【上場企業IR担当に知ってもらいたいこと③】英文開示における統合報告書の問題点と今後
東証が2023年8月に発表した「英文開示に関する海外投資家アンケート調査結果」(※1)の回答の中で、海外投資家は、英文開示を望む資料として、決算短信と決算説明会資料に続いて、有価証券報告書を挙げています。有価証券報告書は制度開示に位置付けられ、そこに記載されている文章ならびに財務数値の正確性に関して、発行企業には法的な責任があります。欧米の企業が作成するアニュアルレポートも制度開示であり、財務情報には必ず監査報告書が付けられています。
一方、日本の上場企業の多くは統合報告書の作成に力を入れており、2021年末は約720社でしたが、2023年末には1,000社を超えるであろう企業が統合報告書を作成しています。私どものようなIRツール制作会社の中には、新規の統合報告書の制作依頼を断っている会社もあると聞いています。
しかし、東証のアンケートで海外投資家の回答の中に「統合報告書」というワードは1カ所しかでてきていません。悲しいすれ違いと言えるでしょう。多くの統合報告書は、英文版も作成されていますが、単純な和文版の翻訳バージョンであり、財務情報と非財務情報の「統合」を謳っていても、海外投資家が強く必要とする財務情報が少ない構成の報告書が多く見受けられます。
欧米企業のアニュアルレポートは、監査報告書が掲載されていますので、そこに記載されている決算数値などは第三者による監査がなされ、正確性が担保されたものです。そのため、日本企業においても統合報告書ではなく、監査報告書が添付された有価証券報告書の英文版に対して、海外投資家のニーズが高いと考えられます。
今後、英文開示の効率性を考えた場合、統合報告書では財務情報への回帰が起きるのか、それとも有価証券報告書において定性情報の掲載量が増えていくのか、IR担当者として、ご自身なりの見通しを持つ必要があるでしょう。社内リソースは限られており、無駄は許されません。
株式会社ファイブ・シーズ(当社)は、設立以来、日本企業の海外読者への情報発信ニーズを、英文IRツールを中心にプレスリリースや会社案内まで幅広く取り扱うことでお応えしています。翻訳者・校閲者は全員が英語ネイティブのバイリンガルで、IRやマーケティングの分野で長年、業務を行っています。さらに、お客さまの窓口を務める営業担当者は、英文だけではなく和文のIRツールの企画制作にも携わり、IRに関する知見を充分に備えています。加えて、年1回、該当年に発行された数百の統合報告書に関して当社独自の調査を行い、該当年の報告書の傾向をまとめるとともに、今後の方向性なども予測し、統合報告書の制作ニーズのある企業からのご相談にお応えしています。そして、英国IR協会の発信情報をはじめとして、海外のIR動向についても広く情報を収集しています。
株式会社ファイブ・シーズ
取締役社長 越智 義和
※1:東京証券取引所 海外投資家アンケート調査結果