プライマリーシーンの目撃

両親のセックスを目撃したのは中学2年生の時だった。

深夜2時頃、ふと目を覚ました私は喉が渇いて台所に行った。台所のドアを隔てたところにリビングがあって、そこで両親と私と少し年の離れた三姉妹の末っ子である妹が川の字になって寝ていた。暗闇で目が慣れた私は電気を付けずに台所で水を飲んでいたら、全開になっていたドアから目撃してしまったのだ。

現場をこの目で見たのはその1回だけだが、致してる声は以前から聞こえていた。普段キビキビした母から発しているとは思えない高い声が隣室から漏れて、元々不眠気味だった私の目は冴えてしまった。

一度私と同室で寝ていた、当時小学6年生だった次女が行為中の声を聞いて目覚めてしまい、寝惚けたように隣室に行き「うるさいから静かにして」と注意してそのまま布団に戻った。

次女の隣でずっと寝たふりをしていた私は、これでセックスを止めてくれたらいいなと期待したが、静かだったのは数分ほどで結局再開していた。


セックスが行われるのは土曜日の夜の深夜帯。両親なりに配慮していたのだろうが、中学生にもなれば夜ふかしはするし、夜遅くに勉強だってする。眠れなくて布団に横たわっている場合だってある。

家族で夕飯を食べながら、両親にわざとらしく「最近眠れないんだよねー」とこぼしたり「宿題いっぱいあるから寝るのが遅くなりそう」だの言って、私が深夜帯も起きている可能性を伝えてセックスをするシチュエーションを作れないようにした。中学生の頭で考えられる限りの手段だった。

それでも忘れた頃に両親のセックスの声が聞こえてくる。


元々不眠気味の症状や精神的な悩みから病院に通っていたが、親のセックスが気になって眠れない、なんて相談はどこにもできなかった。

その悩みは中学、高校と引摺り、大学生になっても続いたが、その頃にYahoo知恵袋を知った。匿名でお互いの顔や年齢も知られずに相談できる場所だから、始めて知恵袋にその悩みを書き込んだ。

しかし、同情してくれたはものの、貰った回答は

「あなたの両親がセックスしたから、あなたが産まれた。セックスはコミュニケーションだから、年を取っても両親が仲良しなのは良いことだよ」

で締め括られる。

端的に言えば私がその行為を受け入れろ、ということだった。

その時は私の捉え方を改めようとしたが、やはりその後両親がセックスしている声を聞くと納得できなくなる。

不眠に悩んでるのに余計眠れなくなるし、朝起きられず、両親と挨拶するのが気まずいと感じるのも全部全部我慢しなくてはならないのか。

この苦しみは「でも悪いことではないから」で解決されてしまうのは納得いかなかった。


この苦しみ、理解できない人にどう説明したらいいのかとたまに思う。

例えを出すなら、私が刺し身が苦手なのだが「皆好きだから食べなさい」と有無を言わさず刺し身料理を振る舞われ、苦手だからと断ったら、

「漁師さんが苦労して釣った魚だから、美味しい刺し身が出せた。食べられるように板前さんが調理したんだから、苦手なんて言わずに食べなさい」と流通経路を感情論込みで説明されるような気分だ。

とでも言えばいいのか。例えが下手だったら申し訳ない。



そんな苦しみをアラサーになった今も現在進行系で引き摺っており、現在一人暮らしをしているにも関わらず何かの弾みでフラッシュバックを起こして悶々としていた。

両親は既に還暦を迎えた。セックスするより自分の健康管理の方が大切な年になっているが、若い時の記憶がどうしても私を苦しめる。


フラッシュバックを起こして、悶々と悩み、似たような悩みを抱えている人はいないかとGoogleで「親 セックス 声を聞いた トラウマ」で検索するとある言葉に辿り着いた。



【プライマリーシーンの目撃】

▼意味引用

親の悪意のない行動が、結果として見えない虐待となるケースがあります。「プライマリーシーンの目撃」です。これは子どもが親の性行為を目撃して外傷体験になってしまうというもので、臨床現場ではしばしば当事者から告白されます。

https://joshi-spa.jp/1049168



腑に落ちる言葉だった。

今まで「夫婦仲の良い証拠」となあなあにされて、そういうものだと受け入れるしかなかった事象は、外傷体験だったのだと気付かされた。そりゃあ事故に近い形で傷ついて、治療もされず心配もされなかったら苦しむに決まってる。


長年のモヤモヤがこの言葉ひとつでフッと軽くなった。

自分でも単純とは思ったが、私に必要だったのは苦しみを端的に言い表せる言語だったのかもしれない。


言語があると、他人にも例え込みで説明しやすくなった。

ルールを守って横断歩道を渡ってたら暴走車に突っこまれて怪我したのに、「車は急に止まれないから仕方ない」と他人から言われたらモヤるよね。

書いてから、この例えの方が刺し身云々より分かりやすいかもと思った。


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