フィッシャーマン・ジャパン担い手担当・島本幸奈
フィッシャーマン・ジャパン(以下FJ)立ち上げメンバー唯一の女性として、漁師と向き合い、支え続けてきた島本幸奈さん。今や彼女がいないこの団体など想像もつかないほどその活躍は全国に広がっています。しかし彼女はもともと漁師でも、社会貢献を軸にして活動していたわけでもなく、千葉県の有名ホテルでウエディングの仕事をしていました。
■フィッシャーマン・ジャパンとの出会い
島本さんと石巻との出会いは東日本大震災の後のボランティア。
ガレキ出しや、炊き出しに尽力したのち、特産物を売り出すネットショップを立ち上げた彼女。その後2年ほど店長を務めましたが、一区切りをつけるために一緒に始めたメンバーにその取り組みを引き継ぐことを決め、島本さんは2014年の3月にそのプロジェクトを離れました。
「でも地元に帰って何するのかとか、そもそも地元に帰るのかすら決めてなかったんだよね(笑)」どうしようかと悩んでいたそんな時、彼女の人生を180度変えた2人がいました。現在のFJの理事長・阿部勝太さんと事務局長・長谷川琢也さんです。
「2人で、『いつか漁師で団体を立ち上げて、漁師から水産業を変えていくっていうことをやっていきたいよね』っていう話をしていたようで、一緒にやらない?と声を掛けてもらった。」彼らの熱い思いに惹きつけられ、島本さんはFJの立ち上げメンバーとして共に働くことを決意しました。
石巻に移住して8年が経った今、FJあるからここにいる、と話す島本さん。
「震災があったことがきっかけではあるけど、FJにいる漁師たちは次の世代に残していける産業にしたいっていう思いで団体に関わっている。私もその人たちと一緒に何か変えられるものがあったらいいなと思いながらやっています。」
■大切な仲間たちと一緒にいるからこそ
「メンバーに関しては仲間というか家族というか、そんな存在だね。掲げているミッション、ビジョンを達成するための同志だよ。みんなとチームでやっているから水産業は変わるかもしれないと思える。」
何もないところから団体設立に関わったこと自体が、島本さんにとって今必死に仕事に打ち込む糧となっているのかもしれません。
「FJはそれぞれがやりたいと思えることを実現できて、挑戦できる場所でありたいし、そうでなくちゃならない。」
FJは熱い思いを持っている人が集っている場所です。その思いを汲んでそれぞれが自分らしく走り続けられるようにすることを大切にしたいと彼女は話します。
FJが立ち上げから関わり続けてきた石巻という地域は三陸の一部として昔から海と共に生きてきました。そしてこの街の水産業には多くの人が関わり、また助け合いながら変化し続けています。
「FJは無くてもいい団体ではあるかもしれない。でもそれがあり続けるための価値をどう出せるか。そして最終的に私たちの力がなくてもみんなが水産業をよりよくしようと思いながらそれぞれの活動ができていれば良いんじゃないかな。」
FJは水産業を動かす本体ではない、だからこそその本体たちが気持ち良く、社会に、未来に居続けられるようにするための手助けをしています。
■水産業の面白さを多くの人に伝えたい
水産業の面白さを知ってしまった以上、より多くの人に届けたいという気持ち、そして次の世代に残していきたいという気持ちが彼女の活動の根底にあります。
「今まで知らなかった水産業という新しい世界を知ってくれて、そしてその世界に興味を持って面白いと言ってくれた人を受け入れるのにはどうしたら良いんだろうか、と考えながら日々進んでいくのは楽しい。」
彼女は今の活動の面白さ、楽しさを日々肌で感じています。そして彼女はその感じた面白さを出会った人に伝えるために尽力しています。
島本さんが中心にやっている事業の一つとして、担い手育成事業(TRITON PROJECT)があります。最近は石巻市だけでなく宮城県や気仙沼市、いわき市、民間企業などからも受託しています。新しく事業が始まる地域の立ち上げをしたり、TRITON PROJECT全体のマネジメントも行なっています。
さらに、身近に水産に関わる人がいない限り水産業というものに出会う機会があまりないこの日本社会。だからこそ、その機会を与えたいと、高校での授業や子供の漁業体験、「さかながいなくなっちゃうって!?」という日本では水産物が減ってきていることをわかりやすく描いた絵本を作ったりなど、教育系の事業を行なったりもします。
「何かをしたい」のではなく、「誰かに経験と体験を与えたい」、その思いが彼女の日々を作っているのでしょう。
■これを読んで一緒に水産業を変えたいと思った方へ
「色々な切り口がある中で水産業に興味を持ってもらえるかどうか、何もない状態から作り出すことに挑戦したいと思える気持ちがあるかどうかは、この仕事をやる上で重要だと思う。」
最終的なゴールを立ててはいるけれど、その手段としては正解がないこの仕事。だからこそ試行錯誤しながら、あれじゃない、これじゃないと言い合いながら一緒に働いてくれる人が必要です。
仕事の中心は “人” 。1人でデスクに向き合えばいい仕事ではありません。
「私たちが関わる相手は漁師さん。彼らは自然相手で生きていて、思うようにいかないということが当たり前の中で働いている人たちだから、その人たちの感覚に柔軟性を持って向き合えるかどうかっていうのもすごく大事なこと。
事務所の1階はコミュニティスペースとしているんだけど、天気悪い日の夕方とか突然お客さんが増えたりするんだよね。仕事が早く終わったから来たって言うんだよ(笑)
彼らは何かを思って顔を出しに来てくれた。彼らがいるからこそ、私たちの仕事が成り立ってるのは忘れちゃいけない。どこかで私たちのことを思い出してここに寄ってくれたのに、自分は忙しいからって目の前にいる人との時間を大事にできないってなるのは何か違うなって思う。これは仕事というより人とのコミュニケーションの問題のことかもしれないんだけどね。」
そう語る島本さんは、水産業を変えたいという熱い思いだけでなく、関わる人みんなを大切にして仕事をしていきたいという温かい思いの中で生きていました。
それは言葉に表すことなんかしなくても、FJのこと、仲間のこと、関わる人みんなのことを生き生きと話し、誇りを持って毎日活動をしている彼女の姿から溢れてしまっているのです。
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