キッチンカー事業でファンを作る、新たな顧客視点とリサーチ方法 京都から
GWのキッチンカーフェスやフードフェスなどのイベント出店を前に、新商品のメニュー開発などもされたのではないでしょうか。
一方で、実は顧客視点を誤解し、誤った新メニュー提供によって顧客の離脱が起こる可能性もあります。
顧客視点とはなんなのか、京都の事務所から、今回はサービスデザインの観点から「リサーチ」の視点でお話ししていきます。
顧客視点か、自分視点か
顧客視点か、自分視点か
顧客視点で商品開発している。
その言葉の裏に、実は顧客ニーズを自分で作ってしまっている場合があります。
顧客のニーズは本来はなかったのに、「自分が好きだから、好きだろう」とか「自分がやりたいし、売れるだろう」という自身の希望が混同している場合があります。
顧客のニーズを満たすことでお金をもらうのがビジネスの基本です。
顧客が見た時にどう思うのか、食べた時にどんな満足感を得られるのか、など、最終的にどのように顧客のニーズを満たせるのか、ということが顧客視点なのです。
実際にあったのは、パンを焼くのが得意で本当に美味しいから、焼けば売れるとおっしゃっていた方でした。
他にも、
「自分がカフェに行くのは10時くらいだから、皆10時くらいに行くに違いない。だから10時に開店する」
「自分は掃除しながら、合間で接客されても気にしないから、掃除は開店時間に手が空いたらやっている」
「自分はこれがが好きで、自分なら買うからお客さんもこれを買うはずだ」
など、他にも様々な例がありました。
これらは全て自分視点であり、顧客本来のニーズを歪めてしまっています。
自分が、自分は、と主語が自分になっているのは要注意です。
自分視点になっている危険信号でもあります。
これこそ顧客のニーズを拾ったのではなく、顧客のニーズを生み出している状態です。
しかし、顧客が本当に望んでいるのでしょうか。
早朝の静かな時間をモーニングを食べてゆっくり過ごしている方もおられますし、掃除して舞ったホコリを吸うと呼吸が苦しくなる方もおられたり、近しい友達でさえ好みは違うものです。
自分が気にしないから、自分が好きだから、という自分視点を貫いてしまうと、顧客のニーズから外れて、売上の低迷に悩まされることになります。
まさか、こんなことに自分はならないと思われる方は多いと思います。
しかし、実はかなり数が多いです。
ほとんどが自分視点になっていたり、自分でニーズを作り出していたりする例が後を断ちません。
視点を曇らせる最大の原因
では、なぜこんなことが起こってしまうのでしょうか。
その最も大きな原因と考えられるのが「夢」です。
やっと夢が叶うという喜びと、自分の夢という自分事であるからこそ、人は自分の提供するものに興味を持ってくれるはずだという前提ができているのです。
しかし、残念なことに、顧客は普段あなたに対して「無関心」であることが前提です。
チラリとみただけでは記憶にもとどまらず、そこにキッチンカーがあったのかさえ覚えていないのが普通なのです。
だからこそ、広告を打つ大企業があり、あちこちでCMが流れ、有名人を起用し、宣伝しているのです。
キッチンカー事業を始められる方は多くの方が
「飲食店経営するのが夢だったが、いきなり店舗を持つのはハードルが高いのでキッチンカーで挑戦した」
「いつかキッチンカーでこういうものを売りたかった」
とおっしゃられます。
ずっと胸の内に秘めていた夢がやっと叶うという喜びや嬉しさによって、キッチンカー事業を始めとするビジネスの厳しい現実が見えなくなってしまったり、リサーチの地道な作業よりも、商品開発の方が楽しいからこそ後回しになってしまうのです。
やっとやりたいことに挑戦できる。
その喜びは、普段計画的な人であっても、簡単に視界を曇らせてしまうほどの強い力を持っているのです。
売れるという確信の根拠は何か、根拠となるデータは判断する上で必要です。
僕達は挑戦する人を応援したい想いから、今キッチンカーの製作現場に関わり、セミナーも開いています。
僕達はが伝えたいのは、せっかく挑戦するならリサーチし、根拠となるデータを収集してより成功率をあげよう、ということなのです。
そして、視界を曇らせ、思考が偏ることは、「バイアス」と呼ばれます。
どんな天才でも簡単にかかり、外すことが困難なバイアスによって、さらに視野が狭まり、思い込みが強くなってしまう、負の連鎖に入ってしまうのです。
ここで負の連鎖を打開するために必要なのが、根拠となるデータの収集、つまり「リサーチ」です。
そもそも根拠となるデータとは
根拠となるデータとは、論理的に考える際に主観を取り除いたデータです。
最もわかりやすい例は病院の検査です。
