「汗の果実」松本てふこ
この場を借りて、というかこの場でしか言えないのでこの際言うけれども、随分前にBL俳句誌「庫内灯」を購入したとき、若気の至り(?)でてふこさんのTwitterをフォローしたところ、てふこさんにフォローバックされるという事件が起きました。それから(おそらく)数回、片手に収まる程度のやりとりをしたことはあったものの、陰から見ているだけの日々。いや、フォロワーってそういうもんやしうんうん、という自問自答を繰り返し今日に至りました。
TLで話題になっていたのを知りつつも、なかなか手に取れず時間だけが過ぎ、ようやく遅ればせながら句集を購入し、ドキドキしながら捲ったところ、再び大事件発生。
よ、読めねえ~~~~~~~~~~ドキドキがマックスハートで爆発しちゃうよ~~~~~~~~!(キモオタの人格が隠しきれない)
ということで、このツイート二か月を経て、ようやく読んだという有様でございました。今まできちんと言葉にしたことがなかったのですが、この際だから言います。めちゃくちゃ好きです。はい。
相変わらずうまいこと言えなくてもどかしいけど、好きという気持ちはいっぱいあります。それだけでも伝わればうれしいです。
会社やめたしやめたしやめたし落花飛花
はじめてこの句を読んだのは、TwitterのTLだったと思う。そのときは共感が先で、桜が散る頃に「仕事辞めてぇなぁ」って思ってたんだろうな、わたしも。でも今はね、なんていうか「そっかそっかぁ」って愛おしくなっちゃった。ぶつぶつ言いながら桜の花びら踏んで帰ってるのかな。
ごみとなるまでしばらくは落椿
「しばらくは」って言われたら納得しちゃう。この説得力は、事実を切り取っているからで。だからこそ、落椿の美しさと侘しさがどっちも押し寄せてくる。諸行無常。
花は葉にまたねとうまく笑わねば
無理して笑わなきゃいけないことがあったのかな。かなしいことか、つらいことかわからないけれど。それでも笑わないといけないんだなって思ったら、ちょっと泣いた。突然のお別れかもしれない。
林檎食ひながら林檎に飽きてゐる
あるよね。あるある。林檎ってなんか、途中で飽きちゃうんだよな。なんでだろう。おいしいんだけど。おいしいのに飽きるって贅沢なんだけど。で、多分、食べながらもうひとつ、例えば誰かの話とか、テレビとか、そっちにも飽きてるんじゃないかな、これ。これも、あるよね。
くちづけのあと春泥につきとばす
照れ隠しにしてはダイナミック。いやがったなら「くちづけのあと」ってちょっと油断してんな。ふふっ。「春泥」なのがいいですよね。泥は泥なんだけど。うん、泥なんだけど。
ボクサーを汗の果実と思ふなり
句集のタイトル「汗の果実」を含む句。ボクサーを「汗の果実」と思うかね、という。いやぁ、まずこういうところなんだよなぁ、って。しみじみと感動する。着眼点はもちろん、言葉の選び方が秀逸というか。なによりね、まずね、わたしはこんなふうに思わないんよね。もうここ。ここですわ、はい(誰)
乱文乱筆お許し下さい星祭
星祭、七夕ね。ふと手紙を書きたくなることってある。ラブレターかな。近況報告かな。いずれにせよ、ロマンチック。なにが書いてあるかもわかんないけど「乱文乱筆」と締めくくるような、私情が綴られてるんだろうな。
メロン切る好きなバンドが解散する
バンドの解散でわたしが一番かなしいのは、新曲が聴けないこと。メロンってフルーツの中でも贅沢品なんよね。わたしの中では(知らんがな)そんなのをね、ザクっとこう、切るのね。バンドが解散するから食べるのか、食べようとしてたら知らせがきたのかわかんないけど。メロンの甘さがぽっかりあいた穴に沁みる。
励まされつつマフラーを巻かれつつ
受験生かな。いや、会社員でもいいか。誰でも、誰かにマフラーを巻いてもらうとき「大丈夫だよ」って言ってもらえたらうれしいよな。マフラーを巻かれてる状態がそもそも励まされる。いいなぁ。
たんぽぽのどこか壊れてゐる黄色
たんぽぽってよく見たら花びらがまばらなことがある。それを「どこか壊れてゐる」っていう表現で、一度は完全だった、完全に咲いていたというニュアンスが伝わってくる。この句も言葉の選び方に打ちひしがれた句だった。
Twitterにも書いたけど、句集は「何度読んでも新鮮に感動できる本」だと思っていて、それはわたしの記憶力が残念ってのも多少あるんだろうけど(苦笑)、それ以上にそのときによって句から感じることが変わる(ことがある)っていうこと。
句会で出した自分の句ですら、後々ふと思い出して読み返したときに「なんでこんな句作ったんだろう」って苦笑いすることもあるし、「あ~~~わかる、わかるわぁ」と思うこともある。そりゃ自分で作ったんだから自分がわからんでどうするという話なんですけど。たまに理解不能のときもあるんですよ、自分のことでもね。
記憶力の良し悪しはさておき、「今の自分が感動する句」ってその時々だと思うし、句に内包する情報は変わらなくても、「情報から感じること」は様々だって思うんです。そういう意味で、この「汗と果実」は、いつかTwitterで見た句があっても、そのときとは違う感情を新鮮に感じられた、という意味でも句集の良さも再確認できた一冊になりました。
時々ハッとする句もあって、ドキドキしっぱなしだったんですが、ドキドキが前に出ないように感想を書いてみたつもりです。ううん、やっぱり難しいですね。何度も味わいたいと思うすてきな句集に出会えました。これからもこっそり憧れたいと思います(ここで言うてるけど!笑)
2021.7.1 追記 購入方法まとめを貼っておきます。ぜひ。
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