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句具ネプリ2022 春分 vol.5

 今回も締切前日に滑り込みました。毎回「今回はいいか~」と思うのに、気づいたら参加しているという不思議。なんとなく顔を出してしまう、ちょっとしたかまってちゃんというやつでしょうか。楽しそうなことって首を突っ込みたくなるんですよ、わはは。
 というわけで今回も初見でいいなと思った句をババっとしゃべってしまおうと思います。180句って改めてすごい。

マネキンを抱へて春とすれ違ふ  堀田季何

 百貨店やショッピングモールの舞台裏を思い浮かべました。忙しく走り回る中、ふとなにかとすれ違う。すれ違ったとき、それを春だと思う。どれだけ忙しくても季節を感じられるのはすてきなことだと思います。それはそうとマネキンって融通が利かなくて運びにくそう。台車に乗せるではなく抱えているのがいいなぁと思いました。

子きりんの角の三角花ミモザ  綱川羽音

 かわいい~~~~。こどものきりんってほぼおとなと同じ容姿だと思うんですけど、角が見える高さってことなんですよね。距離の近さが幼さからくるものであることも愛おしく感じるし、花ミモザのかわいらしい黄色がきりんの赤茶けた色と似合っていて好きでした。動物園に行きたくなりました。

絵カードのどんどん増えて春の風  藤田亜未

 絵カードってなんだっけ、と思って検索したら知育玩具が出てきました。わたしが絵カードで覚えたのは音符と休符だったなぁ、と思い出しながら句に戻りますと、「どんどん増えて」とあります。子どもが言葉を覚えるとき、食べ物を覚えるとき、乗り物、スポーツなどなど、ジャンルごとに絵カードが増える増える……でも、それは同時にその子の成長の証でもあるんですね。春の風が吹き込んでくるリビングで、絵カードを片付けながら……そんなやさしい光景が浮かびました。

涅槃西風いつぴきのキマイラとして  村蛙

 涅槃西風は浄土から吹く風として想像されることがあるとか。キマイラはギリシャ神話に出てくる怪獣です。あの世と怪獣というある意味「非現実的」な存在が、おだやかに調和しあっている不思議な句だと思いました。どこかゆったりと落ち着いていて、キマイラとしての矜持や悟りというものを涅槃西風が運んでいくよう。それはきっと、春にしかできないことなのかもしれません。

クリスティアーノ・ロナウドのごと青き踏む  平良喜列乙

 サッカー選手のような足さばきで青草を踏んでいく。軽やかでトリッキーな動きがロナウドそのものなんでしょうね。あるいは、ロナウドになりきっている気分とか? いずれにせよ、うきうきした気分が憧れのロナウドの動きをまねる行為に昇華されていて楽しい句だなと思いました。

桜東風ココアを買ってきてもらう  内橋可奈子

 まだちょっと寒い風が吹いて、あったかいものでも飲みたいな、と思ったときにココアを買ってきてもらう。ただそれだけにも思えるけれど、買ってきてくれるひとのやさしさも、コーヒーじゃなくてココアがいい気分なのも、ちょっと甘くてほろ苦いのがすてきだなと思いました。

 はい。180句というボリューム。大変楽しく拝見いたしました。春って、わたしにとっては「花粉症」「新年度」「人混み」のトリプルコンボでそれほど好きな季節ではなかったんですが、こうして俳句を通して春を見ると、やっぱりいい季節だな、と思います。わたしが好きな春の季語は「うららか」です。春そのものという感じがしてキラキラした言葉だな、って思います。
 最後に、わたしが投稿した句を添えて終わります。お付き合いいただきありがとうございました。

角部屋に転がりこんでくる春日  相田えぬ


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