転んだ時に手をついたら、手首が腫れている。多分ひねっただけだろう。
これは自分視点です。予想でもあり、自分の経験や考え方に大きく左右されています。
一方で、病院でレントゲン検査を受け、骨にヒビが入っているのが写っていたらどうでしょう。その時点で骨にダメージがあることは一目瞭然です。
自身の予想や経験、考え方に関わらないデータ、これが根拠となるデータです。
※客観的なデータとも言いますが、今回は客観的なデータと定義するにはグレーであることも踏まえて、根拠となるデータ、と表記します。
根拠となるデータがあると、その後の行動指針を決めることにもつながります。
ヒビが入っているから、安静にしよう。
ビジネスの世界では根拠となるデータを分析して戦略を導きます。
直感の予想は外れる確率が高いものです。
「7月には他の味に比べてパイナップル味のアイスがよく売れている。だから、今年はパイナップル味のアイスを多めに仕入れておこう」
といったように、根拠となるデータを元に、戦略や方針を決めていくのです。
キッチンカーで言えば、
・維持費にどれくらいかかるか
・損益分岐点を考えたら月にどれくらい売る必要があるのか
・1日どれくらい売る必要があるのか
・販売地域の人口からどれくらいの人数が顧客になりうるのか
・何人が月に何回転することでキッチンカー事業を維持できるのか
・どれくらいの年齢層の人が多いのか
などがあります。
そして、このデータを生み出すのがリサーチなのです。
リサーチのメリット
根拠となるデータ収集であるリサーチは、やることによって多くのメリットがあります。
・バイアスを取り、より正確なニーズを導く
・新しい視点を持てる
・新たな市場を開拓できる可能性
・自信を持って戦略を練られる
・今後の戦略の質を上げられる
などが挙げられます。
※もちろんこれだけではありません。
リサーチして主観的な意見を取り除くと、本来のニーズが見えてきます。
例)自分は唐揚げが人気だと思っていたのに、案外焼きそばの方が人気だった
そして、本来のニーズが見えるようになると、「焼きそばをどうやって売ればもっと売れるだろうか」と、視点が変わり、新しい視点で考えることができることもメリットです。
「からし味のクレープなんか売れるわけがない」と思ってリサーチしてみれば案外好評だった、というように、リサーチ結果が自分の思わぬ方向へ行くことによって今までにない新たな市場を開拓できたり、視野が広がったりします。
また、ここからがリサーチのさらに重要な点となります。
それが、自信を持って戦略を練られることや、今後の戦略の質を上げられる点です。
根拠がしっかりしていると、「自分は間違っているのではないか」といった不安と戦うことが少なくなります。
もちろん、完全になくなるとは言い切れませんが、「焼きそばが売れているのだから、今日売れなくても明日売れるはずだ」と、自信を持つことができます。
同時に、戦略の質を上げることもできます。
「昨日売れていなかったけれど、そう言えば毎週水曜日は売れ行きが悪い。その代わり金曜日は普通の倍売れている。それでは、水曜日は仕込みを少なくして、金曜日は仕込みを多くしよう」といったように、リサーチを繰り返して情報の質が高まってくると、さらに質の良い戦略を練ることができます。
質の良い戦略はさらに自信をもたらし、売上アップへと貢献してくれるのです。
自分の考えの枠を超え、かつ戦略の質を上げるリサーチは非常に重要です。
リサーチデータの種類
リサーチデータには2種類あります。
1種類目は、試食後の感想や、アンケート、販売個数、購入者数など、主観が一切入っていない生データです。
2種類目は、1種類目のデータを元に分析した分析データです。
例えば、A地点とB地点で、唐揚げと焼きそばを試験的に販売してみたところ、唐揚げの方が売れ行きが良かった。だから今後はメニューを唐揚げに絞ろう、といったものがあります。
しかし、注意すべきなのは、分析データの方には主観が入っているため、分析が間違っている可能性もあります。
そのため、生データと分析データはどこまでが生データで、どこからが分析データなのかを明らかにしておく必要があります。
リサーチ方法
リサーチ方法には様々な種類があります。
その中でも、調査対象を決めることは大切です。
調査対象を決めることをサンプリングと呼び、サンプリングにはいくつか種類があります。
・コンビニエンスサンプリング法
家族や知り合いなど、特に基準もなく聞き取りやすい人を対象とした方法
・スノーボールサンプリング法
数人選び、選ばれた人の推薦者、その推薦者の推薦者へと広げていく方法
・自己選択的サンプリング法
特に人数制限などは無しにして、コンテンツやSNSなどを通じ、顧客自らアンケートに答えてもらう方法
