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待ち望んだ一尾との邂逅

久しぶりにレインジャケットを着て釣り上がった。
朝イチで入った渓は昨晩の雨で予想以上に濁りが入っていた。
そのせいか魚の活性は思いのほか高く、ルアーへの反応も悪くない。しかしコンスタントにヒットするのはイワナばかり。
気持ちはとにかくヤマメに向いていたこともあり、今ひとつ煮え切らない思いでキャストを繰り返す。終盤を迎えつつある今、シーズンを生き抜いた狡猾なヤマメに堪らなく出会いたかった。

最初の渓に見切りをつけて、前日に下見をしておいたもう一つの渓に向かうと予想外にジンクリアな水が流れていた。
息急き切るように目についた最初のポイントに車を停めて入渓。

しかし、ここぞというポイントで全く反応がない。時間帯を考えるとすでに人が入った可能性が高かった。砂地に残る先行者のかすかな気配を感じながら、それでも慎重に、そして丹念にポイントにルアーを流す。

それは本当に細やかな落ち込みだった。着水からわずかなリトリーブでルアーがギラリとひったくられる。最近、ヒットした良型をバラしてばかりだったので、密かに意識していたスランプが急激に大きな塊となって気持ちを支配する。
手元に言いようのない緊張感が走るが、それでもひたすらに慌てず、焦らずを心がけてなんとかランディングに持ち込んだ。

ヒットしたそれは微かに秋色を帯びた精悍な顔立ちのヤマメ。待ち望んだ一尾にやっと出会えたのだ。

気がつくと朝から降り続けていた雨が上がり、頭上を覆う樹林の隙間からスッキリとした青空を覗かせていた。
赤茶けた川底の流れに陽が射し込み、琥珀色に輝いている。まるで上質なシングルモルトのように美しい。

しばしの撮影を終えて、ヤマメを流れに解き放つ。
再び自由を得たヤマメは、跳ねるように身を翻して淵に消えていった。

初めて入った渓で出会えたこの一尾は間違いなく今シーズンの記憶に残るトラウトになるだろう。
そして手に残る感触が残りのシーズンにかける期待を大きく膨らませてくれた。

さて、次はどんなステキな一尾に出会えるだろうか。

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