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マーケティングアジェンダ キーノート1「逆張りのマーケティング〜ラグジュアリー戦略で消費者心理を支配する〜」 参加レポート #MA東京21

どうも、フクパンマンです。
マーケティングアジェンダ東京2021の初日のキーノート1レポートになります。

「ラグジュアリーブランドは確固たる強い「ブランド」を、いかにして作りあげたのか」というテーマで、ラグジュアリー戦略の第一人者である、早稲田大学 長沢教授がスピーカーとなり、聞き手はユナイテッドアローズ 藤原氏が務めました。

まず、このキーノートの内容なのですが、以下の本の内容を抜粋しているものになります。

その中の第1部第3章「マーケティングの逆張りの法則」の中で【逆張りマーケティング】の18個の法則が述べられています。

1.「ポジショニング」のことは忘れろ。ラグジュアリーは比較級ではない
2.製品は欠点を十分に持っているか?
3.顧客の要望を取り持つな
4.ブランド狂でない奴は締め出せ
5.増える需要に応えるな
6.顧客の上に立て
7.顧客がなかなか買えないようにしろ
8.顧客を非顧客から守れ、上客を並の顧客から守れ
9.広告の役割は売ることではない
10.標的にしてない人にもコミュニケーションせよ
11.実際の価格より常に高そうに見えるべきである
12.ラグジュアリーが価格を定め、価格はラグジュアリーを定めない
13.需要を増やすために、時間が経つにつれて価格を引き上げろ
14.製品ラインの平均価格を上げ続けろ
15.売るな
16.スターを広告から締め出せ
17.初めて買う人のために、芸術へ接近するように努めろ
18.工場を移転するな

どれも気になるのですが、その中で注目すべき7つについて述べられました。

何もラグジュアリーを目指しているブランドだけではなく「消費者の生活の中で魅力的であること」の必要性がラグジュアリー戦略という整理で話された、まさに類稀なセッションでした。

あと、藤原さんも以下のように述べていますが、マス、プレミアム、ラグジュアリーどれが良いのでは無くて経営戦略としてどこを目指すか?という事です。資源配分、集中は経営でマストのテーマです。

会場でも「うちはラグジュアリーじゃないから」という声がありましたが、個人的には必ず今の皆さんの業務の中でも生かせるところがある内容だと思いました。例えば、必要以上に安売りしてないか、こだわり・類稀なるポイントは発掘、訴求できてるのか?など。

自分ごと化しにくいテーマかもしれませんが、自分のブランドにはどう当て嵌められるのかを考えながら読み進めてください。「日頃思っていることを全部逆に考えることが逆張りのマーケティング」という長沢さんのコメントのとおり、大事なのは発想の転換です。

それではどうぞ。

2.製品は欠点を十分に持っているか?→余白を生み出す、こだわりを伸ばす

❌製品は完璧であるべきだ
○製品は傷を十分に持っているか?→「あばたも笑窪」傷を魅力に高める

「ラグジュアリーは完璧でなければならないというのが誤認」というインパクトのある言葉からはじまった一つ目の逆張りマーケティング解説。

例えば、10年に1秒も誤差がないソーラー電波時計はラグジュアリーかというと、違う。場合によっては数千円のプラスにしかならない。

一方、スイス製の機械時計は日差でも数秒あるという精度。しかし、時価数千万円の価値がある。それはなぜかというと、圧倒的なデザイン性や細部へのユニークな”こだわり”はもちろんだが、毎晩毎晩のお手入れの手間・手がかかることが贅沢であり、愛着となり、価値となっている。

ポルシェもルノーもフェラーリも、すぐに故障したり些細なことで傷がついたりしますが、それ以上の愛すべき特徴・理由があるから売れる。「手間がかかるけどだからこそ可愛い奴」ということです。

完璧であることは愛着の余地をなくし、ブランドへの愛が湧きにくくなります。この余白は、言い換えるとオールマイティーを目指すのではなく自分たちのこだわりを圧倒的にするという「逆張り」です。刀の森岡氏も、弱みが強みになったことは見たことはないと述べています。比較表で全て○がつくことを目指すのは、ラグジュアリーブランドでなくとも悪手ということです。

