見出し画像

「現代俳句」2021年5月号

 6月から働く部署からの引き継ぎや、現在所属している部署のこまごました仕事に明け暮れていたらもう6月が目の前で驚きました。毎月似たようなことを言っていますが、毎月新鮮な気持ちで驚くので記憶喪失かもしれません(大嘘)

 昼休みもそこそこに、という日が続いていたので、目次から気になったところを読んで、あとは恒例の「翌檜篇」の感想を。青年部はどの地域であっても親近感というか、まあ、青年なのでね。勝手に身近に感じております。はい。


第二十一回現代俳句大賞受賞
受賞のことば  池田澄子

 池田澄子さんと言えば「じゃんけんで負けて蛍に生まれたの」の句の人だよな、と思って次のページを見ると、しっかり載っていました。ですよねぇ。わたしでも知ってる。名句をまったく覚えられないわたしでも覚えられたのは、おそらくこの句を友人に紹介したからだと思います。そのとき、「めっちゃいい!」ってはしゃぐ友人に、言葉の力をひしひしと感じたのを覚えています。

 澄子さんは「群島」という結社に所属されていて、ずっと「師」を仰ぎながら句作されていたようですね。わたしも一度、結社に入ることを考えた時期がありました。結局、野良というか風来坊というか、気ままな無所属を続けておりますが。
 わたしのことはさておき、澄子さんのことばの中には、こんなものがありました。

 初期の頃、今思えば既にありそうな出来上がった感じの句を句会に出句して沢山点数が入ったとき先生は、「あぁイケダスミコがこう書いちゃダメだナ」とおっしゃったことを覚えています。

 羨ましい~~~~~~~! すごいですよね、師匠に「おまえはそんな句作っちゃだめだよ」って言われるのって、すごいことだと思います。だって、師匠の中には、すでに(この場合は)澄子さんの作風というか、句作への感性なんかが出来上がっているわけじゃないですか。わたしは人生で師匠と呼んで習ったのはピアノだけですが、そのときでもそんなふうに言われたことはなかったなぁ……。澄子さんはこう続けています。

 偶々それは事実であり実感だったのですが今は分かります。堀井鶏が私に求めていたものが他にあったということが。

 いやぁ……わたしも師匠(わたしの場合ピアノですが)に一度でいいからそんなふうに言われてみたかったなぁ……後にも先にも褒められたのは卒業試験の演奏だけでしたけどね。

 私の俳句は、師より学び師と異なった何かを生むことが課題でしたが、どこまで書けたのか心細く、終わりがなく、これからも気が抜けません。

 ストイックに、感性を研ぎ澄ませて、真摯に向き合う。そういうたくましさをひしひしと感じる「受賞のことば」でした。
 次ページの抜粋句から好きなものをちょこちょこと。

 ピーマン切って中を明るくしてあげた
 青嵐神社があったので拝む
 目覚めるといつも私がいて遺憾
 よし分った君はつくつく法師である
 アマリリスあしたあたしは雨でも行く
 私生きてる春キャベツ嵩張る
 猫の子の抱き方プルトニュームの捨て方

 斜に構えているようで純粋な世界観が軽やかに綴られていて素敵だなぁと思います。俳句を知らない、読んだことがないという人でもなんとなくわかるような、わからなくても楽しくなるような、そんな句が多い気がします。
 こんなふうに句を作り続けられたらいいな、と憧れを抱きつつ。


翌檜篇(29)
東海地区 現代俳句協会青年部 選


しるし  後藤麻衣子

 鞦韆のあとの手銀色の匂い
 いいですね。「銀の」じゃなくて「銀色の」って言うところ。匂うよねぇ、うっかり錆びてたらとんでもない匂いだもんな、ぶらんこ。でも、その匂いが遊んだ証でもある。

 仏壇の蝋燭借りて庭花火
 うん。夏だ。盆だ。いい景色ですね。盆じゃないかもしれないけど、まあ、夏だし素直に盆だと思っておきます。御先祖も「みんなで使えばよろし」と笑っていらっしゃることでしょう。濛々と、火薬の匂い。

 ひろわれてやっとどんぐりらしくなる
 「やっと」かぁ……どんぐりって拾われる前に気づかれること、あるのかな。わたしは、すまん、気づかない。わざわざどんぐりの木(ならの木?)を見上げることってないもんな。そうね、どんぐりって、そういう宿命背負ってるかもね。今年は、落ちる前に見つけられるかな。


花ごころ  松永みよこ

 春光をまとい駆け来る想い人
 めちゃくちゃキュンじゃないか! 胸キュンワンシーンじゃないか! こういう句を作れる方を、わたしは本当に純粋に尊敬します。だって、わたしにはこんな光景浮かんでこないんだもん。こんなシーンのあるドラマも見ないし!(コラ)「まとい」「駆け来る」に「想い人」はてんこ盛りな気がしますが、てんこ盛りの恋なんですよね、きっと。

 春の雨耳がはじめる恋一つ
 選んじゃうよ~~~~恋を~~~~~~~星野源の「恋」が流れるよ~~~~(タイムリー)「耳がはじめる」って物語があるな、と思いました。それを「一つ」を言わんでもひとつであって欲しいとは思いますが(いや、まあ、複数はじまってもいいんですけど)、どういう恋がはじまるのか「春の雨」のみぞ知る。

