BL連作ネットプリント「彗星書架」第3号
酷暑厳しい八月のBL連作句会のテーマは「サラリーマン」。
句会では「作中人物は本当に働いているのか?」というツッコミも飛び出すほど盛り上がりました。思いがけずいろんなサラリーマンが登場します。楽しんでいただけるとうれしいです。
ミュート 松本てふこ
三日月や我らに狭き給湯室
句会で話題になった「労働の描写」という点で言うと、てふこさんの作中人物はめちゃくちゃ働いています。そのリアルさからは恋愛どころではなさそうに思えるのですが、仕事のできるふたりだからこそ「うまくやる」んですよね……この「うまくやる」感じが一服の離席であったり、会議であったりから想像できます。そんなふたりでも、うっかり「ミュートにしそびれて」なんて一面もあるのが憎いですよね。
給湯室の句は、マグカップを丁寧に洗う彼とそれを入口に立って見ている彼が思い浮かびました。これぞオフィスラブ。
好きな人 みやさと
天高くしてライバルは健やかで
営業職でしょうか。蚯蚓を土に戻す人が、きっとこの「ライバル」で、「健やか」な人なのだと思います。いい人なんだろうなぁ、と連作を読んでしみじみと感じますし、秋の月を「ふと分かち合ふ」ことができる相手というのもすてきです。
誰に邪魔をされるでもなく育まれていく関係を、「口づけて乱す敬語」と進展させているところがドラマチックで好きでした。
連名 西川火尖
氷屋へ謝る俺のミスなのに
この連作には前作があり、火尖さんもネットプリントのコメントに書いているのでみやさとさんのTweet(譲らないスタイル)を引用させていただきます。
「俺のミスなのに」としょぼくれる後輩、その後始末書の連名を気に留めたり、花火買って公園に行ったりと、あまり仕事のことを引きずっていないように見えます。しかし先輩はそもそも後輩に気があるのでは、と思います。だからちゃんと守ってあげるし、それとなく誘っているんですよ。ずるい。さらに言えば、来るか来ないかは後輩に委ねているわけです。ずるすぎる。はっきりしない感じがたまらなく好きでした。
香水 佐々木紺
小鳥来て仲悪きふりしてゐたる
日頃から口喧嘩をしている相手とのもうひとつの関係。べつに隠すことではないだろうに、お互いに気になってしまう。「仲悪きふり」になっている時点で変わってしまった関係性をまだ認められないのか、知られてはいけないと強く思ってからのことか。
いずれにせよ時間の問題な気がするこのふたり。オフィスの片隅で成り行きを見守っていたいふたりです。
ほとんど火 楠本奇蹄
月醒めて義母と呼べない人だつた
奇蹄さんの作中の視点や視線にはいつもハッとさせられるのですが、この連作もそうでした。わたしは常々「こんな世界があればいいな」と思いながら作ったり読んだりする節があって、自分から切り離した世界=他人事になっている部分があります。でも、この句と最後の句は、一気に「わたしたちが生きている世界」に引き戻されます。悪い人だけが邪魔をするわけじゃない。いい人だけどどうしようもないときがある。それはきっと、お互いに。しあわせってむずかしいな……でも、諦めないで生きていきたいですね。
とりあえず 星野いのり
好きだから無理っすレモンハイに種
この連作を読んで思わず「かわいい!」と口に出してしまいました。大事な話をしようと思っているのに、プールやキャンプの話をしている。でも、話は弾んでいて、だからこそ「好きだから無理っす」が出てくる。なんで無理なん? 好きなんやろ? と困惑するのは読者だけではなく、言われたほうも同じです。レモンハイに種が入っている描写に「生絞りかーい!」とツッコんでしまったくらい、全体的にちょっとズレてる感じがラブコメ感を演出していて好きでした。
同期 相田えぬ
いつもの自句自解コーナーです。今回もテーマの「サラリーマン」の「サ」あたりをかすっただけな感じでしたが、その辺は次の課題にして持ち越すとして。この連作の選評を聞いていたときに、指輪跡がある人物が「攻めか/受けか」で物語がガラッと変わるというか、印象が全然違うことに気づきました。いずれにせよ、自分で作って言うのもアレですが、なかなかのキャラクター像ではあると思うので、どなたかのお口に合えばさいわいです……好きに読んでくださいね……(ごにょごにょ)
前回、わたしにとってBL俳句は「しあわせを見つめること」だとnoteに書いているのですが(え、それで今回の連作なん?)、今度はすこしリアリティも向上できればいいな、と思います。「あったらいいな」から「ありそうだな」まで自由に表現できるのが俳句のいいところですからね。欲を出せばキリがないので、ひとつずつできることから表現を試していきたいです。
それではまたどこかで。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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