『ファーム』感想

初めて、日本語ではない言葉で上演された演劇を観た。字幕で観た。観終わったときにはヘトヘトだった。
『ファーム』は遺伝子操作をされ生まれた子供、逢連児(オレンジ)が主人公のSF作品。彼は3倍の速度で成長し、自分の身体で人のパーツを育てる"ファーム"をしている。設定はSFだけれど基本的には生と死と愛が主題の話だったと思う。

まずは、作品の感想からは離れてしまうけれど字幕上映で演劇を観ることの感想。
やっぱり、字幕で観ることはそれなりに鑑賞に影響を与えるのだ、と思った。戯曲は日本語で一度上演されているものなので、それを観ていて内容が頭に入っていたら、また見方が違っただろう、というか深く観れていただろうと思う。
でも、一緒に見た友達が「身体が強かったから、舞台で観た甲斐があるって感じだったね」と言っていて、確かに、と頷いた。

字幕で感じた窮屈さは3つ。
まず舞台だと3Dの俳優さんと2Dの字幕を並べてみることがまず難しかったりする。字を読んでいる間にかなり動きを見逃しているな感はあり、映画より難しい。でも、今回の上映はかなり大きめの字で背景に投影という形でかなり読みやすかった(まえ、『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』で英語字幕が出ていたときは字が小さくて、表示部分も宙に浮いてて見づらかった記憶がある)。

そして、二つ目は字幕のタイミング。
映画は既にある映像に合わせて字幕を付ければ良いのだが、演劇は上演されているものにリアルタイムでつけているはず、なので動きとのテンポが難しい。どの発声にどの言葉がかかっているか判別するのに神経を使う。ん?、これ誰のセリフ?とか、今の明らかにセリフずれてたな…とか、そういうことも起きる。
あと、喋っている量に対して、表示されている文字情報少ない気もしてきて、なんて言ってるのか気になることもある。

これもまたタイミングに近いのだけど、言葉のどの部分がどう発声されたかわからないというのが3つ目。『ファーム』では、セリフのある部分だけ大声で叫ぶ、とか、繰り返して言う、という場面がいくつかあって、セリフのうちのどこが大声だったかとか、どこが繰り返されたのかが分からないのも、結構気になる。

全部多分しょうがないので、これが嫌だったと言うよりは、これが作品の感想に影響を与えているだろうな、くらいの気持ち。
むしろ字幕で観たことで、普段自分はかなり作品を受け取るときに言葉に重きをおいていることと、ストーリーラインを掴むのに言葉に頼っていることがわかった。

言葉から登場人物の心情を探り、ストーリーの構造をざっくり掴んでから、作品が何を言わんとするか考えている。そういう風に、構えて作品に向かってしまうのよくないなぁと思った。もっと決めつけたり枠を与えたりせずに作品の細部からいろいろなものを拾い集めなきゃ、と思う。

でも、言葉は分からなくても身体が雄弁な舞台だったので、浴びた感は強かった。浴びただけなので感想にまとまりはないけれど以下が感想。

逢連児が舞台に足を踏み出した瞬間、あっ、これは、身体が強い人だ…!とわかった。パントマイムをやる人やダンスをやる人の、頭の先から足の指先までみっちり神経が通っていて、完璧に体をコントロールできる感じ。足を踏み出すだけでわかる不思議。体幹も強い、と確信してしまう。

パンフに非日常の動作をする事で、ハグみたいな普通の行為を際立たせようとした、と説明されているが、本当に奇妙な動きが多い。でも、その奇妙な動きがなぜか説得感のあるもので面白かった。

印象的だったのは、逢連児が自分のお腹で人の手を培養していた時のことを語るシーン。自分の意思に反してテーブルを掴んだり、と言う時の動きが良かった。
あとは、両親が離婚をするかしないかで諍いをするとき、舞台の端と端に立つ両親の間を逢連児が翻弄されるようにコロコロと転がるのも面白かった。

表現としては、遺伝子操作を付箋のかたまりで示すのが面白かった。遺伝してほしいものと欲しくないもののリストをチェックする両親の背後で、その項目をベタベタと貼られていく逢連児といった感じで、視覚的に納得感があった。逢連児のことをどちらかといえばモルモット的に見る(遺伝子操作を悪く思わない)父がベリベリと付箋を剥がしていくのも、息子への愛を持つ母親がその付箋をかき集めるのも、ちょっとわかる(本当に関係ないけど、お父さん付箋剥がすのうますぎてちょっと笑った)。

あとは、ぬいぐるみも印象的だった。逢連児がぬいぐるみの山を居場所としているのは、若干『千と千尋の神隠し』の坊を彷彿とさせる(私だけかも、とは思う)。湯婆婆の前で見せる子供のような姿と、わがままで冷めた言葉と、赤子なのに身体がでかい気持ち悪さとか、逢連児と似ていないこともない。

それから、非日常の面では装いとしてもそれが表現されていたと思う。
「かつらを外す」とかが顕著で、そこまで明確な線引きを読み取れてはいないんだけど、かつらをとると現実に引き戻される。
それに類似して、最後の最後でゾントレが衣服を脱ぎ捨て最後につけまつげをべりべり剥がすのはよかった。うわっ、とった!って思った。全部服を脱ぎ捨てるより、脱ぎ捨てたという実感がある。あと、急に男の人になる。その後のセックスの表現にもつながっているし、あの辺りは結構よかったなぁと思った。

作品の全てを味わい尽くせたかというと、自分の力量不足で全部は得られなかったなぁと思うけど、面白い体験だった。

#フェスティバルトーキョー #ファーム #演劇 #感想

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