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幻聴について……訳もわからず街をさまよった2日間

先に書いておきますが、幻聴が聞こえたらまずしなければならないのは、
病院に行くことです。
合う薬があれば止まりますから。
それが大原則です。

前にテレビで警察の方が言っていましたが、
幻聴の人が、
「誰かに監視されている」
と電話してくることは、本当によくあるそうです。もはや「警察あるある」と言っていいくらいだそうです。
そして、警察の対応もやはり、
医療機関につなげることです。

幻聴→即、医療機関。
これが大原則であることを理解してから、
以下の文章をお読みください。


もう8年くらい前になります。
一人暮らしをしていたのですが、
朝、目がさめたら、
外から大勢の人の声がしました。

「水島を殺せ」

みたいなことをみんなで叫んでいるんです。それもかなりの人数が。なぜか私は「極悪で卑猥な罪」みたいなので告発されているらしいのです。全く身に覚えがなかったのですが。

結論から言うとこれが「幻聴」でして、
もちろん実際には、
そんなことは起きていないわけですよ。
しかし、私の耳には実際に聞こえるわけです。

怖くて外に出れません。
なぜかネットも怖くて見れませんでした。
致命的だったのは、テレビを持っていなかったこと。
テレビがあれば、そんな大騒ぎはどこでも起きていないとわかったはずなのですが。

外からの大群衆の叫びがいつまでもいつまでも聞こえる中、今度は下の階から母の声がしました。
それも幻聴です。
実際にはこの日、実家の母は田舎の祖母のところにいて、札幌にはいませんでした。
なのに、下の階から母の声がする。
なんか、群衆と言い争っている。

 私は下の部屋に行き(迷惑だったろうなと今では思いますが)「母の声がお宅から聞こえたんですけど」と言いました。もちろん、相手はなんのことかわからないようでした。
「誰か呼んだほうがいいですか?」
と聞かれましたが、断って部屋に戻りました。今思うと、あの時点で警察か救急車でも呼んでもらったほうが良かったのかもしれません。

 自分の部屋に戻りましたが、
「殺してやる!」
 という声がおさまりません。

 運悪くその日、熱があったのに、
 日曜で病院が休みだったんですね。

 それで、開いている病院を探しに外に出ました。

 そしたら、

「キーホルダーと携帯電話に盗聴器が仕掛けられている」

 という声が聞こえ、しかも執拗に繰り返されるので、
 どっちも道に捨ててしまいました。

「なんでそんなことするの!?」
 とみなさん思うでしょう?
 正気に戻ったら私でも思います。

 でも、幻聴になっている時ってね、
「脳がハッキングされている状態」
 みたいになるんですよ。
 聴こえる声が絶対、みたいな状態になるんです。
 自分のコントロールができなくなるんです。

 だから、下手したら事件を起こしてた可能性は十分あるんです。
 よく犯罪が起きた時に精神鑑定するのは、
 そういうことがあるからだと思います。

 私が聴いた幻聴は、
「お前を殺してやる」
「みんながお前を狙っている」
「母親が巻き込まれている」
「北朝鮮がミサイルを打ってくる」
 など、自分が被害者になっているという設定でした。
 だから逆に、逃げ回るだけで、人を傷つけずにすみました(迷惑はかけてますが……)。

 恐ろしいのは、これが、
「誰かを殺せ」
 みたいな幻聴だったら、どうなっていたかということです。

 脳がハッキングされていますから、
 本当に人を殺したかもしれない。

 だから、幻聴が聞こえたらすぐ医療機関に行かなきゃだめなんです。
 自分で自分がコントロールできなくなる前に、
 薬飲んで止めないとだめです。

 でも、最初は判断が難しいんですよね。
 そもそも脳がハッキングされてますから、
 正常な判断が自分でできないんです。
 私は当時既に別な障害で心療内科に通っていました。通院には抵抗がない方です。
 それにもかかわらず、この声について病院に相談に行くまで、半年以上かかってしまいました。
 それくらい、最初は受け入れ難い、自分では理解しにくいものなんです、幻聴は。

 さて、キーホルダーと一緒に鍵も捨ててしまったので、アパートの部屋に入れなくなりました。
 ここから、2日間にわたる徘徊が始まります。

 幸い、契約をした不動産会社が近くにありましたので、そこに行ったら、管理会社に連絡してくれまして、夜には鍵をもらうことができました。

 しかし、声は聞こえ続けています。
 部屋に一人でいるのは怖いので、外を歩きました。しかし、
「自分に向かって北朝鮮がミサイルを打ってくる」
 みたいな幻聴が聞こえたので、巻き込まないようにできるだけ人が少ない道を選んでひたすら歩き続けました。

 あとで他の幻聴体験者と話をしたら、
「俺も北朝鮮の幻聴聞いたことがある。よく聞くんだよね」
 と言われました。なので、普段見聞きしているニュースが幻聴に影響するものと思われます。だから私はそれ以来、怖いものはなるべく見ないようにしているのです。(でも、ニュースってどうしても見ちゃうんだよなあ……)。

 駅数個分の距離を歩き、街の中心部に行きました。
 しかし、声はまだ聞こえます。
 手近の本屋に入って、店員に、
「なんか、騒いでる声が聞こえませんか?」
 と聞いてみたのですが、
「いえ、聞こえませんけど」
 と、変な顔をされました。ここで、
「あっ、やっぱり自分にしか聞こえてないんだ」
 と気づきます。
 しかし、まだ声は聞こえるし、脳はハッキング状態なので、まだ逃げ回るのです。

