「アガサ・クリスティーと14の毒薬」を読みました
クリスティの作品は、ポアロとミス・マープルならあらかた読みました。で、関連本も読みたくなりまして色々眺めていたらこの本の存在を見つけました。物騒な本ではありますが、毒薬の本って歴代の蛮勇達の記録でもあるんで好奇心が刺激されるんですよね。しかし、アマゾンにもバリューブックス(古書店)でも現物が見当たらない。地元の大きい書店の在庫検索でヒットしたのに探し回っても見当たらない。店員さんに尋ねたところ、売れない状態で倉庫に眠っているそう。そんな殺生な……。誰だ売れない状態にしたやつ。許さん。
こういうときの最終手段が図書館での取り寄せです。数週間待ちましたが無事手元に届きました。無料でこんな便利なことができるなんて。税金に感謝です。司書さんの待遇はもっと改善すべきですが。他の自治体の図書館から借りたものなので延長は残念ながらできず、すでに返却しているので大雑把なメモと記憶をたよりに感想というより本書の中にあったインパクトの強かった話をいくつかまとめようと思います。
◯アガサ・クリスティその人について
薬剤師関連の資格を持っていたことにすごく納得しました。戦時中ボランティアで看護師として働いていたのは結構有名な話ですよね。で、勤めていた病院に調剤室できたから〜って人に勧められて薬剤師の資格取って働けるのすごくかっこいい。勉強とかめっちゃ大変そうですしそもそもボランティアだしでなかなかできることじゃないですよね。
その修行中の逸話。とある座薬の作り方を習っていて、先輩が分量間違えて作ってるのにクリスティーは気づきます。あなたならどうします?彼女はなんとわざとコケたふりしてしっかりと踏み潰し、先輩に作り直してもらったんです。私なら正面から指摘してその後の人間関係に確実にヒビを入れてしまいますね!
小説の中だけでなく現実でもそんな機転の効いたことをするんだ、そりゃ叙述トリックも生み出せますわ。頭の回転の速さにちょっと引きました。
○パワープレイがすぎる毒殺犯
どの毒の話だったかは忘れてしまったのですが、実際にあった事件を紹介していたページで毒殺犯の風上にも置けない奴らがいました。この本の中で一番浮いてたと思う。アホすぎて。
動機はお決まりの遺産相続。夫婦でさんざ財産食い潰した後の犯行です。で、食事会に招かれた被害者が亡くなるわけです。そこまでは定番の王道パターンなんですが、ここからが大問題。なんと被害者の顔には打撲傷や引っ掻き傷があるじゃないですか。え?毒を飲ませるために食べ物やらにこっそり混ぜて食べさすんじゃなくて?無理くり飲ませたの?(その後の犯人の行動からして毒入りなのがばれて飲むのを断られたのかもです。)毒殺ナメてる?情けなさすぎて他の毒殺犯泣いちゃうよ?と読んでいて自分がどこ視点なのかわからない気分になりました。毒殺を選ぶ利点っていかにバレずに標的を葬り去るかではありませんてしたっけ???
