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(小説)2.ファニージャンパーの憂鬱

「なぜだ、なぜファニージャンプの魅力がわからないんだ!?」
「ロープを張って、面白い顔とポーズでその上をジャンプするだけじゃないか!」
「老若男女、地位も財産も人種も関係なく誰でも楽しめるんだぞ。こんな公平なスポーツが他にあるか?」
「スポーツじゃない。芸術だ。女神アニタに捧げる芸術作品なんだ」
「だから我々は真剣に人々が笑えるような顔とポーズを研究しているんだぞ」
「動画にするとアクセスがすごいのよ!このヘイトたちのコメント、何とかならないかしら」

ファニージャンパーたちは、いつもなら遭遇しなくて済む『真面目すぎるイシュハ人』の断末魔、いや、猛抗議に困惑していた。例年なら彼らは南の島に避難、ではなく、バカンスに行っていて、ファニージャンプ選手権の会場には現れない。練習をしている選手たちの邪魔もしない。
しかし、今年は某ウイルスのせいで彼らが脱出できなかったため、各地で激しい衝突が起きていた。善良なイシュハ人は、買い物に行くたびに道で飛び跳ねるジャンピングクレイジーを大量に目撃しなくてはならなくなった。そして、2月に限界が来てしまったのだ。

「ジャンピングクレイジーを逮捕しろ!」
「ファニージャンプはイシュハのイメージを台無しにしているんだぞ!」
「子供が安心して縄跳びもできなくなってるじゃないか!」
「トランポリンで遊ぶ子供をジャンピングクレイジーと一緒にするな!うちの子をバカにしてんのか」
「なぜ外国人と商談するたびに『まあ、ファニージャンプの国ですからね』とせせら笑われなきゃいけないの!?」
「規制だ!規制しろ!」
「路上は歩くためにあるんだ!ファニージャンプの練習場じゃない!禁止しろ!」

ある日の朝のニュースに、上記のような悲鳴を発しながら抗議デモを行う『善良なイシュハ人』の映像が映し出された。


普通の国民の反応:「やっと正式な抗議がはじまったぞ!よし、署名活動だ!」


ファニージャンパーの反応:「え?何で?」

学校や集会場に署名する人々の列ができた。しかし、皮肉にもその横で例の人たちが飛び跳ねていたのだ。「女神様、なぜ?なぜこうなったのですか」と双方が思っているようだが、意見は全く噛み合っていなかった。

管轄区では、国境を破って逮捕されたイシュハの若者が尋問されてこう答えた。
「だって!親がファニージャンプするんだもん!」
「あんな国で勉強できないんです!」
「私たちみんな真面目な学生なのに!!」
敬虔な管轄区人はみな、いつもならイシュハには全く寄せない同情心を抱いたようだ。学生を刑務所ではなく、安全な学校に避難させた。
イシュハのファニージャンパーの写真を、なぜか地元の新聞(通常は外国の情報は出ない)で見た首都のイライザ教徒は。

「なんて恐ろしい光景だ」
「自由を履き違えると人間こうなり果てるのか」
「女神様、哀れな異教徒の子どもたちをお救いください」
「なんてこった、こいつらはもう人間じゃない」


アケパリでは、イシュハのニュース画像を見た人々がこんな会話をしているそうだ。
「あれ、ニワナの芸人はやらないの?」
「何を言うてんねん。あんなんやった瞬間に人間の知性が終わりやないかい!芸人のやることちゃうわ」
「えっ?いつもあんなことしてない?」
「ニワナなめとんのかワレ!?」


別な神々の信者までファニージャンパーに呆れ、いや、恐怖心を抱いていた。しかし、

「なんでみんなそんなに怒ってるの?」

ジャンパーたちはまだ理解していなかった。


(続くの?え?どうやって?)




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