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宇多喜代子『雨の日』

 図書館の新刊コーナーで見つけて借りました。2024年7月12日に発売されているので、間違いなく新刊です。句集は買えばキリがないので、こうして借りて読めるのはありがたいです。
 前回の『森へ』から五年経っているそうです。あとがきには「不覚にもその間に体調を崩してしまい」とありました。体調を崩されている中でも、俳句を作り続けるってすごいですよね。わたしにはなかなかできないことです(すぐになにもかも放り出すスタイル)
 実は宇多さんの句集を読むのは、この最新刊がはじめてです。リアルタイムな宇多さんの句を読んでいきたいと思います。

 句集は編年体となっており、2018年から2023年まで一年単位で章立ててありますが、こちらの表記は割愛させていただきます。ご容赦ください。
 宇多さんが体調を崩していたということもあり、からだにまつわる句が多くありました。

迷走神経反射なる病名に万緑

足弱にえのころ草が絡みつく

梅の下ちゃんと歩くという至難

ゆるゆると雪の道ゆく杖と脚

その脚で歩いてはならぬと雪の道

春の風すたすた歩く人を見て

 わたし自身、この一年新たな病気と共に暮らしてきたので、「足弱に~」の句や「春の風~」の句は特に共感があります。
 宇多さんの句は、扱いきれないからだになっても、悲観せずに句に残しているのが印象的です。
 共感句と言えば、こんな句にも「わかる~」と思わずうなずいてしまいました。

よかつたようなそうでなかつたような春

 ほんとこんな感じになってしまうんですよね。とりわけなにか達成感を感じるできごともないと。「~ような」とのんびりリフレインしつつ、なんだかんだ「春」という着地はどこか救いがあるというか、思い詰めていない感じがします。

朝餉に昼餉たちまち夕餉の冷奴

 一日が長いようであっという間なのです。なにもしていないと「三食食べること」しかしていないような気になります。冷奴がなんとも言えずいい塩梅で鎮座しています。

お大事にと言うて言われて寒の入

 気づいたら誰とでもこんなあいさつばかりになっているような気がします。言われることのほうが多いですが。

 ちらほら出てくる猫の句もかわいいです。

子猫にも後姿のありにけり

 ちいさいちいさい後ろ姿が愛らしい。どんなにちいさくても後ろ姿がある。あたりまえのことが愛おしい瞬間ですね。

お隣の猫よく笑う十二月

 お隣さんの猫がやってくる。その光景ものほほんとしてよいですが、十二月という忙しない季節に「よく笑う」という明るい仕草の猫がかわいらしいです。

 旧懐芒の曾爾高原七句、と前書きのある句には人名が。

津田清子声出し合うて芒原

多佳子誓子ともにあるや芒原

 曽爾高原は奈良の曽爾村というところにあるそうです。行ったことがないので調べてみると、山の麓に芒原が広がっている写真が載っていました。
 津田清子は奈良生まれでゆかりがありますし、多佳子・誓子も津田清子のお師匠さんですよね。わたしが知っている(数少ない)俳人の名前が出て来たので、「お!」と思いました。
 清子の句のイメージと「声出し合うて」という活発な動きがよく合っていると思います。

 編年体で綴られ、ゆったりとした時間が流れているこの句集は、タイトルにある『雨の日』にぴったりな一冊だと思いました。
 それでは今日はこの辺で。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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