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クローズドな場「Thinka」で得る”リアル”が成長の糧に

UB Venturesが運営する起業家のためのソーシャルクラブ「Thinka」 の第1期メンバーが、2020年12月に卒業を迎えた。2021年7月より第3期メンバー募集を開始するにあたり、Thinka卒業生であるアルプ伊藤浩樹(アルプ伊藤)氏、playground 伊藤圭史(KG伊藤)氏に、起業家たちに求められるコミュニティ像を聞いた。(聞き手は、UB Ventures 岩澤脩)


SaaSビジネスのグロース手法を学ぶため、Thinkaに参加

――お二人はThinkaの中でお兄さん格として強くコミットしていただいてきました。まずは2019年にThinkaに応募されたときの状況を教えてください。

アルプ伊藤:当時はまだプロダクトをリリースしておらず、テストユーザーが見つかって導入準備を進めている段階でした。

僕自身、BtoB SaaSのビジネス経験はなかったので、成功してきたBtoB SaaS企業が、どこで壁にぶつかってきたのか、どんなタイミングでファイナンスをしてきたのか、最初にどういった販売戦略を立てていたのかを聞いてみたいと思ったのが、Thinkaに応募した理由です。

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伊藤浩樹 Hiroki Ito  アルプ 代表取締役
東京大学卒業。モルガンスタンレー、ボストンコンサルティンググループを経て、2013年にピクシブ株式会社に入社。ピクシブでは新規事業開発、開発組織のマネジメントを経て、2017年に代表取締役社長兼CEOに就任。2018年8月にアルプ株式会社を設立。組織・採用、ファイナンス、事業開発(BizDev)を担当。

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アルプについて
設立:2018年8月
事業内容:SaaS・サブスクリプションビジネスの効率化・収益最大化を支援するクラウド販売管理サービス「Scalebase」を提供。
HP https://thealp.co.jp/

――playground伊藤さんははいかがですか?

playground伊藤(以下、愛称の「KG伊藤」):2019年は、電子チケット「MOALA」をスタートして2年くらいのころです。チケットぴあ、埼玉西武ライオンズなど大手に導入していただいていたのですが、チケットを購入する一般のお客さん側が必ずしもデジタルに積極的ではない。利用率は3割くらいで、アーリ―アダプターが使うだけのサービスにとどまっていました。将来的に伸びる確信はありながら、正直、相当悩み、どうすればいいのかモヤモヤしていました。

――KGさんはプロダクトへの感度が高い印象でした。当時、PMF(プロダクトマーケットフィット)が進んでいると思っていたのですが、そんな悩みがあったのですね。

KG伊藤:プロダクトへの感度はむしろ低かったんだと思います。

僕はIBM出身なのですが、前に起業していた会社も極めてSI的な志向で、1社1社に丁寧に向き合って、お客さんから信頼を得ていくことで勝ってきました。でも、playgroundではその成功体験が逆に足かせに。1つのプロダクトにレバレッジをかけて一気に広げていく「掛け算の勝負」の発想がなかったのです。

当時、着実に大手さんとの取引は積み上げられていたのですが、そこから一気に上場後の世界も含めたグロースのイメージが描ききれないという課題感があり、Thinkaに応募しました。

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伊藤圭史 KG Ito  playground 代表取締役
上智大学卒業後、IBMコンサルティング部門を経て2011年、オムニチャネルに特化した戦略・システムファーム Leonis&Co.を設立し、百貨店、量販店、電鉄など小売業を中心に大手各社の事業展開を支援。2014年にトランスコスモスへ売却。2017年6月にplayground 株式会社を設立。代表取締役に就任。愛称は「KG伊藤」。

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playgroundについて
設立:2017年6月
事業内容:エンタメのデジタル化支援プラットフォーム「MOALA」の提供を中心に、スポーツ・エンタメ業界のDXを支援。
HP https://playground.live/

――お二人とも、かなり先の話を学びに行くというよりは、2歩3歩先に何をすればいいのかを具体的にイメージしようとThinkaに参加されていたわけですね。


Thinkaの価値は、先人の知見の獲得、同期起業家との議論

――本気で起業したいと思っている人や、シードからプレシリーズAの起業家にとって、どんな学びの場、コミュニティであれば、次の成長に活かせると思われますか。

アルプ伊藤:一般的な起業家向けのイベントやコミュニティは、事例やナレッジの共有がメインのように感じます。ただ、10年前の事例を聞いてもハマることもあればハマらないこともあるので、鵜呑みにしすぎてもよくない。一方で、このフェーズではこれくらいはやっておかないとダメだよね、という成長プレッシャーは投資家や市場から受ける。手探りで進むよりは解像度をどう上げていくのかが大事なポイントだと思いました。

