第30話 省エネモード

 悲しくて泣いている。君に必要とされない私は、君にとって価値のない人間なんだろうか。昔はあんなに二人で一緒にいたのに。もう全部、過去のものなんだろうか。
 まあそうなんでしょうね、と嫌に冷静な私が言う。そこに感情的な私が、でもでもと空に手を伸ばした。心というのは体の延長にあって、脳の神経ネットワークとかいう話も聞く。それなのに、どうしてこうも馬鹿で非合理なのだろう? 部屋の明かりを切るみたいに、心のスイッチもオンとオフを切り替えられたらいいのに。
 あるいは、君への想いにもオンとオフがあればいい。例えば楽しいときには君の楽しい記憶を思い出して笑って、ちょっと闇感情に浸りたいときには君への想いで泣けばいい。カタルシスなんて、泣きたいときっていうのが人にはあるものだから。
 そして完全に君のことを消し去りたいとき、そんなときに君のことを忘れられたらいいのに。
 ちょうど今、そんなことを願っている。
 電気を消すみたいに、私から君が消えればいいのに。

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