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「まがり書房の句集」小笠原克巳

 職場の近くに「犬と街灯」という本屋がある。Twitterで偶然見かけたその店に、勇気を出して足を踏み入れ、最初に買った本がこの句集だった。B6サイズ、56ページ、中綴じ。表紙には「開業時から書き続けた俳句の日録」とある。
 1ページあたり3句~5句。読みやすいフォントサイズ。うん、いい感じ。中綴じの本って、どこか手作りな感じがして好き。開きやすいから、のどの近くの文字も読みやすい。小笠原さんは、ついうっかり古本屋をはじめたそうで、好きな俳人は池田澄子、と。
 作者の情報を入れたところで、句への印象は変わらないので問題なし。どんな人か単純に興味があるのは、「まがり書房」が古本屋だからだと思う。
 句集の感想ってどうやって書いたらいいかわからないな。いつものように、気に入った句を書いて、感想を書くとする。

 制服は着慣れましたか四月尽
 新年度。新入生、あるいは、制服のある新社会人。四月が終わる頃になると、どこか落ち着かなかった制服も、段々と馴染んできたような。「着慣れましたか」と道行く人に問いかけるように、心の中でそっと呟く。そういえば、わたしは制服のスカート、最後まで着慣れなかったな。そんな子も、どこかにいるんだろうな。

 今頃は何処にいる悪いピストル
 「警官のピストルが何者かに持ち去られました」というニュースが飛び込んでくる朝。落ち着かない。どこにいるんだろう、その犯人は。そんなことを思う。一方で、子どもが水鉄砲を打ってくる。あの子の水鉄砲もまた「悪いピストル」。まだ犯人が捕まっていないから、早く帰りなさいね。

 犯人は箕面にいたよ松落葉
 「箕面で容疑者を逮捕しました」というニュースが流れる。やれやれ、やっと捕まったか、という安堵。そんなドラマがひとつふたつ、出てきそうな句。

 本のシミ十月十日木曜日
 日付のところに染みがあったのか、その日に染みを見つけたのか。いずれにせよ、ちいさな発見をした木曜日。木曜日って、どこか落ち着いた雰囲気を感じる。水曜ほど「折り返す」ということもなく、金曜ほど「いざ、週末」ということもない。どっしりとした十月十日を感じる。

 ブロッコリーに咲く花の数いくつ
 そもそもブロッコリーの花をろくに見たことがないから、数えたこともないけれど、「ブロッコリーって花咲くんやぁ」って会話は誰かとしてみたい。ブロッコリー見ながら。

 子らの声なき校庭に鯉幟
 子どもはいなくても子どもの日はある。誰もいなくても鯉幟は泳ぐ。さみしさの中でも、変わらずにあるものを見て「いつか」を思う。ずっと我慢を強いられて、子どもも窮屈だろうなぁ。元気いっぱいな声を聞くと、安心する。歳を取ったから、というより、同じ世界で暮らすひとりの人間(大人)として培った感覚なのかもしれない。

 まがり書房は阪急池田駅から徒歩五分。古本屋を営みながら俳句で綴る日々が、これからも穏やかであることを祈って。いつか、本を買いに行きたい。

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