・現場生成サンプリング法
現場でデータ収集中に、状況や分析内容によって対象を変更する方法
・最大入力サンプリング法
試食してもらうなど、サービスを体験してもらった直後の人などを対象にする方法。
また、この時に「どこまで調査するのか」、調査範囲も決めておきましょう。
大体100人くらいにしよう、スノーボールサンプリング方なら推薦者が5人までにしよう、など、あらかじめ決めておくことは大切です。
無制限にダラダラとリサーチすると、熱意も冷め切ってしまい、結果として良いデータは得られませんし、その間ずっと経費がかかってしまうので経費の無駄にも繋がります。
あらかじめ終わりを設定しておくことによって、気持ち的にも経済的にも余裕を持って行えるのです。
サンプリングの考え方
サンプリング方法ではトライアンレギュレーションが基本となります。
トライアンレギュレーションとは、複数の手法を使用して分析結果などの妥当性を高める方法です。
コンビニエンスサンプリング法のみを使用すると、意見が偏ってしまいます。ここで、自己選択的サンプリング法や最大入力サンプリング法など、複数の方法によってリサーチすることで、より妥当な結果が得られるのです。
このように、対象をより偏りなく設定し、リサーチすることによって、有益かつ信ぴょう性の高いデータが得られるのです。
「2023年 人気 キッチンカー メニュー」のようなネット検索は、あくまで全体を見た時の一般論であり、あなたが出店する場所の、あなたのターゲット層が望んでいるものではないのです。
また、ここで人気市場に飛び込むと、同じように飛び込んだ人によってライバルがさらに増え、一層競争が激化してしまうため、注意が必要です。
新メニュー開発のリサーチとプロトタイプの作成
新メニュー開発にはリサーチが欠かせません。
改善点はどこにあるのか、新たなインスピレーションを得るためにも、試作と試食を通してさらにリサーチを行う必要があります。
基本的にメニュー開発は試作、試食、テストマーケティングの順で行います。
ここで大切なのは、試作と試食の違いの意味を正しく理解することです。
試作は挑戦であり、試食は仕上げの段階です。
試作段階ではあくまでもどれくらいの材料が必要なのか、何の材料を使うのが良いのか、時間はどれくらいかかるのか、などを考え、作っていきます。
一方で、試食の段階は提供する一歩前の最終段階になっており、ほとんど完成に近いです。スタッフや外部の方に食べてもらって、意見を聞いて仕上げます。
こうして新メニューは完成します。
新メニューはいきなりグランドメニューにするのではなく、一旦期間限定商品にしたり、数量限定で販売してみたり、イベント限定メニューにしたりして、テストマーケティングを行うことが重要です。
味はもちろんですが、
他にも、
どんな年齢層の方がより多く選んだのか、
食べた時の反応はどうか、
食べやすさはどうか、
リピートしたいと思うのか、
など、実際に聞いてみたり、アンケートを取ってみたりして、リサーチします。
テストマーケティングの結果を踏まえ、最終的に調整してグランドメニューにすることも大切です。
全ては小さく検証し、結果を分析して次に活かす。イテレーションの考え方が大切です。
ここまで入念な理由
ここまで入念にしなくてもと思われるかもしれませんが、グランドメニューを増やすことは注意しなければなりません。
グランドメニューが増えるということは、それだけ注文される品数が増えるということです。
追加したメニューだけ作り方が大きく違い、材料費も大きくかかってしまうのであれば、追加しない方が良いでしょう。
あなたがその負担を承知でグランドメニューに追加するのであれば良いのですが、注文が入って作り方があまりに違って提供時間が大幅にかかってしまったり、そもそも利益率が悪くて儲けがないのであれば、新メニューばかりが売れてしまった時にかえって窮地に立たされかねません。
また、リサーチなしの新商品では、自分視点でのバイアスがかかり、言われてみたら食べづらくて買わない、などの要因を見逃す可能性も高めてしまいます。
人間は十人十色。
全員が納得する商品を作ることは難しいですが、より多様な人の意見を聞き、頭に入っているかどうかでは、その後に大きく違いが出ます。
「前回はこの大きさのホットドッグでは小さすぎるとの声があったし、メガ盛りを作ってみよう」などの、新たな商品開発のきっかけになることもあるのです。
新たなインスピレーションを生むのも、リサーチの力なのです。
リサーチをする時の注意点
リサーチする時に注意すべきなのは、リサーチデータが一目でわかる状態にしておくことです。
