紅茶泡海苔

立命館大学先端総合学術研究研究科博士課程、専門はアニメ史、表象文化論。アニメにおける音…

紅茶泡海苔

立命館大学先端総合学術研究研究科博士課程、専門はアニメ史、表象文化論。アニメにおける音画的表現の歴史や理論を研究しています。仕事の依頼はこちらへfishersonic@gmail.com。

最近の記事

表象不可能性への苦悩ーー二人の新海誠から読み解く『すずめの戸締まり』

1.はじめに 今回の『すずめの戸締まり』の物語は、入場時に配られた薄い「新海誠本」で記載されてたように、三つの物語のラインで組み立てられ、次のようになっている。  すずめの成長と、恋愛、そして日本列島における災害対する態度の問題というそれぞれ独立した3つの物語ラインを、最終的に旅の終点である宮城――東日本大震災の被災地――において、一挙に解決させる新海誠の仕事ぶりには感服するしかない。殆どの観客は、このような華麗な解決を目の当たりして、すこぶる晴れた気持ちになったのであろう

    • 純愛と駆け引きーー『SPY×FAMILY』に感じる苦手意識とは

       『SPY×FAMILY』はよくできている作品だと思う。暖かい家族感があって、時々甘酸っぱいラブコメ感もある。ギャグシーンにはお腹を抱えて笑ったり、甘いシーンには壁を叩いて、床でゴロゴロしたりして、見ていてすごく楽しい。しかし、視聴を終えたあとはいつも名状しがたい気持ちが心に積もり、どうしても違和感を覚える。その違和感に取り憑かれ、もうご飯も美味しく食べられなくなり、睡眠もままならなくなった。ずっと眠らずに夜中まで繰り返しみていると、画面の間からようやく文字が見え出してきた。

      • 死の負債、生の強度ーー映画『サマーゴースト』について

        注意:この文章にはネタバレがある。  第二の新海奇跡として期待されるloundrawは、そのエモーショナルな筆を使い、ゼロ年代的な雰囲気の満ちた視覚表現で、たくさんの人気を得た。ゼロ年代の亡霊に囚われている私には、『サマーゴースト』は待ち望んだ救済の光のように見えた。だから期待した。実際に映画館に入ると、確かに傑作だった。loundrawの才能も本物だと感じた。しかし、私は少しだけ満たされていない感があった、どこかが欠けているように感じてしまった。その欠けているものは、某批

        • 監督の意識、キャラクターの無意識ーー『リズと青い鳥』の「わざとらしさ」について

           この文章は、2018年の年末にZhihuで書いた『リズと青い鳥』についての中国語評論を翻訳したものであり、ここに出てくる「友人」や周りの人の「反応」は当時中国の受容状況をベースに書きました。 はじめに:キャラクターの感情、監督の感情 『リズと青い鳥』を観て、私は多くの人と同じく、この作品が映画の尺で作られたことに疑問を感じた。映画全体として、ストーリーの密度が低く、空白的であるが、そのこと自体は悪いことではない。私がもっとも疑問に感じたのは、この空白を過剰な演出で全部埋め

        表象不可能性への苦悩ーー二人の新海誠から読み解く『すずめの戸締まり』

          インターネット的想像力の崩壊ーー竜とそばかすの姫について

           細田守作品について、僕は長い間極めて複雑な態度で見ていた。『竜とそばかすの姫』のPVを観たとき、おそらく多くの人も僕と同じく、こういうふうに感じていたであろう。「また細田脚本かよ」っと。自分で脚本を書くと必ずダメな作品になる、と揶揄される細田守だが、それも細田への一種の愛情表現なのだ。  それでも映画館で見ようと思ったのは、やはり今回の細田作品が「インターネット的想像力」への原点回帰であることを期待していたからだ。だけど、実際は違っていて、失望の感情を抱えて映画館を出た。

          インターネット的想像力の崩壊ーー竜とそばかすの姫について