句具ネプリ 2021秋分 vol.3

　俳句で使える（というか使うと気分があがりそうな）道具を販売している「句具」https://ku-gu.com/ 。季刊のネットプリントに初参加しました。
　今回はお気に入りのマスキングテープで製本したネプリから、気になった句の感想を書きたいと思います。9月30日まで限定ダウンロードできるようです。迷ったらダウンロードをおすすめしまーす！

地球ごとぶった斬ろうかこの南瓜　　はぐれ杤餅

　渾身の一撃が今、振り下ろされんとしています。「斬」という漢字から刀を想像しましたが、南瓜という着地点に包丁であることがわかります。なにがあったんでしょう。どうか斬るのは南瓜だけにしておいてください。

くちびるの熱そのままにマスカット　　春陽

　熱にうなされているのか、それとも、熱を帯びるようなことがあったのか。果物のひんやりとした感触を唇で感じる、というリアリティと「その熱はなんの熱なんだろう」という不思議がおもしろいです。マスカットの色もかわいらしくて好きです。

星月夜ミニマリストの残すもの　　香田ちり

　ミニマルな生活ってすっきりしていておしゃれで憧れがあります。そんなミニマリストは、なにを残しているのか。空いっぱいの星と最低限のもので生活するミニマリストの対比にうっすらとした静けさがあります。

金星を見つけた飛蝗からおやすみ　　澤田紫

　飛蝗、ちらほら姿を見かける頃ですね。「金星を見つけた」ら寝てもいいんでしょうか。「おやすみ」と語り掛ける誰かの存在が、絵本のやさしい世界のようで心が温まりました。

木犀のぐるりに金の魔法陣　　ふらここ

　こんなに夢いっぱいの十七音を選ばないわけには。「ぐるり」と縁どられるように金の魔法陣があるんですね。銀木犀が金木犀になる魔法？　どんなシチュエーションか不思議でしょうがない。でも、気になってしょうがない。そんな句でした。

水平線まで香りさう島の柚子　　このはる紗耶

　柚子、いいですよね。わたしも好きです。この「島の柚子」への愛着が「水平線まで香りさう」という言葉に詰まっているような気がします。言い切らない中にも誇りが滲むようで、きゅんとしました。すてきな景色。

くたびれてカルーアミルクのやうな月　　天虫

　ミルクティーでもカフェラテでもなく、カルーアミルクを選ぶところがおもしろいと思いました。「くたびれて」が月にも掛かっているような気がして、月も疲れたらこっくりとした色になるのかなぁ、なんて思いました。仕事帰りの景色でしょうか。お疲れさまです、と労いたくなる一句。

夜学してノートにうさぎ二十匹　　里山子

　二十匹は群れじゃ！　と、思わず心の中の千鳥・ノブが叫びました。潔く寝たほうがいいのでは……とお節介な気持ちを抱きつつ、それでもどうにか起きて勉強をしようという姿勢がかわいらしいなぁ、と思いました。

龍淵に潜む今日着る服がない　　山本先生

　秋は着る服に困る。この一言に尽きます。それはさておき、「龍淵に潜む」があることによって、あたかも龍が潜ってしまったがために着る服がない、と言っているようにも取れるのがおもしろいです。

秋雨やガードレールを跨ぐ脚　　どいこい

　道路を渡るとき、あるいは歩道へ移動するとき。よいしょ、と長い脚がガードレールを跨ぐ。「うわ、脚、長……」と心の中で驚くような、そんな光景を想像しました。雨の日ってやけにはっきり見える景色があって、ハッとします。

台風のほぐれて雨の強と弱　　西川火尖

　わたしは雨雲レーダーをよく見ます。台風のときはなおさら。だから余計に、台風がほぐれるという表現に納得がありました。ほぐれるから雨脚が強いところと弱いところにばらつくんだな、と。語感が軽やかで、説明くさくないところに説得力があって好きでした。

靴を買うだけの休日秋夕焼　　ノグチダイスケ

　とても潔く、清々しい句だな、と思いました。どうしても欲しかったのか、どうしても必要だったのか。いずれにせよ日が暮れるまで探していたんですね。靴を買うためだけの休日だから、ゆっくり、じっくり選べる。いい休日ですね。

十六夜やブラのたたみかた　検索　　後藤麻衣子

　一文字空け。そして「検索」。こんなに効果的に一文字空いてちゃぐうの音も出ません。ブラのたたみかたって、気にしていなかったことを気にするということは、なにか心の持ち方が変わったのかもしれませんね。静かな夜の、静かな出来事。それにしてもブラジャーってどうやってたたむんやろ。検索しよ。

　149句というたくさんの秋の句に圧倒されながら、ひとつひとつゆっくり読み進めて、気になる句を書きました。句会の選句と違って好きなだけ選べるんですが、あまり長くても疲れるのでこの辺にしておきます。
　すてきな句がずらっと並んでいるネプリは圧巻です。ぜひ。

最後に、僭越ながら自作句を。

立秋やスケッチブックに描くあした　　えぬ