コミュニティには、縦と横の関係があると思っています。縦はすでに成功した先輩起業家や専門家。そして、横は一緒に参加する起業家メンバーです。実際のところ、どういうメンバーが参加しているかは非常に大事だな、と思っていました。

勉強会などは、一人では会えないような専門家に話を聞けるのがメリットですが、それも、参加者によって引き出せる情報が変わってくる。いい起業家が集まっていてこそ、コンテンツも良くなるのだと思います。

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近いフェーズの起業家が集まり、ある程度お互いにうまくいってると、こういうアプローチだとうまくいく、こんな採用戦略を取っているというのを教え合える。ちょっとしたtipsをシェアしやすいのは非常にいいと思っていました。利害関係がないからこその切磋琢磨は、いい起業家が集まっていてこそ意義があると思います。

KG伊藤:僕が、Thinkaに感じるメリットは2つです。1つは勝ちを経験している人から話を聞けることです。

僕は、「事業を成長させたことのない起業家は何年たっても成長しない」と思っています。それは、自分自身がそうだったからです。起業家になって9年たちますが、極めて小さなフェーズしか経験してこなかった。

Thinkaに参加する以前はスタートアップコミュニティに属したこともなく、本からの学びに頼っていました。例えば、「リーンスタートアップ」(エリック・リース著)はとても価値のある本です。本を読めば、理論的に正しそうな仮説にはたどり着けます。

ところが、現実には、理論的に正しそうな選択肢が常に100や1000はある。その中からどの選択肢を選ぶのか。普通の人は、勘とか運とか趣味嗜好で選ぶでしょう。事業で成功している人は、それを選ぶセンスがあるんです。すでに成功した事例があるので一歩先にいらっしゃる。1000の選択肢のうち、成功する方法は30ぐらいあるとして、そのうち1つか2つは知っているという状態なんだと思います。

僕はコンサル出身。事業経験のない中で頭でっかちにベストプラクティスを持ち出す世界から来たので、事業で勝った経験のある人の話はとても参考になりました。

Thinkaのもう1つのメリットは、同じような悩みを持っている人の存在です。同じようなフェーズで悩んでいる人たちとしっかり話すことで、ここは自分が得意だ、ここは弱みだと物差しを持てるようになりました。比較できるものがないと、暗中模索で不安定な状態になりますからね。

自分の弱みを自覚すると、こういう人を採ろうとか、この領域にはもっとレベルの高い人がいるといった採用の話題になります。世の中を突破していくためには、最終的には組織の力が重要なので、弱みも含めて共有できる場に価値があると思います。

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――同じフェーズで選ばれた人たちが集まることによって、1つのコンテンツを受け取るだけでなく、自分や自分の会社を客観視できることに価値を感じていただいてたのですね。

会社の先輩後輩、友達ベースの起業家のつながりはあるけれど、友人でもなく適度な距離感での起業家のつながりは、意外にないと、アルプ伊藤さんがおっしゃっていましたね。学生から社会人になるときは、同期という同じフェーズの人たちとのつながりがあるのに、起業した瞬間に同期がなくなる、と。

アルプ伊藤:Thinkaの特徴は、シード期の起業家だけが集まっていることです。ベンチャーキャピタルが投資先を集めてコミュニティにしているケースはあると思いますが、フェーズで切っているところはあまりない印象でした。

もし、UBVが投資先だけを集めていたら、シード期からプレIPOまで様々なフェーズの起業家が集まるでしょう。それだと、大学生と小学生が混じっているようなもので、問いの立て方や、聞きたいことにだいぶ差があると思います。

だから、フェーズがそろっていることに一定の価値を感じています。課題感が近くて、アジェンダ設定がよく、ディスカッションも盛り上がる。

一方で、フェーズをそろえようとすると、数と質のバランスは難しい。さらにBtoB SaaSで区切ると母数がすごく小さい。その中で、僕らはThinkaの第1期ということもあったのか、前のめりの面白いメンバーたちが集まったなと思っています。

KG伊藤:これまでスタートアップコミュニティには入ってこなかったので、他との比較はできないんですが、アルプ伊藤さんの話を聞いて、同じフェーズのメンバーだったから学びが大きかっただと、今、改めて気づきました。

