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BL連作ネットプリント「彗星書架」第2号

 ご縁があって第2号にも参加させていただきました。テーマは「おさななじみ」。いろんな幼馴染がぎゅっと詰まったネットプリントになっていますので、ぜひご覧くださいませ(2023年6月18日までです)

週末  みやさと

南風明日はうどんになるカレー

 幼馴染ならではの親しみを感じる、このあたたかな距離感が大好きな連作です。最後のこの句は、特に距離の近さ、日常に当たり前にいる存在、というところがよく出ていると思います。「明日は」とあるので、明日も今日のカレーを食べるんです。そのカレーは、明日うどんになるんです。些細なことだけれど、その些細なことが丁寧に切り取られていて、言葉にしないまでもふたりが思い合う様子が想像できました。
 こういうことがしあわせだと胸を張って言いたい今日この頃です。


子供部屋  松本てふこ

春眠のをはりを君がよぎりたる

 てふこさんと言えば、前回の『アフターアワーズ』で下心を仄めかす、色気のある作品が記憶に新しいのですが。打って変わってあどけない、タイトルのとおり、部屋を覗いているかのような光景が眩しい連作です。
 足音に気づいて目が覚めたのでしょうか。足音で「君」だとわかる間柄。まさに幼馴染にぴったりの温度感です。子どもの頃からの、勝手知ったるなんとやら。とは言え、少しずつ確実に大人になってゆく。そんな気配がいじらしい。かわいいだけじゃないところが、なんともたまらないのです。


手をつなぐ  星野いのり

左手や強くて脆きラムネ瓶

 「や」と強調しているので、左手にラムネ瓶を持っているのだと思いますが、左手だけにフォーカスすると、手持ち無沙汰、宙ぶらりんになっているようにも思えます。「強くて脆き」とはまさにラムネ瓶のガラスそのもののことですが、同時に、関係性だったり相手のことだったり、青春という大きな事柄だったり、もっと漠然としたものを表しているようにも感じます。
 拳で殴り合うような仲なのに、「脆き」と察せられる関係性。ほんのりと切なく、ヒリヒリとした心象がうつくしい連作です。


空蝉  西川火尖

梅雨長き押入に貼るキラシール

 「告げられて~」の句から時間軸が異なっていると感じました。前の3句は子どもの頃の話。最後の2句は今、現在の話。思い出を話しているのか、どちらかがぼんやり思い出しているのか。キラシールは、特別で大事な一枚だったはず。それを押し入れに貼ったのは、ただの遊びでもいたずらでもなく、意図的だったのだと思います。押し入れの中に入って、壁、あるいはふすまの裏のような、見えないところに貼っているのを想像しました。
 たかがシール、されどシール。押し入れのひみつは永遠です。


Child hood's End  佐々木紺

もどれなくなるあさがほのちぎりかた

 戻らないですよね、大抵のことは。戻れないし、戻らない。「もどれなくなる」は、あたかも戻れる方法があるかのような口ぶりです。今ならまだ間に合う。戻れる。そう思うことがあったのかもしれません。でも、戻れなくなるように朝顔をちぎる。その行動には、決意が滲んでいます。それは誰にもわからない決意かもしれません。誰のためでもない、自分のための、覚悟。
 クッションをぎゅっと抱きしめて笑うあの子が、愛おしいだけ。ただそれだけのことが、なにもかもを戻れなくする。


をさななじみ  楠本奇蹄

クリームを泡立てはつなつは航海

 句会でも「臍」の句が話題になり、選評に「下品にならない」と書いておきながら句会では「下品!」と大矛盾をぶちかますありさまを見せたわたしですが、その大矛盾はこんなところから生まれました。
 この句はとてもキラキラしていて「はつなつ」の眩さを感じるのですが、肝心な「臍」だったり、「膚に唇」だったり、どこかこう、どろっとしたものがチラつくんですよね。幼馴染のどちらかの感情が、相手とまるで異なっているような。でもすれ違っているわけではない。言葉にし難いズレ。ここがこの連作におけるふたりの魅力だと思います。


再会  相田えぬ

 頼まれてもいないのに自句自解。もはや自戒ではないかとセルフツッコミしつつ、前回よりやや強く、踏み込んだ連作に挑戦しました。前回、あまりにも情景描写に振り切ってしまって、どんな人物なのか、どういう先生なのか、という部分を、すべて読者に委ねるという他力本願の限りを尽くしました。
 今回は、前回の反省を活かそうと、どんな幼馴染なのかがすこしわかるようになっているのではないかと思います。もちろん、どんなふたりなのかはご想像におまかせするとして、ヒントになる言葉や景を句にしたつもりです。不親切だったらすいません。ちゃんと答えはあるのですが(設定はしっかり作りこむタイプ)、野暮なので割愛。
 今回の『再会』は、どれも同じ構造、似たようなリズムで作りました。平凡な日常の物語を、楽しんでいただけたらうれしいです。

 と、言うわけで、今回も一ファンの感想を書き綴りました。
 BL俳句を作る時間は、自分にとってのしあわせを見つめる時間です。わたしがしあわせだと思うこと、わたしが願っていること。そういうささやかな思いを句にできるのが、わたしにとってのBL俳句なのかもしれません。
 普段の句作と変わりないこともありますが、とは言えやっぱり「好き」と向き合う時間は楽しいです。今回もすてきなメンバーと句会ができたこと、すてきな作品に出会えたことをしあわせに思います。
 そして最後まで読んでくださったあなたにも、心から感謝を。
 いつでも彗星書架を覗いて、ゆっくりお楽しみくださいね。お付き合いいただきありがとうございました。

 

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