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おでんとウォッカ

「私は妹を呪った。子供じみたことではあるにせよ、私はかつて愛した男をいまも愛している。かつて愛した男と共に生きていたころの自分のまま、暮らしていたいと思っている。それを孤独と呼ぶのなら、孤独万歳、と言いたい。」

予期せぬこと。
皮膚が乾いた葉っぱみたいになり、指輪がすぐにすとんと抜け落ちる。
その手でキャバリエ犬のヘンリーの性器の消毒をする。
「友達」が「肉体関係を含んだ友達」になり、「恋人」にはならず、そうしてまた「友達」に戻る。そういったことは往往にして起こる。
たけるはおでんと冷えたウォッカを持って家にやってきた。
「予期せぬことにわずらわされた方がいいだろ」
「予期せぬことにわずらわされちゃったわよ」
手はつやつやで、血色が良くなっていた。


号泣する準備はできていた 手/ 江國香織




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