本や記事を読んでも、「Googleでは~」と言われても、フェーズやビジネスモデルが違うと役に立たない。場合によっては、マイナスになることもある。公開の場では、どうしても総花的な話題になり、「かっこいいね」とは思うけれど学びとしては浅いなということが多くなりがちなんです。

Thinkaは、SaaSで、かつアーリーステージが集まるクローズドな場だったから、聞くこと学ぶことがすっと入ってきたんだと思います。ほかの方の質問もすごく学びになりました。この人はこういう観点で悩むんだ、なるほど、と。

――同じフェーズ、同じ領域だからこそ課題が収斂していって、コンテンツのクオリティが高まる効果があったわけですね。

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クローズドな場でしか共有できないリアルが、成長の糧となる

――1年半の活動の中で、最も役立ったのはどんなコンテンツでしたか?

アルプ伊藤:HENNGE、ユーザベースグループのFORCASの方にエンタープライズセールスについてお話しいただいた2つの回です。クローズドな場ということもあり、内情をかなりオープンに話していただけました。何人くらいの時にどんな組織図で、どうやって動き、どんな問題にぶつかって乗り越えたのか。具体的な事例でお話しを聞けたので、自分が経営判断をするときにも、悩む時間が減ってアクションを起こす勇気がでました。

KG伊藤:僕も同じです。もう1点追加すると、ユーザベース創業者の梅田さんから聞いた「強いペイン」の話です。以前は、SI的な発想で、1社ごとに、お客さんから要望されたら何でも対応するのが当然だと思っていました。つまり、「弱いペイン」も含めてつぶしに行ってたのです。それだと、「足し算」の思想で毎年1.5倍、2倍に伸ばすことはできても、そこで止まってしまう。

成長しているSaaS企業って、突然、10倍、20倍になります。それは、目の前の顧客だけではなく、市場にとって必要な「強いペイン」は何かを考えているからなんだと梅田さんのお話で気づいたのです。

それからは、自分たちのプロダクトにとって「強いペイン」は何なのか、PMFとは何か、どこまでPMFが進んでいるのかを社内で徹底的に議論するようになりました。おかげでこの1年ほどで事業は爆発的に伸びたのですが、そのターニングポイントになったという感覚があります。

――それは嬉しいフィードバックです。実は、Thinkaを立ち上げた背景には、私の原体験があります。ユーザベースのアジア事業立ち上げ時、香港に一人で送りこまれました。現地に誰も知り合いがおらず、一個一個手探りで進めるしかない状況でした。ところが、あるタイミングで同じ世代の起業家たちが集まり始め、そこから成長曲線が上がったなという感覚がありました。

同じ領域で、同じステージで活躍している起業家たちと適度なライバル感、適度な距離感でつながって、同期感だったり、先輩後輩のような関係をもてる場所を持ちたいと思い、Thinkaを立ち上げました。

机上論よりも実体験、成功体験も大事だけど失敗体験もオープンにする、自己顕示よりも自己開示というコンセプトを最初から掲げてきました。1期のみなさんのご尽力もあって、その文化が表現できてきたと思っています。

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「消費者」ではなく、「生産者」として参加せよ

――これからThinkaに応募いただくみなさんへのメッセージをお願いできますか。

アルプ伊藤:強めに言うと、質問がない人は来ない人がいい。聞いてるだけでは、自分に入ってこないので、時間ももったいないなと思います。あとは、横と縦のつながり、つまり参加する起業家とも、登壇してくれる方ともつながりやすい環境だと思うので、それを糧にするつもりで応募してほしいです。

KG伊藤:かぶりますが、やはり質問することですね。自分の課題感、納得しきれない自分の仮説、あってるかどうかわからない曖昧になっている部分を、実体験のある人に聞いて確認できる場なので、徹底的に質問することが大事です。

――お二人のお話を聞いて、改めて、月に一度のThinkaのイベント参加を自分の時間にされていたと感じます。こういうイベントはついつい受け身で「消費」するだけで終わりがちですが、聞いている側も「生産者」になることで学んだことが定着していくのだと、私自身も勉強になりました。

お二人を始めとした1期のみなさんに作っていただいたThinkaの文化を2期、3期へと継承していきたいと思います。お二人にはフェローとして、アドバイザーという立場から次のフェーズの起業家の皆様をサポートいただきます。今後ともどうぞよろしくお願いします。

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構成:久川 桃子 | UB Ventures エディトリアル・パートナー
2021.05.17