 怖いので実家の母を訪ねました。
 しかし、祖母の所に出かけていて留守でした。
 幻聴が、
「母親が群衆に責められている」
 みたいなのに変わりました。
 焦った私は、なんと、
 窓から中に侵入しました。

 で、弟のCDの箱をぶっ倒してしまい、
 中身が大破損しました。
(今でもあれは申し訳ないと思ってます……)。

 中に入っても暗くて、誰もいません。
 怖くなったので外に出たら、

 警察官4人に捕まりました。

 どうも、近所の人が、
「不審人物がいる」
 と通報したらしいんですよね。
(そりゃ、窓から侵入してたら怪しいに決まってますよね……)。

 身分証明を出して、母がここに住んでいるとか、携帯を落としてなんとかかんとかと説明したら、なんとか理解してもらえて解放されました。
 でも、この時点では幻聴のことを上手く言語化できず。
 できたら、この時に医療機関に連れてってもらえれば、手っ取り早かったのかもしれないけど。

 それから、またかなりの距離を歩きました。

 市内のほぼ反対側まで歩いたかな。

 よく覚えていないのですが、かなり遠くの公園まで行って、
「もう!訳わからん!」
 と大泣きした記憶はあります。カラスが近くに来て、不思議な目でこっちを見ていたのを覚えています。

 その後、また実家まで行って、また市内に戻ってと、信じられないくらい長距離を歩き続けました。

 昔行ったことのある支援センターにも行ったのですが、やはり話がうまくできず、不審な人だと思われただけに終わりました。
 福祉の人にも気づいてもらえないくらい、説明が支離滅裂だったんですね。
 でも、あそこで気づいてほしかったな……と今でも思います。

 家に帰りたくないので、
 たどり着いた安いホテルに泊まりました。

 そこでも幻聴は止まりません。

「人々が『殺してやる』と言いながら行進してくる」
 という幻聴(というかもう幻覚に近いな)が続きました。
 会話もしましたがやり取りの内容はもちろん滅茶苦茶でした。

 その夜、一睡もできませんでした。


 朝になって、
 母から「どうしたの?何やらかしたの!?」
 と電話がありました。


 不思議なのですが、
 その電話と同時に、
 幻聴と幻覚が全て止まりました。
「殺してやる」のパレードも、消えました。

「防犯カメラにあんたと警察が映っとるし、近所の人や管理人にもあんたが来たと言われるし」

 とか母が言ってました。ごめん母。

 

 病院に幻聴の相談をしたのは、
 それから半年後でした。
 なぜか、話ができるまでに、
 それだけの時間が必要でした。

 ある薬を飲んだら、
 頭の中の雑音が消えました。

 あれ、こんなに世の中静かだったの?
 と思いました。


 実は私、この重い幻聴になる前から、
 余計な声が聞こえることはよくあったんです。

 大阪に住んでいた時も、
 夜中になぜか「北海道弁で」悪口が聞こえたりして、おかしいなと思ってたんです。
 務めていた会社でも似たようなことがありました。

 どうも、ずっと前から、
 私の脳は変だったらしいのです。

 後で心療内科の先生に聞いたのですが、

「子供が、「声が聞こえる」って言ってくるから、最初統合失調症を疑ったけど、実は発達障害だったってこと、あるんだよね」

 だそうです。
 一概に言えないので、個々にきちんと診断を受けたほうがいいです。


 薬を飲み始めた時は副作用で眠くて大変でした。実はそれで、当時書いていたサキと所長の話を中断せざるを得なくなりました。小説が書けるような状態ではなかったからです。

 その後しばらく経過は良かったのですが、

 コロナ禍が始まって数ヶ月くらいで、
 また、再発しました。

 近所のおじさんの怒鳴り声が引き金でした。
(だからむやみに怒鳴っちゃいけないんですよ……怒鳴り声の圧力って、人の脳にダメージを与えるんです)。

 今度は、
「世界中の子供が危機にさらされていて、私に助けを求めている」
「北朝鮮で私の小説が流布されている」
(また北朝鮮が出てきたよ……)
 という、訳わからん幻聴でした。
 トランプ大統領も出てきました。やはり、普段見ているニュースが幻聴に影響するんですね。

 今回はなかなかおさまらず、
 最初出された薬も効かず、
 止まるまでに2ヶ月くらいかかりました。

 作業所にも行けず(在宅にしてもらった)、
 集中できないから本すら読めず、
 じっと耐えるのみ。
 本当に辛かったです。

 それも、合う薬が見つかっておさまりました。

 今でも薬を飲んでいますが、
 最近は特に問題なく、会社に行ってます。
 短時間勤務しかできてませんが。



 今振り返ると、

「最初の段階で病院に行けばよかった」

 の一言につきます。

 しかし、はじめてだったのもあり、
 幻聴だということにまず気づけない。
 本人は脳がハッキングされているので、
 正常な判断ができないのです。

 本当は、周りの人が気づいて、
 医療機関につなげるのが一番だと思うのです。



 本当はもっと細かいことがいろいろあったのですが、今のところ言葉で表現できるのはこれくらいです。

 幻聴は、本当につらい。
 人生で一番つらかった。

 幻聴のせいでわけわかんないことした人がいても、それは本人の意志ではなく、
「脳がハッキングされているのだな」
「病気だから仕方ないのだな」

 と思って欲しい。

 そして、
 窓から家に侵入するとか、
 そういうことをしでかす前に、
 医療機関につなげてほしいです。

 
 

 あと、ネットで幻聴のこと調べても、変におどろおどしい説明しか出てこなくて、何の役にも立たなかったんですよね。

 とにかく、医療機関に行くこと!
 これにつきます。



 重い話ですみません。
 読んでくれてありがとう。




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