『つばさ』 上演台本
はじめに(この作品について)
演劇企画 どうにもならない毎日に光を。2023
『つばさ』
2020年、2021年に引き続き、当企画の台本を書かせていただきました。
基本的に自分の劇団以外で何かご依頼をいただけるようなことはまだまだ無い(技量不足・営業不足……)ので本当にありがたいお話です。
当企画では、かるがも団地ではなかなかできない恋愛ものに真っ向からトライする機会を頂いてます。演出のいち。さんのルーツでもある、千葉県成田市を舞台にした青春群像を書かせていただきました。
2022年の6月に初めて成田市を一通り車で案内していただき、さらに23年には演劇のワークショップをさせていただいたりと、何度か訪れる中で、透き通った風が心地よく、観光地と生活圏の絶妙なバランス感がおもしろく、そして鰻が(ほんとうに)美味しい成田の街がとても好きになりました。京成線に乗る行き帰りの道中も、ちょっとした旅のようでわくわくしていたな。
空港から発つ飛行機の音がしょっちゅう聞こえる街。
夢への一歩に向けて飛び立つことにくじけてしまった二人の話です。
痒かったあの頃を、素敵なキャストの皆さんにコミカルに演じていただき、立ち上げていただきました。
ご依頼いただいた演出のいち。さん、少しでも良いものに磨きあげようと最後までご意見をくださったキャスト・スタッフの皆様、ご来場いただいたお客様、そしてこの拙作を購入いただいた皆様、本当にありがとうございました。そして、透き通る風の気持ち良い成田の街に、感謝
よろしければどこかで感想を聞かせてもらえると嬉しいです。
藤田恭輔
『つばさ』上演台本
作:藤田恭輔
【登場人物】 *は同じ高校の同級生。
香澄 (佐藤香澄 さとうかすみ)…… 浪人生
萩原*(萩原浩紀 はぎわらひろき)…… 書店バイト
摩耶*(岡野摩耶 おかのまや) …… 香澄の友人
凌空*(中嶋凌空 なかじまりく) …… 香澄の友人
三河(三河悠里 みかわゆうり) ……予備校の職員
前説後、暗転。
第一幕
SE:チャイム。
○成田市の高校・教室(夕方)
卒業式前日。
卒業アルバムに互いにメッセージを書いている生徒ら。
「私のにも書いて!」「おい余計なこと書くなよ!」などと言い合いながら盛り上がっている。
皆のことを少し離れたところからぼんやりと見つめている佐藤香澄(当時18歳)。
友人の岡野摩耶(当時18歳)が声をかけてくる。
摩耶 香澄、うちのにも書いて
香澄 あぁ、うん、いいよ
香澄、ペンを持つが、そのまま動けず
摩耶 なんでもいいからさっと書いてよ
香澄 なんか、もう喋りつくした感じしてさ。今更書くことなんだろうなって思って(笑)
摩耶 もうそんな小難しく考えなくていいから、卒業おめとか、○○(フリー)とか、 なんでもいいよ
香澄 うーん……
摩耶 優柔不断だな、じゃああとでまたくるから!
香澄 あ、ごめんっ
摩耶、香澄のもとから離れる。
窓の外、遠くに飛行機が通過していく音。
香澄、教室の窓の外を覗いて、
香澄 日本中、いや、世界中から飛行機が行き交う街で育った。校門前の桜はまだ蕾だけど、あたたかい空気と共に、私たちをこの場所から強制的に追い出そうとしている
中嶋凌空(当時18歳)がスマホで、大学の合格発表の結果を見ている。
凌空 (スマホを見て)わ、受かった!
摩耶 え!凌空受かったの!
凌空 そう!今日だったんだよ結果、命拾いしたわ!滑り止め受からなかったらどうしようかと思ったわ
香澄以外の生徒たち、喜んでいる。
香澄 皆、それぞれの場所へ羽ばたいていく。飛び立っていく
再び飛行機が通過していく音。
ここから先は
¥ 450
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?