得られたデータを見直した時に、一目で知りたい情報に辿り着けるよう、わかりやすい管理が必要です。
大量のデータがあっても、いつ、誰が、何を、何のために、どのように行なったのかがわからなければ意味がありません。その時覚えているから大丈夫ではなく、「自分はデータを忘れる」前提で、見直した時にわかるようにしておくことが必要です。
日付や目的などでファイルを分けたり、ノートを分けたり、インデックスをつけたり、あなたが最も管理しやすい方法を探し、リサーチデータの中の自分ルールを作っていくのがポイントです。
また、同時にリサーチデータが生データなのか分析データなのかをはっきりさせておくことも大切です。
試食してくれた方からの意見なのか、分析した主観の混じった意見なのかによって、データの活かし方は大きく変わります。
新商品に対する意見が、現場の仕事終わりの職人の方で、「これだけ量があれば嬉しい」という生の声なのか、
仕事終わりで疲れている人が多いから、量を多くしていたら嬉しいだろうな、という主観的な意見なのか。
比べてみると全然違いますよね。
リサーチをする時は生データなのか分析データなのかをはっきりさせ、どんな情報があり、どこに保存されているのかが一目でわかるようにしておくことが大切なのです。
イベント出店でリサーチを同時にするには
イベント出店までに新メニューを完成させ、イベント限定メニューとして提供することも戦略として良いでしょう。
ここでイベント出店で新商品を提供するのではなく、あえて試食品を提供し、次のイベントで出してみるというのも戦略の一つです。
イベントには幅広い層が集まります。普段なかなかリサーチするのが難しい、もっと多くの意見を聞いてみたいなど、場合によってはイベント出店時にリサーチを同時にするのも良いですね。
その場合は、購入された商品と一緒に無料で提供し、感想や意見を聞くことも一つです。
こうすることで、顧客との接点やコミュニケーションが生まれ、自然とSNSやコンテンツへの誘導ができます。
それだけではなく、今後提供予定の商品を味見できることで、興味関心が高まり、次回イベントや定着先への来店を促すことにもなり、未来の顧客獲得にも繋げていけます。
未来の顧客獲得、ひいてはファン獲得のためには、興味関心がある顧客に対して
普段はどこで出店しているのか、
次はどこで出店するのか、
どのように検索すれば情報が得られるのか、
など、情報をスムーズにストレスなく得られるように環境を整えておく必要があります。
SNSのQRコードを拡大コピーしてキッチンカーに貼っておくのも良いですね。
大切なのは、顧客があなたのキッチンカーに持ってくれた興味が消えないうちに次の情報、さらにその先の情報へと繋いであげることなのです。
イベント出店だけに頼らない。顧客に寄り添ったメニューや出店場所を考える
リサーチの強みはイベント出店よりもむしろ、定着戦略でさらに効果を増します。
地元の方を対象にリサーチを行います。
この時、対象の地域の方がどのようなライフスタイルなのかもわかると良いです。
通勤時間はどれくらいなのか、主婦の方が買い出しに行くのはいつ頃なのか、どの道をより多くの方が通るのかなど、数字ベースで記録し、時にインタビューなどで実際に生の声を聞き、その代わりに今後提供予定のメニューを試食していただいたりすることも戦略の一つです。
時間を変えて調査してみると、思わぬところにニーズがあることに気づくことがあります。
定着する時はとことんリサーチし、自分が実際にその地域に住み、生活しているように考えることが必要です。
また、リサーチ結果はしっかり分析し、この地区の方は夜勤が多かったとあれば、夜勤終わりの方をターゲットにするのも良いですね。
リサーチ結果は必ず分析し、深掘りしていくことでで新たな市場やメニュー、出店場所に行き着くこともあります。
データは集めるだけではなく、考察し、仮説を立てて検証する。
このサイクルを地道に続けていくことが大切です。
日々の積み重ねと、日々考える戦略が、キッチンカー事業では非常に大切な武器になるのです。
では、戦略はどのように立てれば良いのでしょうか。
そのことについて解説した記事を公開しています。
FIVE DESIGNSでは、ブランディング、マーケティング、マネジメントなどの幅広い知識と経験を活かし、キッチンカー製作からコンサルティング、開業フォローなどを行なっています。
戦略をどうやって立てればいいのかわからない。
そもそも損益分岐点などの売上計算で必須な項目もうまくわからない。
いつか飲食店経営へステップアップしたいがどうしたらいいのかわからない。
など、相談から実際のフォローまで幅広く行なっております。
セミナーも毎月開催しておりますので、ぜひご活用くださいね。