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「サーチライト」西川火尖

 鉄は熱いうちに打て。というわけで、いつも通りの感じで綴っていきたいと思います。
 火尖さんとはTwitterでのやりとりだけですが、とてもやさしい方だなぁと感じています。SNSはあくまでも「一片」でしかありませんが、それはそもそもお互い様。どんな人かはお互い探り探りで、それはそうとして伝わるお人柄というものがあります。総合誌やどこそこでお名前を拝見する方々と、やりとりさせていただくことことにまだ実感がない今日この頃です。
 こういうご縁にも感謝ですね。ありがとう、俳句。今年もよろしくね(急になんの話よ)

冬帽子金を払つて生きてゆく
 労働の対価として賃金を得、生活の対価として金を払う。そういうものだとわかっていても、そこに不条理がないとは限らない。「生きてゆく」ための「金」という無常さが冬の寒さを感じさせるが、同時に「冬帽子」という愛らしさにささやかな救いがある。

新年がくる嫌な顔ひとつせず
 今年がどんな年であったかわかっていれば来たいと思わないだろうに、という自虐に近い感傷がある一方で、おまえは嫌な顔せずえらいな、という労いの感情を抱く。新年が明るく感じるのは明るい顔をして来てくれるからかもしれない。

付けて名を呼ぶことの無き金魚かな
 実際にあったわけではないのに、なぜかふと「そんなことがあったかもしれない」と思わせられる句だった。不思議な説得力と哀愁がある。

プレアデス星団胸で鳴るラジオ
 ポケットラジオかスマホか。ラジオをイヤホンで聴いている光景。寄り添うように「今夜はきれいな星空が見られそうですね」と告げる声が聞こえてきそうなやさしい夜が思い浮かぶ。

はじまりの違ふ花ざかりの交差
 いっせいであるようで、同じ季節の花も開花時期はそれぞれ。桜の木であってもそうだ。「はじまりの違ふ」という表現がリアリティを出しつつ、ただきっぱりと言い切るのではなく「花ざかり」というにぎやかさ、「交差」という街角の光景へフォーカスすることで生まれる親しみやすさに惹かれた。

 火尖さんの句集「サーチライト」は、どこかあたたかくやさしい温度を感じます。それは決してやさしい句が並んでいるということではなく、人間味であったり、愛嬌であったりと様々な形で現れます。あざとさはなく、むしろ切実であればあるほど愛おしさを感じる気がしました。
 折に触れ読み返したいと思う句集がまた増えました。本棚にはすっかりお気に入りの句集ばかり。贅沢で、しあわせなことですね。すてきな句集との出会いに感謝して、今日は締めくくりたいと思います。

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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