この犯人夫婦、警察の捜査中にも被害者の顔の傷が見つかるのを嫌って部屋のカーテンを開けるよう指示されてもちょっとしか開けないとかいう逆になんでそれでごまかせると思った?というトンチキ行動をしています。往生際が悪すぎる。もちろんしっかりバレてます。
しかも食事会後、夫婦で手分けして被害者やその衣服を酢で洗ったり床を掃除しまくったりで使用人が不審がって、結果通報されてるんです。あの奥さまがあんなにお掃除をなさるはずがないし旦那様まであんなにお働きに……ヤバいんじゃね?みたいな会話があったのでしょう。いやぁ使用人に嫌われてちゃダメですね!まぁそんなやつだから毒殺に走るんだろうけど。
○リンの作用
まず昔のリンのマッチは非常に不安定で危険なものだったという話。お輿入れの決まっていた貴族の公女様がお部屋にたまたま落ちていたマッチを踏んでしまい、その摩擦で火がついて着ていたドレスが焼け、焼死したという悲劇が紹介されていました。本当にたまたまだったんですか?お輿入れが決まっていたって辺りに何か事件の香りがするのですが。本文では事故と紹介されていたのでミステリの読み過ぎということにしておきましょう。最近流行りの異世界転生みたいな感じでその公女様が幸せに暮らす様を想像して彼女の供養とさせて頂ければ幸いです。
◯リンの作用その2
※ここだけ少し尾籠な話になります。
あるクリスティ作品ではリンが使われます。本書で紹介されていた、その被害者に起きた可能性のある症状に小学生男子心(?)がかき乱されてしまいました。
「発煙糞便症候群」
私の内なる小2男子大喜びです。大喝采です。症状は読んで字の如くです。はい。空気とリンが反応し、大きめの排泄物から白煙があがるそうです。ふざけてないです。本文にありました。本当です。しかも煙が出るだけではないんです!
「便が暗がりの中で光ることさえあるかもしれない。」(本文ママ)
冷静な筆致で記述されていてひっくり返りました。ここだけコロコロコミックになっちゃった。
○やっぱりいた無茶をやる学者
流石に尾籠な話をオチに使うのは成人女性の嗜みに反するので……。
本書では科学技術の進歩の過程、そして学者たちの悪戦苦闘を読むこともできます。殺人事件に毒が使用されていることを立証するために遺体から抽出等を試みるわけです。そもそもなんの毒かの同定もせねばなりません。そこで使われていたのが嗅覚だけでなく味覚でした。詳述は避けますがちょっと想像して気分が悪くなりました。学者さんはすげぇや。無茶だよ!そしてちょいちょい揶揄される江戸川コナンくんの「ペロッ……これは!」も伝統的手法だから笑っちゃいけないわけですね。
それからフランスの学者さんの無茶な話です。毒物摂取時における活性炭の有用性をアピールしたい。さあどうやります?フランスの学者さんの答えはこうです。
「実演しましょう!!」
読んだ限りで二件同じようにアピールしています。フランスには命知らずが少なくとも過去に二人いたことになります。ではどのように実演したのか。正解は「致死量の数十倍の毒物(それぞれストリキニーネと砒素でした。)と活性炭を同時に飲む」です。死ぬ!死んでしまう!(もちろん活性炭が有効に作用したので無事だったわけですが。)
たとえ大丈夫だと確信していても!致死量の毒を飲むな!自ら死にに行くな!論理的に合ってるからって実際にやるやつがいるか!漫画『亜人』の永井圭か!やめろ!ペッしなさい!いや、ペッするよりは活性炭飲んだほうがいいか……。
本書の構成はクリスティ作品とそこで使われた毒をひとつずつ取り上げ、その起源や人体に及ぼす作用、解毒法、実際の事件、そしてクリスティ作品における扱われ方を解説していくものです。例えば「Sはストリキニーネ スタイルズ荘の怪事件」という風に章立てされています。ネタバレにも極力配慮して書かれていますし、読んだことのある作品の章だけを読んでも十分面白いと思います。巻末にはそれぞれの毒物の化学式が掲載され、クリスティ全作品の事件の殺害方法をまとめた表までついてきており、至れり尽くせりです。化学はアボガドロ定数とモル計算で心の折れた私でも(十分理解できたわけではありませんが)楽しく読むことができました。クリスティ作品全部読破できたらまた図書館で借りようかな。
※ こちらの店員さん、阿佐ヶ谷姉妹の江里子お姉様によく似てらっしゃいました。私とのやり取り中に「ツダ(仮)さーーーん!(ツダさんが担当者かと思ったが違ったよう)」と叫ぶワイルドな感じ、すごく「細かすぎて伝わらないモノマネ」の江里子お姉様を彷彿とさせました。どんなにご本人のお顔を思い出そうとしても江里子お姉様しか浮かびません。あのときはお世話になりました。あの後ちゃんとツダさん来ました?
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