4.ブランド狂でない奴は締め出せ→差別主義であれ

❌顧客を他のブランドから横取りしろ
◯熱狂的でない奴は締め出せ

この横取り思想もよくやりがちなことですが、ラグジュアリーは差別主義であることと長沢氏は言います。

飛行機の優先搭乗がいい例。どんなに並んでいても優先される優越感。施策として熱狂者とそうでない人を区別するということが大事。

また、行列のできるラーメン屋と、ガラガラのラーメン屋があったとき、なぜ行列ができている方にいくのかを考えてみよう。行列の方は「なくなり次第終了、限定200杯のみ」などと言っているはず。提供数を増やしたり、店舗を広げようと考えてしまうが、行列が熱狂的な人以外を締め出すことでラグジュアリーになっている。

熱狂的な人を優遇することは、熱狂的ではない人を蔑ろにするわけではなく、時間や金額を多く払っている消費者に対してその分の対価として優越感や満足感を与えるということ。ファンマーケティングもまさにこの発想だと思いますが、それを差別主義と言い切ってしまうところが潔いしわかりやすいなと感じました。

7.顧客がなかなか買えないようにしろ+13.需要を増やすために、時間が経つにつれて価格を引き上げろ→タイミングでレア感を演出しろ

❌顧客が買いやすいようにしろ
◯顧客がなかなか買えないようにしろ

いつでもどこでもすぐ手に入る、ということも大事ですが、待っている時間がワクワクするようにすることが大事という金言がありました。

何ヶ月待ちでなかなか手に入らないとか、そこに行かないと買えないということも効果的です。合わせて13の内容も紹介します。

13.需要を増やすために、時間が経つにつれて価格を引き上げろ

「平均価格を上げ続けると、欲しいと思った時が買い時になる。なぜかというと、買った時よりも価格が高くなることと「自分は目利き」と満足感が得られるが、逆に買った時より安くなると「もう少し待てばよかった」という不満になる。

「あの時買っておけばよかった」と「得られた時の充足感」を生み出す、まさに買われるタイミングをコントロールすることは、レア感の”演出”で面白いな、と感じた内容でした。

リシャール・ミルは、『買ってくれた人ありがとう、買えなかった方は残念でした』と売り切れた広告を出したりもして演出をしています。

このレア感の演出は一歩間違えると不満になってしまうのでやりにくさ・難しさはあるのですが、うまくできると満足感がぐっとあがりそうですよね。

9.広告の役割は売ることではない→こだわりや物語を伝える

❌広告の役割は売ること
⭕️広告の役割は売ることではない

広告は売ることではないと長沢教授が語るのは、はじめから機能やラインナップや価格を見せても売れないということです。言い換えると、自身のブランドのこだわりや、物語、つまりラグジュアリーな部分を伝えることを蔑ろにしてはいけないということ。

例えば、誌面の全面広告を使って、商品は真ん中にちょこんと一つだけという広告。そもそも売る気がなく、「私たちのブランドを忘れないでちょうだい」という明確なコミュニケーションになっている。

藤原氏は「ユナイテッドアローズでも、雑誌は2%しか読まれていないので雑誌広告はすでにやっておらず、イベントポップアップなどでSNSにてユーザーの言葉で盛り上げることを多くやっている」と語ります。これもサービス・商品の機能性/価格ではなく、その先にある豊かな生活を語ってもらい、それが結果広告となることが大事だからです。

量販店のチラシには、数十もの商品が並んでいます。一方、ラグジュアリーブランドは一つ。どちらが伝わるか、印象に残るかは一目瞭然です。

PRする際にも、あれもこれもと伝えてしまって結局何がいいたいのかわからず取り上げてもらえないことが多いのではないでしょうか。とても参考になりますね。

もちろん、ある程度ニーズが高まった消費者に対して従来型のチラシ・獲得向けの広告を売って儲けることはなんら間違いではないです。なぜなら、欲しい時に提供するのも愛だから、そして結局儲からないと事業は継続しないから。ここは誤解しないようにしましょう。

