『創設の放旅者』二話【週刊少年マガジン原作大賞応募作品】
一つの島が一つの山で覆われている
やがて人は それに寄り添うように町を作りだした
頂上には自然に敬意を払い 一つの神殿が聳え 奉られていた
そう語られ ここの人々は育っている
ここは【アンオーメン】 人と大陸が協力して営む国と呼ばれる
頂上から国全体が目に入り 観光スポットとなっていて
海と陸の境界線は全て港で埋め尽くされ 漁師たちが活気に満ちあふれていた
そんな中 一つ異なる場所が
煉瓦で出来た駅 暫くすると右側から蒸気の音が国全体に響き渡り
建物と重なって蒸気機関車が停車した
列車の頭には≪WCTーーワールド・クレイジー・トレインーー≫
と書かれた看板が飾られている
神殿からは列車全体が見えるのだが
全25車両という長蛇だった
駅から頂上までは見晴らしの良い一本道になっており
この道は必然では無く 自然に出来たものと住民は言う
その一本道を走る というより半分駅まで転げ落ちている一人の少年がいた
「熱ッ……! リュック邪魔……!!」
物に当たりながらゴロゴロと駅まで一直線に転げ落ち
駅の煉瓦に思いっきりぶつかった
幸い当たった方がリュックだったから軽症で済む
「痛って~~!!! あッ!! こんなことしてる場合じゃねぇ!!」
少年は急ぎ体勢を立て直して駅の中へと入って行く
『本日はご乗車ありがとうございます
当列車はまもなく出発となりますのでもうしばらくお待ちください』
列車から流れるアナウンスと共に少年の足が加速した
「乗ります!! 乗ります!! 乗ります!!」
少年は駆け込み口に飛び込もうとした時 ドアがワザとらしく閉まってしまった
ヘッドスライディングの如く 頭に全ての衝撃を食らい地面に滑り落ちる
煙を出す海上列車は微かに そしてジワジワと動き出す
「クッソ~~……」
少年が頭を抱えて落ち込んでる時 後ろから言葉では表せない何かが
躊躇なく猛スピードで少年に迫ってきた
「……え?!」
少年が気付いた時には既に遅く
得体の知れない何かとの道連れに機関車へと突っ込んだ
「のわ~~!!」
「キャーー!!」
突っ込んだ車両には幸運にも誰一人乗っていなかった
「痛っつ! 何だよも~~……!」
「ハァ…… 慣れないことするものじゃないなぁ……」
周りを確認し始めた少年はここが物置車両だという事を知り
そして海水臭い場所には似合わない仙姿玉質せんしぎょくしつの少女が 自分と同じく頭を撫でていた
「えっ……と…… 誰?」
少年が話し掛けると不思議な女性は笑顔で返した
「私はメモル!! よろしくぅ!!」
その女性の髪は晴れた水色の空に似ていた
眼は水晶の如く研磨が施された透き通るレンズ
しかしその綺麗な水晶には泥で塗られた手で触れたような
黒い何かが水晶を汚していた
「あなた名前は?」
「あぁ…… 俺は……」
少年が名を名乗ろうとしたときドアが強く開け放たられ
車掌らしき人と二名の乗組員が入って来た
「君たち!! 何処から入って来た!?
いや…… どうやって入って来たんだ!!?」
無理も無い 全員の目の前には普通では有り得ない事態
大きな穴がポッカリと壁に空いていたのだから
「こ……これはですね え~~と~~……!!」
「これは私がやったんです!!」
少年があたふた言い訳を言っている横から
メモルと名乗る女性が慌てて叫んだ
「ふん~ 君たちはこれをワザとやったのか?」
「「 いいえ!! 」」
乗組員の質問に二人は即座に答えた
「あの……!! 俺はただこの汽車に乗りたかっただけです!!
だけどあと一歩でドアが閉まって そしたら後ろからコイツが訳分からん何かで
俺諸共この車両に突っ込んでしまったという訳でして……」
必死に訴えてる少年に対して車掌らしき人は数秒間黙り そしてゆっくりと口を開く
「君のことは分かった…… 問題はお嬢さんの方だ」
車掌の視線は少年からメモルに変わった
「君にはいくつか質問があるが
まず君も当列車に乗るおつもりだったのかな?」
「はい……」
メモルはコクンと縦に頷いた
「……」
車掌はしばらく考え
「ふん~車掌 金さえ払ってくれれば良いんじゃないですか?」
「それもそうだな……」
乗組員の言葉に応じ 車掌の視線は二人に向けられた
「これより貴女方を客として迎えます お客様に対してこれまでの失礼を謝ります」
車掌はペコリと頭を下げる
「よっしゃぁ!!」
少年は嬉しさのあまり拳を握り固め 上から下に振り下げた
「お客様をお部屋に 頼むぞ」
車掌はさっきから黙っている別の乗組員の肩を叩き奥の車両へと姿を消した
残された乗組員は荷物を持ってドアの向こうに行こうとすると
「お客様達を部屋に案内します…… お客様?」
「お~い 何やってんだ?」
二人の視線の先には 窓をジッと見ているメモルの姿が
「どうしたんだ?」
メモルに近づく少年は 少女の顔を覘くなり表情を変えた
「どう……した?」
メモルは憐れんだ顔をしており ほんの少し前の無邪気な顔はそこに無かった
しかも彼女の見ている先はずっとアンオーメンを指していて
「あの町がどうかしたのかよ?」
「…………え!? あ! なんだっけ?
あれ? あの船長みたいな人は?」
ーー……何だったんだ?
少年は腑に落ちず 彼女が抱く疑問の表情とは対にになるように顔を顰めた
「お客様!! 行きますよ!!!」
さっきからずっと荷物を持っている乗組員は
今にも一人で行ってしまいそうな態度で その様は既に痺れを切らしていた
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