北沢陶『をんごく』を読みました
未読の方に一言で伝えるなら、ホラーテイストの『細雪』(谷崎潤一郎)であり、かつとてもマイルドな『ゲゲゲの謎』(映画)でしょう。
そうはいっても実は『ゲゲゲの謎』は予告だけで、本編未視聴なのですが(女の子が、かなり酷い目に遭うんでしょう?横溝正史も鬼太郎も好きですが、映像と音までついてくると、悲惨さに対して情報量が多すぎてまだ怖くて見る勇気がでません……)、ヒトでないモノとのバディものである点や行方不明となった妻を探している点など、類似点は数多くあると言えます。ただ、多くを指摘するとネタバレにつながりかねないので言えません。マイルドといったのはホラーとはいえ、残虐な描写はほぼ無いからです。基本的に品のいい、それこそ船場の雰囲気を保ちながら静かに恐怖を描いている作品だと思いました。
『細雪』なのは、セリフのほとんどが船場のやわらかい関西弁であり、時代の雰囲気を色濃く残しているからです。
さて、この先は既読の方に向けてです。ネタバレとなりますので、未読の方はぜひお読みになってからどうぞ。
ヒトでなくなった倭子とのファーストコンタクトで囁かれた「うしろに」
の意味するところがわかったとき、一番ゾッとしました。後ろに何かある(いる)んじゃなくて「死者の列(をんごく)の私の後ろにあなたもいらっしゃい」というね。警告ではなく勧誘。心中に近いものというか。「夜に駆ける」というか。しびれました。
彼女の望みは商売繁盛に比べればささやかでそして哀しいものです。そして「瀬をはやみ〜」で静かにそれを示すというのが面白い。ちなみに今まで百人一首やらで読んでいても意識してませんでしたが、これ崇徳院の和歌なんですね……。怖さが倍増しましたが……。作者はそこも意識してこの歌を採用されたのでしょうか。
エリマキについては、登場時はなんかよく見かける感じのキャラクター出てきたなぁと話が陳腐になることを恐れたのですが、そんなこともなく。ヒトでないモノが千年以上の時を経て、ヒトと共闘(?)して事を構えていくなかでようやくアイデンティティを得るというのも感慨深いものだなと思いました。
参考文献も複数あり、これらをまとめて、新人賞でこうした情感のある作品に昇華させたのはすごいなぁと、(語彙がどこかに行ってしまいましたが)本当にそう思いました。すべての登場人物にちゃんと存在理由があり、完成度の高いもので、トリプル受賞も納得の作品でした。私もいろいろ挑戦してみよう、頑張ろうとも思えました。
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