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2021年7月の記事一覧

赤い小箱が皆無の衒い

赤い小箱が皆無の衒い

 銭湯からの帰り道、路地裏の、電信柱が一本しかない暗い小道に赤い小箱が落ちていた。その前に突っ立った私は長いことそれを見つめた。見つめている間、夜風が吹いて髪が揺れたり、大きな鳥がゆっくり頭上を通ったりもした。

 それは牛乳石鹸の赤い小箱だった。持ってみると中身は空で、なのに箱の輪郭はしっかりと強いまま、「箱」であること、それだけでしかなくて格好良く思った。ホテルに持ち帰ると、窓のところに置いて

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