくる。当たり前すぎてヘビーユーザーほどこの点を見落としがちであるが、物語の根幹である野球要素こそが、このゲームの最大の魅力である。なんてったって「野球バラエティ」なのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?