忘れられない贈り物
大切な人たちに贈り物をするのが好きだ。
その人のことを考えながら選んで、渡して喜んでもらえたらとても幸せな気持ちになる。
これまで私も、人並みに贈り物をもらう機会はあったが、その中で一つ、特に思い出深い、というかもう思い出そのものみたいな贈り物をもらった経験がある。贈り物というより餞別だ。一生大切にすると決めている。
高価なものではない。無印のノートとMD(ミニディスク)のセット。高校卒業の時に同級生の友達が渡してくれた餞別の品だ。お金では買えないし失ったら二度と手に入らない。
東京の大学に進学する私と、地元の大学を目指して浪人する彼女とは卒業を期に遠く離れることになった。
新しい環境に1人旅立つ私を応援するため、彼女は自分が好きな曲、私たちの思い出の曲、当時流行っていた曲などを選曲して、今でいうプレイリストを録音したMDを作って渡してくれた。
無印のノートには、彼女がラジオDJに扮していて、番組冒頭の挨拶みたいなメッセージと、選曲した全曲の歌詞が手書きで書かれていた。それぞれの歌詞の最後には、その曲の思い出や選曲の理由も面白おかしく書き添えてあった。
当時の私は、もちろん涙が出るほど嬉しかったが、それ以上にこんなおしゃれな贈り物ができる彼女の感性に衝撃を受けた。
もともと面白い子だった。スタイルが良くてボーイッシュで男子からも女子からも好かれて、ちょっとユニークでお茶目なところが大好きで憧れていた。やっぱり敵わないと思った。
彼女が作ってくれたプレイリストを紹介する。
1.LA・LA・LA LOVE SONG 久保田利伸
2.世界に一つだけの花 SMAP
3.カントリー・ロード (映画「耳をすませば」より)
4.友達の唄 ゆず
5.(同級生男子達が学祭で歌ったオリジナル曲)
6.Take A Look Around Limp bizkit
7.月のしずく RUI
8.ギブス 椎名林檎
9.Letters 宇多田ヒカル
10.月に負け犬 椎名林檎
11.誰も寝てはならぬ (歌劇「トゥーランドット」より)
12.ラブ・ストーリーは突然に 小田和正
13.I Don't Want to Miss a Thing AEROSMITH
意外と恋愛ドラマが好きだった彼女らしい選曲や、当時流行りまくってた曲、体育の授業で笑いすぎて涙流しながら作った創作ダンスの曲、彼女の好みと思い出が絶妙に融合したプレイリストだと思う。
この記事を書くにあたって久しぶりにノートを見返して、5曲目の同級生男子のオリジナル曲の存在を思い出して声を出して笑った。
学祭でバンド演奏した時に披露したオリジナル曲で、がっつりHIPHOPで歌詞もめちゃくちゃ尖っている。先生達をディスったり購買のおばちゃんが出てきたり。歌詞は結構イケてると思う。
CDを作って販売していたから、それを思い出の曲として加えてくれたのだ。そんなセンスも彼女らしい。
あの当時もケータイはあったし、卒業しても大学が休みになれば地元に帰ってくるのだから、会おうと思えばいくらでも会えたはずなのに、振り返るとその後彼女とは数回しか会う機会がなかった。どんなに仲良くしていても、ちょっとした環境の変化で疎遠になるのはよくある話だ。
MDを聴く手段がなくなってずいぶんと経つ。
ディスクは大切に取ってあるが、今はもう聴くことができない。
偶然、このプレイリストにある曲を耳にする時、ふと彼女のことを思い出す。
音楽をストリーミングで楽しむ時代になって、CDを買う機会さえほとんどなくなった。
ストリーミングの良さは聴きたい時に聴きたい曲をすぐ聴けることだ。
そうだ、今の私にはSpotifyがある。彼女の作ったプレイリストをいつでもすぐに復元可能なのだ。
さっそくSpotifyで非公開のプレイリストを作成した。聴きながら彼女のことや高校生の頃のことを思い出す。
同級生のオリジナル曲だけ復元できないのが心残りだ。存在を忘れていたくせに、聴けないとなると気になってきた。
「令和にMDを聴く方法」で検索しようと思う。
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