第47話 嘆きの君
大切なものを切り捨てることでしか得られないものがある。
それでいて、失ってから大切だったことに気づくなんて嘘なのを、私は知っている。
君を捨てた時のことがいまいち思い出せない。感情の起源は、もちろん持ち合わせている。私の中の仄暗いものが、君を私から遠ざけた。そんな曖昧な記憶の霧が、本当の記憶を覆い隠している。
君を失って、自分自身に何の得もないなんて、私はとっくにわかっていた。そんなのは君と一緒にいる時から、当たり前に自覚していたことだから。
本当に、なんで君を捨てたんだっけ。
一年も前のことをよく思い出せもしないけれど、結果として私は、君のいない一年を手に入れた。大切なものが綺麗にくり抜かれたドーナツの穴。埋まりもしない喪失の象徴に、私は今日も言葉を投げ捨てる。
君のことがまだ好きだって、どうしようもないんだって、君がいなくなって私は不幸なんだって、早く連絡寄越せよなんて。
今日も嘆いている。
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