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「サーチライト」西川火尖(虚妄Ver.)

はじめにお読みください

 妄想は火のないところに煙を立たせるものだと思われていると思いますし、実際、なにもないところから火柱を生み出す力があります。今回、火尖さんの句集を読むにあたって、火尖さん自身がBL俳句誌「庫内灯」に参加されていたこともあり思い切って「BL読み」をさせていただこうと思いました。もちろん、なんの邪心もない真心オンリーの感想もありますので、それはまた改めて書きます(いずれにせよキモオタムーブは消せないんですけどね)
 そういうわけなので、「BL」や「同性愛」(を主とした読み)に抵抗がある方はここから先はノータッチでお願いします。先に言っておかないと余計怒られちゃうと思うので。念のため「虚妄」とさせていただきましたが、わたしの読みにうそいつわりはありません。誠心誠意、愛を持って「わたしが憧れる関係性」の中で感想を綴らせていただきます。

 ※虚妄の時系列で掲載する関係で、句集の掲載順と異なります。あらかじめご容赦ください※

関係性

 結論から言うと、関係はこの句に凝縮されている気がしてならない。

不時着のふたりと思ふ冬菫

 偶然か、それとも必然かもわからない二人連れ。さいわいなことは生きていること。不幸なことは道連れであること。それでもふたりで生きていかなければならないのだろう。手を取り合うしかなくて、いがみ合えもしない。「と思ふ」という控えめな言葉が、ふたりの距離感を絶妙なものにしつつ、冬菫の青紫がささやかな希望を添えている。

 わたしはこの関係性の中に「先輩」と「後輩」を感じていて(後述の句のにある「後輩」からの想起)、出会いこそ唐突で偶然だったけれど、そこから先のことはお互いに寄り添う形で続いている、と考えている。
(前後左右が気になる方のために明記しておくと、後輩×先輩で読むと違和感がない気がする。わたしとしてはどちらでも構わないです)

ふたりの歩み

本当に薄翅蜉蝣なのですか

 先輩視点。出会いがしらに問いかけられたような唐突さ。無邪気で、突拍子もなくて、まるで子どものようにあどけない。問いかける行動そのものは子どもっぽいけれど、関心の先は「薄翅蜉蝣」なところが、無邪気なだけではない人物像を連想させる。

好きなのは紙風船を拾う人

 後輩視点。散々遊んだあとの紙風船が片付けられることなく落ちている。誰かに踏まれてくしゃくしゃになっているそれを、ひょいっと拾い上げる人――を、見ている視線。「好きだな」と思う瞬間は人それぞれで、そんな些細な瞬間にこそ惹かれてしまう。心の奧がじわりとあたたかくなる。

君に後輩と名乗られ青葉風

 先輩視点。関係に名前を付けるのは誰のためなのか。お互いがわかっていればいい、と思いつつ、ちらつく「世間」から逃げられない。他愛ないやりとりで波風を立てない大人の振る舞いに感心していた気持ちが、「青葉風」に撫でられ、無垢な心に戻る。

逢ふときの短き電話花カンナ

 後輩視点。それ以外に私用で電話をすることがないのだろう。だからこそ「逢ふとき」なのだ。大事なことだから、短いやりとりになっても電話をする。約束を破るような人ではないとわかっていても掛けてしまう。カンナの花が夏を彩る。

何もいらないのに雪が降りにけり

 先輩視点。追い打ちのように雪が降ってくる。これ以上を望まないのに、雪が降っている。粉雪すら、振り続ければ積もる。なにもないなんてことはない。それは、願いの対価を不意にされたような、ちいさな失望感がある。

冬はつとめてこつそりと嗅ぐ匂ひ

 後輩視点。朝の挨拶を交わしたあと、気づかれないように鼻を近づける。気づかれてしまったとしても怒られはしないだろうが、人目を気にするよう窘められる。だから「こつそり」なのだ。この無邪気さがやはり魅力的で惹かれる。素直で愛らしい。この無邪気さに救われる。

 一句をBL読みすることとは違い、句集から「こういう関係性になるかもしれない」と並び替えたため、二次創作と取られかねないことをしたと今頃になって気づきました。ここまで書いて今更引っ込みもつかないので、「怒られたら消します」ということにしておきます。
 この句集を読んだときに、今回書かせていただいた句には自然と近づいていけるようなところがあって、それはわたしが長らく大事にしてきた「距離感」を言葉にされていたからかもしれません。これは異性であろうと同性であろうと関係なく、むしろ恋愛ですらない次元の話になるのでこの場では割愛させていただきます。
 今回はBLという形で「男性同士」という関係性で読みましたが、性別との距離感に関わらず、「読み」についてのあれこれは、これからも真摯に考えていきたいと思います。

 最後になりましたが、火尖さん、素敵な句集をありがとうございます。そして、ここまでお読みいただきありがとうございました。普段より断然冷静に感想を述べている自分に、わたしが一番引いています。次回は改めて素敵な句集をキモオタムーブでお届けしたいと思います(やめとけ)

 それでは今日はこの辺で。

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