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保護猫クリクリの忠心


クリクリはハチ割れの、黒のブチが愛らしい雌猫である。私が実家に戻ることになった時に一緒に連れて帰った。実家の先住猫モモはそれが気に入らずクリクリをいつも嫌っていた。


 ある日、リビングで映画を観ていた私は、突如として感情がコントロール出来なくなった。映画のストーリーと自分の人生が重なって辛くなったのだ。 涙がとめどもなく流れ落ちる。その上この時は不覚にも嗚咽も混ざっていた。


 モモはあまりの泣き声に目を丸くして、固まっている。するといつもはモモの顔色を気にしてばかりのクリクリが「にゃにゃにゃにゃー」と鳴きながら血相を変えた様に私に突進してきたかと思うと、膝の上にひらりと乗り、私の肩に両前脚をのせ、はらはらと流れ落ちる涙を懸命に舐めとってくれる。


 そのクリクリの思いがけない慰めに、私の泣き声は一層大きくなる。「大丈夫。大丈夫だから」鼻水迄で出る始末だ。いつも甘えてくるばかりのクリクリが私の悲しみに寄り添おうとしてくれている。


 その存在が有難くて、また涙が出るのだ。私の涙を懸命に舐めとる彼女の舌のざらつきを今も不意に思い出す。彼女への愛を示す機会がもうない事が
私の後悔である。

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