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びわアレルギー事故と、特定原材料類の表示制度について

びわアレルギーと特定原材料類の表示について(本文2,695文字)
 
令和6年6月25日の各社報道によれば、山梨県富士吉田市内の11校で給食に供された「びわ」を食べた児童生徒のうち、126人が喉の違和感や目の充血などのアレルギー反応の症状を訴えました。このうち3人は医療機関を受診し、1人が入院しましたが、いずれも快方に向かっているということです。市教育委員会は今後、アレルギー対応に更なる注意を払うとしています。
 
■【速報】学校給食で『びわ』提供 児童生徒126人にアレルギー反応 1人が入院 山梨
https://news.yahoo.co.jp/articles/8e9bcbff3aea1e205fcdb2da49cf5eb8f350734e
 
幸いにも症状は重篤ではありませんでしたが、食物アレルギー誘引物質(特定原材料類)の表示義務制度が施行開始されて以降、単一の食品/食材が一度にこれだけ多くのアレルギー患者を発生させた事例を、筆者は知りません。なぜ「びわ」による健康危害事故を防げなかったのでしょうか?
 
 
<食物アレルギー誘引物質(特定原材料類)の表示制度>
現在、食物アレルギーを持つ患者に対しての購入時等での商品選択に向けた情報提供として、特定原材料類の表示制度が整備されています。
この表示制度は平成11年度から検討が開始されました。背景は下の引用のとおり;

アレルギー物質の表示について
食品衛生法における理由・経緯
アレルギー疾患を惹起することが知られているアレルギー物質を含む食品に起因する健康危害が散見され、こうした危害を未然に防止するため、表示を通じた消費者への情報提供の重要性が高まる。
米国、カナダ、フランスにおいてアレルギー表示の義務化が進んでおり、CODEX委員会においても、アレルギー表示を規定する方向にあった。

「表示することとなった主な理由・経緯について理由 経緯について(平成23年12月消費者庁食品表示課)」、第5ページから抜粋
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/review_meeting_002/pdf/111219sankou-a.pdf

これを受けるかたちで平成13年3月に厚生労働省令が改正され、5品目を「特定原材料」として表示を義務化し、また19品目を「特定原材料に準ずるもの」として任意表示対象として表示を推奨することになりました。猶予期間の1年を経て、平成14年3月から本制度は実行開始されています。
対象品目はアレルギー患者の実態、特に発症数や重篤度を調査して追加や入れ替えなど見直しが行われています。令和6年3月現在、表示義務のある「特定原材料」は8品目、表示が推奨される「特定原材料の準ずるもの」は20品目です。
表示義務がある「特定原材料」
えび・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生の8品目


表示が推奨される「特定原材料の準ずるもの」
アーモンド・あわび・いか・いくら・オレンジ・カシューナッツ・キウイフルーツ・牛肉・ごま・さけ・さば・大豆・鶏肉・バナナ・豚肉・マカダミアナッツ・もも・やまいも・りんご・ゼラチンの20品目

 
■食品衛生法施行規則及び乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令(平成13年厚生労働省令第23号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6054&dataType=1&pageNo=1
 
 
<制度のおもなポイント>
特定原材料類の表示制度のおもなポイントをご紹介します。
各品目の範囲や代替表記、判断基準など、制度の詳細は消費者庁発行のハンドブックなどをご確認ください。
1 特定原材料を原材料に使用している場合は必ず表示し、特定原材料に準ずるものは表示が推奨される
2 原料に使用していない場合は表示してはならない
3 「本品には小麦が混入しているかも知れません」など、購入時の判断を混乱させる可能性表示は禁止
4 特定原材料類の不使用の表示は可能
5 意図しない混入への対応として、欄外に注意喚起の表示が可能

注意喚起表示例 「本製品の製造ラインでは、落花生(ピーナッツ)を使用した製品も製造しています。」や「とうもろこしの輸送設備等は大豆、小麦の輸送にも使用しています。」
6 制度の対象は、販売の用に供する「容器包装された加工食品および添加物」
容器包装に入れずに販売する食品、設備を設けて飲食させる食品、酒類(症状の原因の判断が困難)、食品ではないもの(配合飼料、医薬品、雑貨類、など)は対象外
 
 
<すべて喫食の場面で事故発生を防げるのか?>
上記のとおり、この表示制度は「使っている場合は必ず表示し、使っていない場合は表示しない」という単純明快なルールで成り立っています。原材料から最終製品までの各段階で厳格な管理を実施すれば、使用の有無は把握できるからです。
 
しかしここで、6の制度が適用される対象に注目してください。
 
対象は「容器包装された加工食品および添加物」です。イメージとしてはスーパーなど小売店で購入する製品と考えて良いと思います。対象外の「容器包装に入れずに販売する食品」とは、ばら売りや量り売りなどで、「設備を設けて飲食させる食品」とは、飲食店で提供される食品、出前などをいいます。
もちろん、このような制度の対象外の場面における特定原材料類の表示は、「(喫食しようとする)商品選択に向けた情報提供」として非常に有効であり推奨されています。

レストランのように、食品表示基準において表示義務がかからない条件下で食品を提供する場合にであっても、食物アレルギー患者からの問合せに適切に対応できるよう、メニューやウェブサイト画面に特定原材料等の表示を行ったり、スタッフの研修を行うなど、健康危害の未然防止に向けた取組を行ってください。

【消費者庁】加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック(令和5年3月作成、令和6年3月一部改訂)、第50ページから抜粋
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_210514_01.pdf

しかし、望ましい対応であるもののすべての場面において実行の義務はありません。また、今回の健康危害事故を引き起こした原因と推定される「びわ」は特定原材料類の28品目に含まれていません。
したがって、今回の「びわ」による食物アレルギー事故は、給食という「設備を設けて飲食させる食品」に含まれていた特定原材料類ではない食品によって発生した事故ということになり、予期することは大変困難であるといえます。
 
 
<特定原材料類以外の食物アレルギー誘引物質>
上述のとおり、特定原材料類は28品目です。これ以外の食品/食材は食物アレルギーの原因にはならないというわけではありません。令和3年の消費者庁の調査では、コメ、トマト、メロン他によるアレルギー症状が報告されています。
 
令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_220601_01.pdf
 
またこれら食物アレルギー誘引物質は国や地域でも扱いが異なります。例えばセロリはイギリスでは表示の対象ですが日本では対象外です。逆に日本では表示対象でも海外では対象外の食品/食材もあります。また日本では食経験のない現地の食品/食材にアレルギー反応を示す可能性もあります。旅行等で海外へ行かれる際には充分にご注意ください。
 
 
<参考資料>
■【速報】学校給食で『びわ』提供 児童生徒126人にアレルギー反応 1人が入院 山梨
https://news.yahoo.co.jp/articles/8e9bcbff3aea1e205fcdb2da49cf5eb8f350734e
■表示することとなった主な理由・経緯について理由 経緯について(平成23年12月消費者庁食品表示課)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/review_meeting_002/pdf/111219sankou-a.pdf
■食品衛生法施行規則及び乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令(平成13年厚生労働省令第23号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6054&dataType=1&pageNo=1
■【消費者庁】加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック(令和5年3月作成、令和6年3月一部改訂)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_210514_01.pdf
■令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_220601_01.pdf
 

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