12.ラグジュアリーが価格を定め、価格はラグジュアリーを定めない→価格が価値を決めるわけではない

❌顧客が買いたい価格にしろ
⭕️ラグジュアリーが価格を定め、価格はラグジュアリーを定めない

これは価格競争がメインにならないように、売り手至上主義にしろ、ということ。ブランド側が価値を定め、その価値を感じた人が買えばいい。価格が価値を決めるわけではないからです。

ラグジュアリーは比較級ではない、最上級がラグジュアリー。
比較級はプレミアム。
また、ラグジュアリーの訳は「贅沢」ではなく「類稀」。すなわち似たようなものがないモノ・コトに対して、価値を感じる。
レクサスはメルセデスから比較されていた。ポルシェは最上級だったから比較されなかった。

「ここじゃなきゃ、これじゃなきゃだめ」を作る。それが価値を作る。1円安いから、は価値ではないということです。

highestというのはもちろん、既存の組み合わせでの類稀感・オリジナリティを出しても良いでしょう。この「類稀」という言葉、大事なキーワードですね。

15.売るな→覚悟を決めろ

❌売れ、顧客を逃すな
⭕️売るな 売上高や顧客を失うことを覚悟せよ

「売ることを諦めたら、売れる。」

ラグジュアリーマーケティングの発想は、従来型のマスマーケティングとは違います。ことごとく逆にやるため受け入れ難いのです。

例えば、印傳屋がGUCCIとコラボした案件。
印傳屋は500年以上の歴史がある老舗。ラグジュアリーになれる素質は元々あった。だが、やらなかった。目指さなかったから、覚悟を決めなかったから。

ちょっと見にくいですが、ラグジュアリー戦略と従来の手法との違いがまとまった表になります。

このように、従来のマーケティング手法と異なる手法になるため思い切りと短期的な成果を求めない覚悟が必要になります。

まとめ:高く売るにはどうしたらいいのか

最後に、藤原氏から長沢氏にモノを高く売るにはどうしたらいいのか?という問いがありました。

モノを高く売るための価値作りは「こだわり」。
「こだわり」は「違い」を出す。
「こだわり」は「愛」から生まれる。
価値が高ければ、価格が高くても売れる。

ブランドは差別化。 自社のブランドはどこで市場に区別されているのか。 きちんと自社のブランドを語れるか。

これは私のnoteを見ていただいている方は何回も出ている内容で、昨今のセミナーや本でも口を酸っぱく言われていることですよね。

反面教師な事例として、日立のブランドメッセージを例に長沢さんがわかりやすくまとめています。こちらの記事にも今日お話しいただいたことが書いてありましたので、引用します。

ちょっと長いんですが全文載せます。

日本企業はブランド戦略があまり上手とは言えません。例えば、日立製作所はグループのビジョンとして「インスパイア・ザ・ネクスト(Inspire the Next)」を掲げています。この言葉からは、未来を切り開く製品を次々と生み出すようなイメージを想起させます。しかし、あるとき社員の方に、「あなたの考える日立らしさとは何ですか」と尋ねてみると、「丈夫で長持ち、技術の日立」という答えが返ってきました。コーポレートビジョンとはだいぶ異なります。

そもそも、日立の創業者である小平浪平は、鉱山機械の修理工場に勤めており、当時は外国製の機械を使っていましたが、欧米と日本の地質は違うため、よく故障をしました。そこで、丈夫で長持ち、壊れない国産の機械をつくろうと、1910年に同社を創業しました。創業者の熱い想いが100年以上たっても社員に脈々と受け継がれているうえ、日立は今、社会インフラ事業にシフトしているので「丈夫で長持ち」というメッセージのほうがぴったりではないでしょうか。

このセッションでは「売るな」と言っていますが、それはあくまでラグジュアリーを目指す上でのスタンスの話で、当然何が消費者にとって魅力なのかを明確にしなければそもそも全く売れません。

ラグジュアリー戦略は自社の価値をしっかり消費者に受け入れる形で見出し、それを安売りせず、比較級や差別化で語らず、覚悟を決めて最上級であるというマーケティングすること。きっと、どのブランドでもできるところがあるはず。

人間理解のためには、まず自社の理解を、という重要な内容だったと思います。これ、沖縄のキーノートでも話された内容です。

私自身、ラグジュアリー戦略をこうしてお聞きするのが初めてだったので大変興味深い話でした。

それでは、んちゃ。

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