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哀愁の楽園

私は荒々しい色を絢爛と浴びせる白練の砂浜の上に立っている。心地よい海風が頬を撫で、私に僅かな微笑みを授けてくれる。

遠くの湾曲した砂浜に見える、一切の汚れがない月白に輝く灯台の元へ向かう。しばらく歩くと、屹立するその灯台と白練色の砂浜をわずかに区切る、大きな岩に腰掛けた人影が映る。私がかつて何処かで交友を結んだ、愛する友人達の姿だ。

静かに談笑をしながら明鏡止水の大海を眺める仲間の元へゆく。
私は手を大きく振って友人らの輪の中に入り、遅れて来たことを詫びる。

何十年もの空白の時を経た再会を喜び合い、友人らの甘く優しい声や、麝香のような香りがする、その健康で白い肌に私は涙する。愛する友人達もまた私を歓迎してくれる。ある者は微笑み、ある者は綻ぶが、皆一様にどこか侘しく、憐憫な表情で私を見る。

私は友人の1人にあることを尋ねる。すると暫くの間を置き、彼女は暗澹たるまなざしで静かにかぶりを振る。そして私は、我々にはもうすでにその時間がないことを告げられる。

私は黙って頷き、解するように僅かに微笑みを浮かべてみせる。寂寞たる思いを胸に、私は愛する友人達と、深水幾尋にも及ぶ濃青色の溟渤をいつまでも眺めている。


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