【2023年】新機能開発の軌跡と裏側
プロダクトをリリースしてから各取引先との個別案件に絡む内容も増えてきているので(嬉しい反応をもらったり、逆に嫌な対応をされたり、それなりにいろいろあるのですが、現状詳細まで書けない)今回は営業やCSではなく、プロダクト開発の本丸に焦点をあてます。
ちょうど年末なので、直近のアップデートや開発背景についても触れつつ、2023年に開発した主要な機能群について振り返ってみます。
2023年9月:野帳のデジタル化
養殖で記録の対象となるデータは多岐にわたります。そこでリリース直後の9月に最初にアップデートしたのが野帳の使い勝手の向上でした。
野帳機能から手を付けたのはスイッチングが最も難しいツールは競合サービスではなく、紙になるだろうという仮説を持っていたからです。
なぜ生産者の大半がまだ紙を使っているのか
競合のデジタルサービスはすでに1970年代からローンチされているのです。それにも関わらず、大半の生産者が紙でのデータ管理を選択している。ということは何らかデジタル化が浸透しない要因が背景に存在しているはずなんです。その要因としては以下の3つの可能性が考えられます。
①や②は事実だとしてもそうでないとしても、我々のプロダクトとは関係ありません。それに、現場で何度もヒアリングした感じからしても③は要因として大きい気がしていました。紙の安心感や持ち運びやすさ、一覧性などに対する評価が現場では根強く、それがデジタルサービスを導入・定着させるボトルネックになっているのではないかと思いました。
どうやって紙を超克するか
そこで以下の2ステップで紙を超克しようと考えたわけです。
STEP1:紙と同等の体験を実現する
STEP2:紙を超えた体験を提供する
「紙と同等の体験」は以下の4要件を満たすことで実現できるのではないかと考えました。
そこで作ったのが野帳機能(日別分析機能)だったのです。デジタルをあえて紙に寄せて作ることで現場の抵抗感を減らしたいというのが狙いでした。CSVのダウンロード機能も実装しました。
ただこれだと「紙でいいじゃん」となってしまうので、「紙だとできない」機能に昇華させる必要がありました。STEP2「紙を超えた体験を提供する」です。
そこで9月に開発したのが項目の絞り込み機能と各項目の合計値を算出する機能です。死んだ尾数だけ、配合飼料だけなど、項目単位で絞り込めるようにし、各月の合計値も自動で計算できるようにしました。こうすることで、いちいち電卓をたたく必要はなくなりますし、不要な項目を非表示にすることで漁場全体を俯瞰して管理しやすくなります。これは紙では不可能です。
2023年10月:漁場間移動&画像登録が可能に
10月はデータ入力に必要な機能を諸々整えてリリースしました。
uwotechはアジャイル開発の極みみたいなことをやっているので、ヒアリング過程で出てきた要件によって開発の優先度をガラッと変えることがあります。10月にリリースした新機能はその類のものが特に多かったと思います。
大工事の漁場間移動
ちょっと裏側の話になってしまいますが、uwotechはデータベース設計上、漁場に対して生簀を紐づける構造にしていました。もっというと、生簀は漁場内でのみ分養・統合・移動されることを前提としていました。
ただこの設計が現場の運用では問題を孕むことがリリース後になってわかってきました。複数漁場で魚を飼育をしている生産者さんの話を聞くと、どうやら漁場をまたいで生簀を移動させることがあるようなのです。
上記のような形で漁場の特性によって生簀の場所を組み替えているというようなイメージですね。β版の運用では単一漁場の生産者さんしかいなかったので、要件として考慮できていなかったのです。
こうなるとデータベース設計を組み替えないといけないので、なかなかな大工事でした。もっともUI上は移動時に漁場のドロップダウンリストが表示されるようになっただけなので、ぱっと見ではそこまで変化はわかりません。
