見出し画像

嘆き

古くから知る最愛の友人がもうここには戻ってこないという知らせが届き、私はある種の譫妄状態に陥る。

切らすまいとなんとか保ち続けてきた一本の糸がプツンと途切れてしまったような感覚を皮切りに、窓の外の金色の靄は密雲に覆われる。

私と友人の2人で時間をかけて育ててきた、幾尋にも及ぶ美しい植物の海に、灰がポツポツと降り始める。私は乾いた唇の間から気の抜けた声を漏らし、バンガローから飛び出る。

5大陸の様々な地域から集められた、雑多に混在するも色美しく1つのグラデーションを奏でるその木や花に、今は曇天に変わった空から慈悲もなく腐食性の薄片が降る。まだ新しい月下美人、屹立とするオリーブの木、愛する友人が私のために、丹念に植えてくれたシネレ・トメントサなどの麗しいそれらの横溢も、急速にその色と活力を失ってゆく。

私らが育んだ友情の賜物である全てが、音を立てず、しかし容赦なく降り注ぐ灰に覆われ、蝕まれていく。

追い討ちをかけるように現れた強迫観念に駆られ、両手を振り回すように灰を退けようとするが、身に起こったあまりの不幸に手がおぼつかない。どこから手をつければよいかも分からず、焦燥しているうちにも、降灰は勢いを増す。死に至る灰を一度被ってしまうと、もうそれは修復することができない。

私の愛するそれらが苦しみ悶え、朽ちていく様を、私はただ黙って見ていることしかできない。そして最後には、私達の庭を美しく彩っていた植物達は全て枯れてしまう。

もう決して元に戻ることのない、汚染された、忌まわしく、寥々たる呪われた絵画のような風景。

なすすべもなく私は項垂れ、首を振り、ただこの身に起こった鬱々たる状況にすすり泣くばかりだ。そして、自分の荒廃した心の中を見つめるあまり、すぐそこにあった素晴らしい四季折々の風情の変化を目いっぱい楽しまなかったことを後悔する。

すぐそばにいつも在ったそれらは、当たり前のようにいつもそこにあるわけでは無いからだ。大きな涙の粒がポタポタと、哀れに歪んだ頬から灰と混じり、黒々とゆっくり連なって落ちてゆく。

悲しみに明け暮れていると、大粒の涙で焦点の合わない視界の端に人影が写る。石畳の通りの外れで、リネンの包帯に巻かれた奇形の赤子のミイラを抱えた老婆が、降灰の中一人踊り続けている。そして私は、その場に跪いて死に至る灰を全身に浴び、この身が朽ちて果ててゆくのをただ1人待つ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?