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暗号資産(仮想通貨)担保ローンの金融商品的価値を解説します

Fintertechの林です。暗号資産担保ローンのサービスを開始して、暗号資産への投資を継続しながら資金調達をしたいという多くの方から問合せをいただいています。そこで今回は、暗号資産担保ローンの魅力について、他の一般的な金融商品と比較しながら深掘りしてみたいと思います。

ちなみに、暗号資産担保ローンの活用法についてはこちらの記事でも考察していますので合わせてご参照ください。今回は別の切り口から考察します。

暗号資産担保ローンに投資するとは?

担保としてBTCをお預りし、担保評価額の50%まで融資します。返済期限は原則1年です。BTCの時価を100万円、担保数量を20BTCとすると1,000万円のお借入が可能です。もちろん、元金と利息の返済により、いつでも暗号資産はお客様の手元に戻ります。仮に貸付金利を6%とすれば、半年後なら1,030万円、1年後なら1,060万円のご返済で20BTCお返しします。以上が当社の暗号資産担保ローンの仕組みです。ここからは、その投資的な側面を見ていきます。

お客様は、はじめに2,000万円分(20BTC)の暗号資産と1,000万円の現金を交換し、差し引き1,000万円の支払いをしています。この1,000万円を投資元本と見做します。何に投資したかというと、将来、元金と利息を支払えば、いつでも20BTCを受け取ることができる権利です。デリバティブ取引の世界では、予め取り決めた条件で特定の資産を買うことができる権利をコールオプションと呼びます。この例では、1,000万円支払って、BTCを対象とするコールオプションに投資したということになります。

次に損益を見てみます。
例えば、半年後に元金と利息の1,030万円を返済し、20BTCが戻って来たとします。この時のBTCの時価が200万円だったとすると、市場で売却して現金化すれば4,000万円が手に入るので、1,030万円の支払いを除いても2,970万円が手元に残ります(注1)。そこから投資元本1,000万円を差し引いて、結果として投資損益は1,970万円ということになります。ローンを申し込まずBTCを持ち続けて、半年後に売却した場合の損益は2,000万円です。金利を支払った分だけ、パフォーマンスは劣後しますが、その差は、借入金を他の投資(事業資金等)に充てられることへの機会費用と言えます。
反対にBTCの価格が下がってしまった場合の話をします。当社の暗号資産担保ローンでは、担保の評価額が元金と利息の水準まで下がってしまった場合、暗号資産を売却して、お客様の債務と相殺するといった条件が付されています(注2)。例えば半年後、BTCが51.5万円近辺(担保評価額が1,030万円)まで下がってしまった場合、当社は、担保のBTCを売却し、お客様の債務と相殺いたします。これにより、お客様の返済義務はなくなりますが、BTCを受け取ることができる権利(コールオプション)もなくなって契約は終了します。対象とする資産の価格がある一定の水準に達した場合、その権利が消滅するという条件の付いたオプションは、ノックアウト・オプションと呼ばれます。特に資産価格が下落した場合に権利が消滅するタイプは、ダウン・アンド・アウト型と呼ばれます。
投資的な側面から見ると、当社の暗号資産担保ローンは、ダウン・アンド・アウト型ノックアウト・コールオプションへの投資と言えます。

(注1)暗号資産を売却するための諸費用は無視しています。
(注2)お預かりしている暗号資産を債権保全のために売却する水準は、市場の流動性等を勘案し、当社の裁量で決定いたします。また、担保の処分は債務の完済を保証するものではなく、担保処分価額から諸費用を控除した金額が、債務の額を下回る場合には、お客様にその差額をご請求させていただきます。

暗号資産担保ローンの金融商品としての価値

1,000万円を投資元本と見做してという話をしましたが、暗号資産担保ローンの金融商品としての本当の価値はいくらかということについて、デリバティブ理論を使って考察します。デリバティブ理論は極めて難解な数学的理論ですが、当社の暗号資産担保ローンは、いくつかの仮定を置くことでとてもシンプルなものとなります。

まずは、ダウン・アンド・アウト型ノックアウト・コールオプションの価格算定モデルをご紹介します。(教科書的な内容なので詳しくみていただく必要はありません)

KOC:ノックアウト・コールオプションの価値
B:担保暗号資産の評価額(原資産価格)
K:返済金額(権利行使価格)
D:担保暗号資産を売却する水準(ノックアウト価格)
r:リスクフリーレート:暗号資産価格の予想変動性(ボラティリティ)
σ:暗号資産価格の予想変動性(ボラティリティ)
T:返済期日までの期間(残存期間)
N(z):標準正規分布の累積密度関数

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・・・大変複雑ですね。以降では、このモデルを利用するために、サービス内容を少しだけ変更して式を簡単にしていこうと思います。(もちろんサービス内容変更はこのブログの中だけの話です。)

まず、返済条件を変更します。実際はいつでも返済可能ですが、返済期日に限って返済可能とします。それと、利息支払いに関する条件を変更します。思い切って貸付金利は0%、利息はいただかないことにします。その代わりに、お申込み手続に関する事務手数料として、借入元金の6%を契約時点でいただくことにします。いずれもお客様にとって不利な条件変更ですが、どうかご了承ください。これで、上記のモデルを使う準備が整いました。
当社が、債権保全の為にお客様の暗号資産を売却する水準は、暗号資産の評価額が、お客様の返済金(債務)と近しくなる水準ですが、利息はいただかないことにしたので、返済金は常に借入元金のみとなります。上記のモデルで言えば、K=D でコンスタントな値となります。この条件で数式を整理してみると次のようになります。

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rは、リスクフリーレート(リスクが最小の金融商品から得られる利回り)ですが、今の時代1年程度の定期預金に預けても殆ど利息はつかないので、思い切ってr=0とします。そうすると、上記の式は次のようになります。

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もはやこれ以上の単純な形は望めないくらいシンプルな式になりました。この式は、担保暗号資産の評価額から借入元金を差し引いた金額が、暗号資産担保ローンの金融商品としての価値になることを意味しています。元金を返済すれば暗号資産をお返しますという条件なので、常にその差額が、暗号資産担保ローンの価値になるというのは、考えてみれば当たり前の話ですが、投資判断において、金融商品としての時価の透明性は重要な判断要素であり、暗号資産担保ローンはその条件を十分に満たしているものと言えます。

最後に

先程の単純化した式において、KOC(ノックアウト・コールオプションの価値)は「原資産価格」から「権利行使価格」を引いた金額となりましたが、これはオプション取引の用語にて「本質的価値」と呼ばれます。一般的にオプションは、本質的価値に時間的価値と呼ばれるプレミアムがオンされた価格で取引されますが、時間的価値は残存期間やボラティリティといった変数の変化によって大きく変動するため、プロの人たちでもそのリスク管理に苦しめられる場合があります。
こうした事情から、本質的価値のみのオプションには一定の需要があり、例えば香港証券取引所には、Callable Bull/Bear Contract(CBBC)という本質的価値のみのオプションが上場され、多くの個人投資家に利用されています。
暗号資産担保ローンの金融商品としての価値は、このオプションと等しくなります。投資対象としてシンプルで、ある意味利用しやすい金融商品と言えますので、暗号資産を対象とした金融商品をお探しの方にもご利用を検討いただけるものと思います。

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