ただ、プロダクト設計上、養殖現場で行っている実務が脳内構造そのままにオンライン上でもストレスなく記録・操作できるという体験はかなり重要だし、ここを作り込むことが将来の優位性になるとも思っていたので、ここは大変でもデータベース設計からいじるという意思決定をしました。
大変だったわりに効果の薄かった環境情報カスタマイズ
環境情報のカスタマイズも同じく、リリースしてから見えてきた追加要件です。陸上養殖(RAS)や内水面養殖の生産者から特に要望が大きかったのが環境情報のモニタリングでした。この指標が海面の水温とDOだと足りませんでした。海ですべてつながっている海面の生簀とは違って、陸上の水槽はすべて独立しています。当然、環境情報も水槽ごとに取ることになります。
そこで取得データ(塩分濃度・亜硝酸・pHなど)や取得方法(漁場一括or水槽単位)をカスタマイズできるようにしました。
ただこの機能は結局今のところ、あまり活用してもらえていません。内水面・陸上養殖の生産者さんからは他にも要望をいろいろ頂いて対応しているのですが、急に音信不通になったり、すでに予算を使いつくしていたり、事業が立ち上がっていなかったりで、なかなか導入に至らないのですよね…たぶん芯を食ってないんだと思います。もともと海面養殖向けに作ってきたわけですし、狭く深く尖りたいとも考えました。そんなわけで営業戦略もこのタイミングで若干見直しをかけました。
2023年11月:月ごとに生産指標を定点把握
11月には分析機能の開発を本格化させました。従来は原価だけでしたが、生簀毎に毎月、日間給餌率や飼料効率を計算し、グラフ化する機能を開発。毎月の定点把握で生産性を見ることでより機動的な意思決定ができるようになりました。
分養や統合をしても池入時からすべて計算・グラフ化しているのと、毎月月末に自動計算で勝手にレポート化してくれるのが大きな特徴です。
指標を計算しただけでは何の意味も価値もない
生産者さんによっては「出荷完了したら生産コストや原価を計算して種苗を評価する」という方もいますし、「種苗ごとの生産効率やコストは個別に計算しない」という方もいます。しかし我々はいずれも、養殖の生産管理としては不十分であると考えています。
養殖魚の生産には2~3年の時間がかかります。3年経ってから事後的に生産効率を評価していたのでは遅すぎます。だって「3年育てて出荷しきったマダイの増肉係数は2.3でした」というのが仮に分かったとして「で?だから何?(So What?)」なんですよね。生産効率がよかろうが悪かろうが、投与したエサもお金も戻ってはこないのです。
養殖のデータ分析は複雑で計算量も多いので、計算をするだけで力尽きてしまいがちなのですが、大事なことは計算した生産指標をもとに意思決定を行うことです。その時その時で生産計画・販売計画を最適なものに修正することです。欲しい時に欲しい大きさの魚をできるだけ多くできるだけ少ないコストで得るために、日々どういう養成管理をするべきかについて戦略を考えることが重要だと思っています。
定点把握で事業の健康診断が生簀ごとにできる
だからこそ、生産効率も成長も採算性も歩留まりも、年間単位や出荷後ではなく、毎月定点把握するべきです。言ってみれば、これは養殖業の健康診断機能です。不健康な状態になっている生簀がないか定期的に検査して、もし状態のよくない生簀があったら何か打ち手を考えようよというのがプロダクトに載せているメッセージです。
生産効率を評価する回数を増やし、意識的にデータを見る習慣を付けることで意思決定の機会を増やすことができれば、細やかな調整もできますし、生産計画に対する予実差にも早めに気づけます。
面倒な計算はシステムに丸投げで
とはいえ、指標計算はとにかく面倒くさいです。いろんな計算をしないといけないですし、生簀数も多いと計算量も膨大です。なかなかこれは億劫な作業です。だからその面倒で複雑な計算を全部丸投げできるようにしました。
分養や統合をしても尾数で按分してデータを計算してくれます。「これまでは分析を諦めていた」という方も「難しいことはわからない」という方も、わずか1クリックだけで主要な生産管理指標を分析できるようにしました。
2023年12月:計量時に各種指標を自動計算
