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『なにがたりない』(2023年版) 上演台本


はじめに(この作品について)

演劇企画 どうにもならない毎日に光を。2023
『なにがたりない』

当企画で脚本提供させていただくのも4回目となります。
本当にありがたいお話です……。

かるがも団地ではなかなかできない、恋愛ものに真っ向からトライする機会をいただくことが多いのですが、今回は2020年に初めて当企画で書かせていただいた作品の改訂再演でございます。

初演の上演台本はこちら↓↓↓

横浜に住む2人の大学生・悠作とかなえが、それぞれの恋愛に葛藤するお話です。初演と比較しますと、かなえ の側のドラマはほぼ根本から変わっていたり、矢吹も初演は実体としては出てきていなかったのを今回は実際に役者さんに演じていただくべく台詞を増やしたり。なんならオチもちょっと変わっていたり。

再演と言いつつ半分近くは改訂しておりまして、演出の いち。さん からも『ほぼ新作な感じになりました笑』とご連絡をいただきました。

初演は初めて外部から脚本の依頼をいただいて書き上げた作品です。
物語の舞台は、相鉄線・和田町駅前の商店街にある古びたカメラ屋。そこからほど近い(と言っても、駅から長い坂道を15分くらい上った先にある)某国立大学に通う学生たちの話です。

高3の夏、オープンキャンパスで同大学を訪れた際、うだるような暑さに耐えながら坂道を上っていた時、ちょうどi podから流れてきたのがサニーデイ・サービスの「さよなら!街の恋人たち」という曲でした。

横浜の街の空気と、この曲から想起される情景とが、自分の中で不思議と重なるものがあって、刹那的でくすんだ恋のお話をいつか書いてみたいという思いが生まれたのでした。そんな妄想がこの物語の出発点です。
しかし、大学に進んでも、かるがも団地を旗揚げしても、なかなかそのイメージを形にできる機会は訪れませんでした。大学にしろ劇団にしろ、恋愛主軸の劇をするには、今一つカラーが違う気がしていたのでした。

と、そんな中でお話をいただいたのが2020年。これはまたとない機会だと飛びつきました。コロナ禍に入って最初の初夏に、アパートにひきこもりながら淡々と書きました。当時はちょうど職場が切り替わるタイミングで一か月くらいほぼ無職状態でして。真昼間から一日中台本に向き合えるというのは(無収入なのはさておき)とても豊かな時間でした。

久しぶりに読み返してみると、今よりは技術的に拙い部分はありつつも、一行一行にちゃんと時間をかけて考えた痕跡がみてとれました。ト書きの細かさとかも。
3年も前に書いたものって、だいぶこっぱずかしいことが多いのですが、当時の自分が振り絞ってくれていたので、割とするする読み返せました。

「”好きという気持ちだけではやっていけない”恋の話」です。
自分が時に抱く恋愛感情というものに対して、なんだか、なんだかなぁ、と思っていたのですかね…2020年は…。まぁそんな痒い時期もあるよね…。

ご依頼いただいた演出のいち。さん、拙作を立体化・最大化してくださって素敵な演劇に仕上げてくださったキャスト・スタッフの皆様、ご来場いただいたお客様、そしてこの拙作を購入いただいた皆様、本当にありがとうございます。よろしければどこかで感想を聞かせてもらえると嬉しいです。

藤田恭輔


『なにがたりない』(2023年版)上演台本

作:藤田恭輔

【登場人物】 
三船悠作 (みふね ゆうさく・22)
日比野かなえ (ひびの かなえ・22)
笠松玖海 (かさまつ くみ・20)
守利梢 (もうり こずえ・22)
浅香紘明 (あさか ひろあき・24)
緒川璃美佳 (おがわ りみか・24)
矢吹瑛介 (やぶき えいすけ・22)

梢の上司
店員
悠作の上司

第一幕

○常盤公園(夜)

   2023年7月。
   夜の公園。
   蝉の鳴き声が聴こえている。
   舞台上、ゆっくりと明転していく。
   大学生の三船悠作(21)と、恋人の守利梢(21)がいる。
   手持ち花火をしながらはしゃぐ梢。
   梢をカメラで撮っている悠作。

梢 はやく!はやく撮って!(花火を悠作に向ける)
悠作 あぶなっ、あぶないって!(笑)
梢 (花火の火が消えてしまう)あーもう遅いから消えちゃったじゃん
悠作 そんな急に撮ってって言われてもさ

   悠作、ベンチに座って缶ビールを飲む。
   梢、花火をバケツに入れようとすると、
   少し離れた所に紫陽花の花が一輪咲いているのを見つける。

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