必要なくなると手に入る

噛み合わせの悪い引き出しから双眼鏡を取り出し、せめてもの思いで、あの心臓が消えた方角を向く。

うねるような鼓動の音をこだまさせ、森へ一直線にかけるのが見える。その力強い鼓動から漏れ出た心臓の思惑が、私の鼓膜を波打つ。私にはそれが何を意味するのかが分かるのだ。

私はかつて愛し崇拝したその心臓のその後を想像し、祝福と絶望にかきこまれ、また涙する。霞んだ視界には、かすかにその心臓が半身を切ってこちらを伺っている姿が写る。

気が遠くなるほどの長い時が経ち、その心臓が私の元を訪ねてくる。私はそれを"心から"喜ぶが、手は「やれやれ」と私の顔を覆い隠している。お決まりのオチだ。本当に必要なものが本当に必要な時。死活に発展するほどに渇望するあの時、必ず指の隙間からスルりと抜けていく。そして長い絶望の後、もう必要なくなった時に、それらは私の手のひらにそっと乗っているのだ。

かつて苦しんだ私のためにと、引き戸を開けて、その薄ピンクで艶のある心臓を招き入れる。それなりの値段のするソファに腰掛けたその心臓に私はコーヒーを淹れる。ふと黒いものが視界に入り、私はそちらに視線を移す。

部屋の隅にある半開きの冷蔵庫から、腐りかけの私の心臓の管が感謝の印にこちらに手を振っている。

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