12月は計量機能を大幅アップデート。計量するだけで日間給餌率や日間増重率、増肉係数を自動で計算できるようになりました。月ごとだけでなく、計量期間別でも各種指標を計算できるようになり、より立体的に魚の飼育状況を分析・評価できるようになりました。11月の月別分析と同様に、12月の計量分析もある種、健康診断的な要素の機能であるといえますね。
もともと計量は飼育機能(給餌・斃死・魚病などを登録する機能)の一部でした。それをわざわざ切り出して、さらに指標計算までできるようにしました。CSVのアップロードにも対応しました。CSVをアップロードすると分布をグラフ化したり、基本統計量(平均値・中央値など)を自動計算したりしてくれる機能も開発しました。
魚体重データめっちゃ大事なのに誰も入れてくれない問題
なぜこの計量機能をここまでこだわって重点的に開発したのかというと、魚体重データが計算上、非常に重要なデータだからです。そして、従来のUIでは魚体重データをユーザがほとんど入力してくれなかったからです。
増肉係数にしても、日間増重率にしても、肥満度にしても、魚体重データがないことには計算のしようがありません。このデータを毎月更新してもらえない限り、11月に開発した月別分析機能はほとんど機能しないのです。
でもとにかく入力してくれないのです…「計量記録が付いてないよ!」とアラートもめちゃくちゃ出したのですが、常時表示されるようになるともはや景色化するようで、全く効果がありませんでした。これには困りました。
「ぶっちゃけ面倒くさい」というのが生産者さんの一番の本音でした。計量記録を付けるメリットに即時性がない(遅効性)ため記録時点では仕事が増えるだけで面倒くささが勝ってしまうのです。あまり頻繁に魚を触ると魚が傷む(キズ・スレ)可能性があったり、計量の作業自体もかなり手間だったりという問題もありました。
結果、サポートのたびに毎回毎回「計量データを入れてくださいね」と姑のようにお願いし続けないといけない運用になってしまって、これだと今後運用が回らないなと思いました。
ガチャガチャのアナロジー
そこで作ったのがこの計量機能でした。イメージしていたUXは「ガチャガチャ」です。何が出るかわからないけど、カプセルをカポッと開けたときに何が出てくるのか知りたくて、その結果にワクワクしてお金を入れてつまみを回す、まさにあの体験をデジタルのプロダクトで実装しようと考えました。
ガチャガチャをアナロジーとして捉えることで、つい入力したくなる・ついつい試してみたくなるUXを設計しようとしました。計量記録をつけなさい!とガミガミ怒るスタイルでは双方疲弊してしまうので、試しにデータを入れてみたくなるようにUX側をいじったんですね。
ちなみに年末にワクチン機能も新機能としてリリースしたのですが、これはこれでいろいろ背景があるので機会があれば別の記事で紹介しますね。
2023年の新機能開発を振り返ってみて
思えば、去年の年末はサービスローンチすらしていませんでした。そう思うと、なんかいろいろ作ったなと感じます。暴力的なアジャイル開発ですが、奇跡的にワークしていてエンジニアの新くんには感謝しかありません。
もろもろ開発・改善した機能の一覧 ↓
養殖のエサ代の値上げトレンドは今後も続きます。来年4月にはまた値上げがきます。このままだと生産コストは上がる一方です。このコストを管理していない生産者は廃業を余儀なくされるのみです。生産者が生産効率を把握しておけば、エサの品質にもきちんとフィードバックできるし、魚の販売価格も適正化できるはず。そのために必要なのは間違いなく日々の管理です。
正直、作りたい機能のすべてが実装できているわけではないですが、「魚類養殖5.0の社会実装」の先に「おいしい魚が食卓に並ぶ当たり前の日々を次の世代につなぐ」未来があると信じて、2024年も走っていければと思います!あ、uwotechに興味があるという方は無料で体験できますので、ぜひお申込みください^^
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