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居合の達人!?バショウカジキ

この魚を私が検査したのは夏なのですが、この魚の旬は冬にかけてです。検査した魚は50cmくらいのかわいいカジキでしたが、成長すると4mくらいになります。最初はあまり興味を持てなかったのですが、調べていくにつれてなかなか面白い魚だということがわかりました。

和名:バショウカジキ
学名:Istiophorus platypterus (Shaw and Nodder,1792)
分類:スズキ目、マカジキ科、バショウカジキ属
生息: 北海道~九州南岸の日本海, 東シナ海沿岸, 北海道~九州南岸の太平洋沿岸, 屋久島, 琉球列島, 東シナ海, 朝鮮半島南岸, 済州島, 台湾, 中国, 長江口, 海南島, インドー太平洋

解説

カジキ”と言われる魚類は、日本近海に6種類ほど生息しています。そのうち、バショウカジキが属するマカジキ科とメカジキが属するメカジキ科の2つに分かれます。特に、メカジキは1科1種と珍しい種になっています。バショウカジキは英名を“Billfish”(Billはくちばし)といい、頭部の吻が大変有名な魚です。この吻は、微小な歯(micro-teeth)や油孔(oil pore)などの微細構造で覆われています。このバショウカジキの吻の構造は、獲物を捕獲するにあたって流体力学的な利点があるとされ、2010年以降さかんに研究がなされています。

Youtyuberのまねをしてみました。吻は体の3割くらい(1m前後)まで大きくなります。

2022年には、バショウカジキの吻の表面に”lacura rostralis”と呼ばれる空洞があることが専門誌にて発表されました。対応する日本語はわからないのですが、半球上のくぼみに歯のようなものが生えている構造です。吻において微小な歯油孔lacura rostralisが分布している場所が異なります。微小な歯は側面、油孔は背側、lacura rostralisは腹側です。バショウカジキの狩りはマカジキ科の中でも特殊で、魚の群れに吻を挿入して魚を叩くのですが、バショウカジキが吻を近づけても魚が逃げません。今の所、lacura rostralisはバショウカジキだけでしか確認されていない様で、この特殊な狩りを可能としている原因と考えられています。lacura rostralisの奥には感覚器官のような構造があることから、魚の動きを詳細に感知できている、もしくは、くぼみが吸引力を発生させていることなどが仮説として挙げられています。

いつも汚い手書きですいません。lacura rostralisの図解です。吻を腹側から見た時、側面には微小な歯が並び、中央に半球上のくぼみがあり、小さな歯のようなものがたくさん生えています。

解説(寄生虫)

今回、バショウカジキを紹介したのは、寄生虫を見つけたからです。解剖してみたところ、肉眼でエラにいくつも白い塊を見つけました。この寄生虫は私が専門としている単生類ですが、その中でも私の苦手な方です。扁形動物門単生綱は、“単後吸盤亜綱”と“多後吸盤亜綱”の2つのグループに分かれます。私が主に研究対象としているのは、後者の方になります。この2つのグループの大きな違いは、体の後ろ(写真で言えば下)の吸盤です。バショウカジキの単生類は、体の後ろに大きな吸盤が1つだけあります。一方、多後吸盤亜綱は体の後ろに小さな吸盤(正確には把握器がたくさんあります。

左が単後吸盤亜綱(バショウカジキの単生類)と右が多後吸盤亜綱。赤丸が単後吸盤亜綱の大きな吸盤、水色の丸内の小さな粒々がが多後吸盤亜綱の小さな吸盤。倍率は大体同じ。

バショウカジキの単生類ですが、宿主が食用や釣りの対象魚として有名なだけあって報告がありました。ただ、今回私が採集した単生類が同じかは分かりません。染色して、体の構造を調べて、過去の記載と同じであるかを確認する必要があります。もしかすると、新種の可能性も残っていますが、大変低いです。また、DNAの情報もないため、きちんと検査する必要があります。ちなみに、過去にバショウカジキから見つかっているのはCapsala ovalisという単生類です。1894年にTristomum ovaleという名前で五島清太郎によって記載されていました。その後、分類の変更があったようです。詳細はこれから調べていきますが、関連論文を簡単に目を通したところ、この単生類はほとんど口の中や体表に寄生する様で、エラに寄生しているのはこれが初めてみたいです。

【参考文献】

Jan Häge, Matthew J. Hansen, Korbinian Pacher, Félicie Dhellemmes, Paolo Domenici, John F. Steffensen, Michael Breuker, Stefan Krause, Thomas B. Hildebrandt, Guido Fritsch, Pascal Bach, Philippe S. Sabarros, Paul Zaslansky, Kristin Mahlow, Maria Schauer, Johannes Müller, Jens Krause 2022 Lacunae rostralis: A new structure on the rostrum of sailfish Istiophorus platypterus, Fish Biology, vol.100, 5, 1205-1213
Goto, S. (1894). Studies on the ectoparasitic trematodes of Japan. Journal of the College of Sciences, Imperial University Tokyo 8: 1–173.

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