 春の雪馴れ合い避けてさみしくて
 松永さんはわりとストレートに言葉を選ぶ方なんだな、と思います。その直球が「さみしくて」という下五に表れているような。ソーシャルディスタンス、さみしいね。そうね。わたしにはちょうどいいけど、さみしい人にはきっとさみしい。雪は解けてもさみしいのよ。


みおくる春  たんく

 走り梅雨多色刷りの岬萌ゆ
 コピー機の印刷に「単色刷り」って設定があって、実はずっと興味がある。やったことないけど。これは「多色刷り」なので、カラー印刷のことかな。印刷された岬が萌えて見える。フライングすぎる梅雨のはじまりに、少し憂鬱だった気持ちが岬の青さで癒される。どこの岬かなぁ。

 猫の子の寝顔愛しや耳ピクリ
 ニャン(猫)が好きです。うちでは飼えませんが、世界ネコ歩きを毎週見るほど好きです。ニャンは寝顔もかわいいのです。寝ているニャンの耳がピクっと動く。うん、かわいい。かわいいことに気を取られてうっかり忘れかけましたが、「愛しや」って言うところ、ニャン愛が溢れていてにこにこしました。

 猫の恋理想の世界在るを見る
 同じ猫でも「猫の恋」は、実際かわいくはないんですよね。あはは。さてさて、この句は、ちょっと「わからんぞ?」と首を傾げたので選んでみました。関西ゼロ句会だとわりと定番な「逆選」ですが、句会であったら逆選にしてたかな。悪いというわけではなくて「理想の世界」ってなんぞや、とか「在るを見る」ってどういうこっちゃ、とか、引っかかるところがあるじゃないですか。
 でね、「在るを見る」を調べると、あるわけですねぇ、便利だなぁ、ネットは。哲学ですね、潜在意識というか。「ある」という事実を「見る」ことで、存在は証明される。
 猫の恋を見ながら(まあぶっちゃけただの情事っちゃあ情事)、そこに理想の世界を見出すというか、「ああ、あるなぁ」って思うのも悪くないのかもしれませんね。というかね、これは余談でわたしのひとりごとですが、「ああ、あるね」って思うだけで心穏やかにいられることってありますよね。「ああ、そんなこともあるね」「こんな人もいるね」と。「こんなのいやだ!」「ああでないといやだ!」と思うことも大事なんですけど、受け入れられなくても、「在るを見る」ですよ。あることは、認めなきゃ。そこからどうするかは、自分次第でいいんじゃないですかね。
 あれ? なんの話だ?(脱線しすぎ)そんなことまであれこれ考えちゃったおもしろい句でした、という話です(ほんまかよ)


髪洗ふ  村山恭子

 鼠志野織部黄瀬戸は古酒が良い
 当然、知らんので(織部でなんとなくそうなんかな、とは思ったけど)調べました。美濃焼のことでした。美濃焼のこのラインナップには古酒だ、と。なるほど。二階堂のCMのナレーションになりそうだな。「古酒が良い」と言い切る潔さ、好きですね。お酒飲まんからわかりませんが、誰か試して欲しい。

 あらそひの無き国あるや鳥渡る
 渡り鳥は知っている。争いのない国のことを。でも、わたしは知らない。どこにそんな国があるのか。それは、桃源郷かもしれない。たんくさんの句にあった「理想の世界」なのかもしれない。誰も知らない「あらそひの無き国」。静かなセンチメンタルに浸れる句。

 挫折せしことが勲章文化の日
 強いな~~~~~~なんていうか、強いっすね、村山さんの句は。強いって言ってもパワーのほうじゃなくて、こう、根が深いというか、どっしりした強さを感じますね。古酒といい、争いのない国といい、挫折といい。言葉の力が強いんですよね。「竜宮城へ行けさうな水眼鏡」という句も、ファンタジーだけど「竜宮城」というのがいいですよね。いやぁ、おもしろいなぁ。


 はい。じわじわお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、翌檜篇しか句読んでへんやんけ、という。ううん、そうですね。たくさんあってですね、選べないというか、そこまで全部読めないんで。これは正直申し上げて無理があります!(言いやがった)
 もし、「今月号載ってるから感想書いて欲しいな!」という稀有な方がいらっしゃいましたら(いや、感想欲しい人は稀有じゃないけど、相手がわたしだから稀有でしょう、これはきっとそう)、こっそりどこからか教えてくださいませ。早めにお知らせいただけたら間に合うと思いますので。「わかんなーい!」ってなっても怒らないでくださいね。なにがわからなかったかくらいは言うので、はい。誠意と敬意はあります。それしかないとも言う。

 うわぁ、段々長くなってるな。無駄話が多いのか。もうちょっとすっきり書けるように精進します。面白がってもらったら、♡(これなに? いいね? ステキ? なんだっけ)押してもらえるとうれしいです。じゃあ、また来月!

よろしければサポートお願いします! サポート代は句集購入費として使わせていただきます!